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ホワイトノイズ  作者: 廿楽 亜久
第2楽章 奏者の庭
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02

 庭園は奏者のための学校のような場所だ。ただ建物は学校というよりも、ホテルのようで、外にはウィンリアでは珍しく緑豊かな庭がある。エントランスでカルラのことを呼び出してもらい、待っている間、ミスズは珍しそうに辺りを見渡し、フィーネはある方向の通路の方を見つめていた。


「あ」


 フィーネが手を振れば、その先にはカルラが手を振っていた。


「フィーネ! ミスズー!」


 走ってくるカルラは、白い箱を見ると一層目を輝かせた。


「ケーキ!?」

「うん。あ、ミドナさんとカシオさん? の分も入ってて……」

「じゃあ、二人呼んでくる!」


 またパタパタと走っていくカルラを見送ってから、すぐに新緑のような髪を持つ女性が歩いてきた。


「あ、ミドナさん!」

「久しぶり。珍しい組み合わせだな」

「友達のミスズです!」

「こんにちは」

「ミドナです。外のテーブルに行こうか」


 慣れたように、フィーネも庭に行けば、お茶ができそうなテーブルと椅子があった。そこにケーキを置くと、タイミングよくカルラと後ろにカシオがきた。

 そして、近づいてくるとカルラはティーポットをミドナに渡した。


「すごいだろー!」

「すごいな。助かったよ」

「えへへ……」


 嬉しそうにするカルラと、心配そうにこちらを伺うカシオにフィーネが首をかしげれば、


「ボク、どうして……」


 知り合いではないのだから、不思議に思うのは正しい。フィーネがコンナに会ったことを告げれば、嬉しそうに表情を崩した。


「そうだったんですか……お姉ちゃんが」

「「お姉ちゃん?」」


 兄弟だったのかと驚いて聞き返せば、カシオは慌てて手をバタバタとさせ、首を横に振る。


「違うよ。カシオ、なんでか、コンナのことお姉ちゃんって呼んでるの。本人の前だと呼ばないくせに」

「だ、だって……!」


 自分の艦長をお姉ちゃんなどと呼べるはずがない。


「まぁ、コンナさん、昔から結構くるから」


 ミドナが紅茶が入ったことを告げられ、テーブルを見れば、すでにケーキを並べ頬張っているフィーネの姿があった。


「早っ!!」

「あ、すっごいおいしい!」


 カルラもすぐに椅子に座り、食べ始め、ミスズたちもゆっくりとケーキに手を付けた。


「それじゃあ、カシオって同い年なんだ」

「あ、はい。そうですね」

「じゃあ、私が来てたのも知ってた?」

「え……来てたんですか?」

「うん! お姉ちゃんと一緒に、時々」


 それで道を知っていたのかと、納得していると、カシオは申し訳なさそうに眉を下げた。


「すみません……気づいてませんでした」

「フィーネ、お姉ちゃんいるの?」

「うん! フレイお姉ちゃん」

「フレイ……」


 思い当たることがあるのかカルラがミドナの方を見ると、すぐに頷いた。


「フレイの妹だったの!?」


 驚くカルラに、何も言わないがカシオも驚いているようだった。二人共、フレイという名前に心当たりがあるらしい。


「二人とも知ってるの?」

「うん! フレイくるとすっごいうるさいから、すぐわかるもん!」


 隣でなんども頷く頷くカシオに、フィーネはすぐに頭を下げた。


「ほんとにごめんなさい……」

「悪気があるわけじゃないんだし……」


 ミドナが苦笑いでフォローをいれていた。ミスズも何度か会ったことがあるが、確かにフィーネ以上にテンションが高い。


「ミドナー! 大好きー! って騒いでるし」

「か、カルラ……!」

「フィーネ…?」


 慌てるミドナと、小さくなって目を反らすフィーネにミスズが不思議そうに声をかければ、小さな声で、ミスズにだけ聞こえるように教えてくれた。

 フレイがミドナのことを好きだということを。


「……へ?」


 記憶が正しければフレイは女のはずだ。年だけで考えれば、ミドナと同い年くらいであろうが、


「え?」


 フィーネはもう一度頷いた。カシオとカルラだけが、首をかしげていたのだった。


***


 紙をめくる音が響く。


「ふむ……」


 ファイルを閉じると、そのまま手元に積み上がっていたファイルに乗せる。そして、あぐらの上に頬杖をつくと、それらをじっと見た。


「ちゃんと後で片付けといてよ?」

「わかってる」


 地面にあぐらをかきながら資料室の資料を読み漁っている、キャメリアの参謀であるクロスの周りに積み上がっているファイルを見て、一応注意だけはしておいた。あとで元の位置へ戻すことは分かっているが、テーブルに座って資料を開くジーニアスとはずいぶん違う。


