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風雲急。その1

接収したレーダー及び通信設備により、飛躍的にその方面の能力を伸ばした「にほん」であった。


そんな折、敵のものと思われる通信が、そここことなく飛び交っていることに気付くのであった。


それを通訳に翻訳させて得た情報によると、どうやら敵勢力圏の外輪部にあたるこの空域にも、敵の防衛システムの一つとしての索敵衛星が無数に配置されており、我々の動きが逐一報告されていたのであった。


捕虜から得た情報等とも照らし合わせてみると、どうやら皇帝らしきものが治める専制国家のようで、軍は軍で軍閥のようなものもあり、絶えず表に裏に調略や紛争が絶えない状況であったという。


そんな折に我々の存在を知った皇帝が、国をまとめるための道具として「にほん」を利用しようと画策したようである。確かに、専制国家の末期には、国が乱れてくるのであるが…「外敵」という共通の敵を作ることで案外一致団結してまとまるものである。



ただ、近いうちに大規模な遠征軍が編成されて、こちらに向かうとの動きも掴んでいた。


国の上層部も軍部も慌ただしくなってきていたが、敵の監視網に捕まっているので逃げることも出来ず、半ばあきらめムードも漂っていた。



軍部でも対策本部を立ち上げ軍議を重ねていた。


俺としては、出たとこ勝負と案外お気楽に構えていたのだが…


「このまま闇雲に逃げる事を考えるよりも、より有利な地勢を探しだし、そこで迎え撃てる状況を作り出すことこそ肝要と小官は考えます。」


もはや誰もが認める名参謀となった秋山が語り始めた。


「私は科学技術省の科学者や技術者の所に通いつめ、いくつかの実験にも参加して参りました。そして縮退炉を使ったワープ航法には、いくつかの制限があることに気づきました。」


巨大モニターに資料やらグラフやらを表示させ続けた。


「この宇宙空間にも一般的な海と同様に、凪のエリアや荒れたエリアが存在することは以前からの周知の事実でありましたが、この凪いでいるエリアにしかワームホールの出入り口を設定しえない事が判明いたしました。」



要するにこうである。


※数の不利を補うために、容易に包囲されない宙域を選択する事。


※ワープアウトしてくる場所が特定しやすい宙域である事。


※それら二つの要素を併せ持つ宙域を敵艦隊の出発までに見つけ出し移動する事。



この広くて不案内な宇宙でそんな事が…


「我々は既にいくつかの候補地を選定致しました。」


まあ、出来る人には出来るらしいね。



その候補地を巡っての議論も、ほぼ秋山の独断場となっていた。


ここ2~3日のうちに敵が動き出すなら、候補地・甲

4~7日であれば、候補地・乙

8~10日であれば、候補地・丙

それ以降であれば、候補地・丁


と言った具合に、矢継ぎ早に決まって行った。


―これはもう…あれだな。秋山が宇宙艦隊司令長官をやればいいんじゃね?



そういえば、ひと月ほど前に帰国させた捕虜達…


まあ、非民主的な政治的判断の前には一般人の安否など関係ないか。

多少は、相手方の態度も軟化するのではと思っていたが…



あれこれ思案に暮れ呆けていると、いつの間にか軍議も終了していた。


秋山がこちらを発見するやスッと近寄り、耳元で囁いてきた。


「今回は、かつてない程に大規模な攻勢に出てくるでしょうから…閣下にも存分に働いていただきますぞ。」



内心、楽にできるかもとの甘い考えを、一瞬で打ち消されたのだった。



ふうっ…とため息をついて帰路についた。




自宅に帰ってみると、何故か明かりがついていた。


―あれ?消し忘れてたか?


なんだかいい匂いもする。

というか、リビングの方で人影があくせく動き回っている…ような。



「どうやって、侵入したんだい?」


「ひゃっ!!」


脅かすつもりはなかったのだが、、、


あくせく動く影の正体は、麻生 楓花であった。


なんだか最近妙になつかれてしまっているのだ。

でも、勘違いするなよ。


決して嫌な気はしていないぞ。


「あ、閣下おかえりなさい。管理人さんに閣下のフィアンセです!って言ったらあっさり開けてくれましたよ。」


悪びれる様子も無く笑顔で答えた。


―俺は簡単に暗殺できそうな提督様の筆頭だな。


彼女は幼いころに両親を不慮の事故で亡くしたようで、歳の離れた俺をそれらと重ねているのだろうか?


でも、その情報を知っているからこそ…逆にどう対処していいか俺の脳では処理しきれない。


彼女の得意分野は、主にコンピューター関係であった。へたなSEなら舌を巻く程の知識をあの小さな頭…顔は小さいが、頭が小さい訳ではないのか。とにかくそっち方面のみは光るものを持っているのである。


それを生かしてこれまで様々な業務をしてもらった。

もはや私の秘書のような扱いになっている。


そして、本日…新たな発見。


「これ全部君が作ったのかい?すごくおいしいよ。」


そう、料理が上手なのである。


俺の食べている様子を、褒める言葉を、本当にうれしそうに受け入れている様子であった。



俺自身、学生の頃より天涯孤独のみであったため、妙に共鳴するとこもある。


そして、こんなほんわかした時間を本当に幸せだな。と感じていたのである。



身を固める。


そんなささやきも俺の中に幾度となく繰り返されてきていたが、今の関係が壊れてしまう事を恐れるあまり、感情ごと飲み込んできた。




このまま、この子とこういう空気のような関係も悪くない。


でも、家族って…


こんな感じなのだろうか…

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