改革。その2
科学技術省と文部科学省との会談にて、軍部は幾つかの提案をした。
科学技術省へは、軍部が考案した戦艦の作成依頼と既存の艦隊の改装である。
改装についての内容は次のとおりである。
既存の艦艇は、旗艦クラスで乗員500名程で通常戦艦クラスでも乗員300名、巡洋艦クラスで乗員200名程必要になっているのであるが、各種機能のオートメーション化を図り、最低でも半分の乗員で行動が可能にすること。更に無人での遠隔操作も可能になること。
今までの可動式の砲塔型レーザーから、同省にて開発済の艦埋め込み型の最大仰角45℃のレーザーに装備を変更すること。
これもまた同省が開発に成功した新型のレーダー及び通信システムに変更すること。
更に新型の縮退炉付き動力を開発完了と同時に変更すること。
新型戦艦については次のとおりである。
全長全幅高さ全てを縮小して機動力を増し、前方6門、側面それぞれ3門、上下共に2門のレーザーを完備し、レールガン2門を艦首、ミサイル発射管を上下に多数配置する。
艦種は、この一つのみである。そのため、生産ラインを確保し大量生産を可能にすること。
乗員は、一艦につき50名ほどに抑える。旗艦のみ通信設備を強化しているため70名とする。
細かい打ち合わせは、既にあらかた終わっているので、ほぼ確認業務であった。
次に文部科学省に対しては、解析した相手言語の情報を全艦のコンピューターにダウンロードすることと、通訳になり得る人材の提供であった。
さらに同席していた大統領には、これからの軍備についての調整をお願いすることになった。
艦隊の艦数を3万隻まで増やしていく予定であることと、それに伴う増員と宇宙港の大幅な改装案についてであった。
それぞれ、快諾いただいたところで会議は終了したのであった。
その後に軍部の方で、艦隊編成についての会議が連日催され、未だ張子の虎にすらなっていない宇宙艦隊の編成が発表された。
宇宙艦隊指令本部における司令長官と総参謀長はそのまま留任となり、ここでは実働部隊の編成のみの決定である。
主力艦隊(新造艦隊)30000隻
艦隊司令長官:高橋大将
参 謀 長 :東雲准将
参 謀 :山口大佐、下川中佐、秋山中佐、岡崎少佐
分艦隊司令 :田中少将、佐藤少将、佐竹少将、内山少将
留守居艦隊(旧艦隊及び元直掩艦隊)3300隻
艦隊司令 :和泉中将
参 謀 :原田少佐、滝口少佐
規模は大幅に増えるのであるが、相手言語の解析と共に鹵獲艦船のコンピューター内の情報も明るみになり、前回撃退した3万隻にも及ぶ大艦隊が、敵の十二個存在する艦隊の一つにすぎないことが分かった。
同時に内部事情も複雑で、内紛にまでは達していないが緊張状態が続いている関係上、大規模な討伐軍の派遣は困難であるように思えることも分かってきた。
なにはともあれ、長期にわたり俺を補佐してくれた秋山中佐が、主力艦隊の参謀に抜擢されて総旗艦に移乗することになったのは少しさみしい気もする。
「にほん」は、敵勢力圏からの離脱を第一に航行していた。
その間に新型エンジンと縮退炉の実験が繰り返され、ようやく配備に向けての準備が整ってきていた。
生産ラインは、順調に稼働して1日100隻単位で生産が可能となった。
途中で、資源を含む小惑星や無人惑星等にて資源の採掘を行いつつ、在庫資源の補充も同時に行われていった。
兵員の補充については、士官学校を始め通信士、砲術士、各種オペレーター、各種エンジニア等の養成学校のカリキュラムに実技訓練と称して実際に艦艇に乗船し軍事演習等に参加する時間を増やすことによって補う形をとった。
俺の指揮する留守居艦隊への武装と動力の変更も滞りなく終わり、日々宇宙空間での訓練に励んでいた。
そんなある日、一人の人物が俺の艦隊に加わったのであった。
麻生 楓花という若い女性であった。
かねてから文部科学省にお願いしていた相手国言語の通訳である。
彼女は、元々軍部の総務部からの派遣で捕虜の対応にあたっていたが、命令系統を一括する名目で文部科学省に出向の形をとっていた。いわゆる逆輸入である。
「和泉閣下、本日付けで当艦隊に配属されました麻生曹長であります!よろしくお願いいたします!」
背筋をピンと伸ばし緊張気味に楓花は言った。
「ご苦労様、どうかそんなに緊張しないで肩の力を抜いてくれたまえよ。」
コーヒーをすすりながら穏やかに言う俺を見ながら、彼女は少々戸惑い気味であった。
彼女の後述によれば、閣下と呼ばれる方は堅物であるはず…と思い込んでいたようである。
「君は、元々内勤希望だったのだろう?実戦部隊に配備されて…その、怖くはないのかい?」
「怖いです!でも配属先の中将さんは…あっ!し、失礼いたしました!中将閣下は運と実力に恵まれているから大丈夫だと言われております!」
「中将さんでいいよ。でも実力は元参謀のもので、俺には悪運だけしかないよ。」
クスクス笑いながら言った。
「えー!?で、でも留守居艦隊ですので…後方支援的な…感じで…すよね?」
「俺もそう願いたいがね…」
軍部の陣容が着々と進む中、宇宙軍病院付属研究所において、ある研究と実験が秘密裏に行われていたのであった。
捕虜たちのもつ不老の遺伝子を参考にした、動物実験である。
遺伝子操作は、いつの時代もタブー視されるため、国家容認の元でありながら研究員の家族にすら口外禁止のトップシークレットであった。
ゆくゆくは、人体による実験も計画される予定である。