「散乱させると余計わからなくない?」

「慣れだ」


 堂々とそう言い返してしまい、それに田舎臭いと言われれば、事実田舎生まれだと開き直ってしまうのだから、最早クロスの定位置は地べたになっていた。

 それ以前に、最年少で共鳴者となり、しかも超難関といわれる参謀試験に卒業と同時に受かるほどの天才であるクロスに、普通の人は大きな態度は取れなかった。だから、こんな人を馬鹿にしたような態度を取るのかと思えば、元々の気性らしい。


「コンナとはうまくいってる?」


 いくら天才とはいえ、性格が合わなければ必要とされないのが、世の中というものだ。それはここでも変わらない。クロスはこんな性格だからか、参謀の試験に合格直後だというのに艦長からの誘いは一切なかった。

 そんな時に、ちょうどある事情で参謀がいなかったコンナを紹介したのは、ジーニアスだった。


「あの脳筋戦闘狂には、甘いものでも目の前に垂らしておけばいい」

「仲いいみたいで良かったよ」


 今の調べものも、コンナから指示されていることはわかっていたが、それでも素直に仲がいいとは言わないクロスに笑っていれば、一瞬眉をひそめ、新しい資料に手を付けた。


「そういえば、お前のいとこがいたな」

「ミスズね。すごいでしょ? 初討伐で見事な戦果」

「あぁ、そうだな。まるで、地を這う者の群れに襲われたことがあるような」

「あるんじゃない? なんか、来たときに隠してるみたいだったし」

「聞いてないのか」

「なんか、妙に口が硬いっていうか……口止めされてるみたいだったから。無理に聞かなくてもいいかなって」


 本来ならば、聞くべきなのだろうが、ここでそれを咎める人はいないし


「下手につついて、蛇が出てきそうだしね。あそこは」

「?」


 不思議そうに初めて顔を上げて、ジーニアスを見たが、ジーニアスは首を横に振ると、


「何かわかったことある?」

「そうだな……お前のところの艦長が言ってたとおり、ここ最近の巣の発見頻度は上がってるな。併行作戦が行われている討伐は二、三個だが、近い日付と位置の討伐を含めれば、小規模が点々としているところに、近くに中規模といった形でいくつかの巣が同時に発見されることが多い。そっちは何かあったか?」


 ジーニアスが読んでいたのは、今回の討伐のすでに調査を終了した巣の調査結果だった。小規模の巣、超大規模の巣の結果だけだが、近い日付で調べてみれば、もういくつかの巣の討伐が行われていた。その中に、ひとつ変わった資料があった。


「おもしろい資料があるよ」

「ほぉ……」


 クロスが資料を閉じ、ジーニアスの方に近づけば、その資料をのぞき込んだ。


***


「砂竜がいなかった?」


 思わず聞き返すギリクにジーニアスはもう一度頷いた。


「間違いでも、逃げたわけでもなくてか?」

「うん。最初からいなかったみたい。しかも、指揮系統は砂竜がいるレベルで、黒玉もなし」


 ギリクにはただ事実だけを述べた。最初は、先入観を作らないようにしようというジーニアスの考えだった。背もたれに寄りかかり、考え込むギリクだがやがて、


「超大型にいた片方が、その砂竜がいなかった巣の砂竜だった……」

「本当に逢い引きだったりして」


 緊張感のないジーニアスを睨めば、肩を竦ませて小さくため息をついた。


「怒らないでよ……その可能性がゼロってことはないんだからさ」


 だが、すぐに真剣な表情で最も高い可能性を告げた。


「ただ、今まで発覚していた指揮系統の更に上が出来てる可能性がある」

「……個ではなく群か」


 巣一つ一つが今までは独立していたが、それが互いに連携を取る。できれば考えたくはない。


「本当に、人間に近くなってきてるね」


 町と町が互いに協力し、国を成し、地を這う者という敵を倒そうとしている。それは、今の巣の連携と似ていた。


「あぁ。それと、このこと上は薄々気づいてるんじゃないかな?作戦もうまく誤魔化すように、配備されてたし」

「あぁ。そうだろうな」

「あれ? 気づいてた?」

「コンナがさっき上官が何か隠してるみたいだから、警戒しといて損はないって言ってたからな」


 それを言われ、ようやくクロスが色々古い資料から新しい資料まで読み漁っていた理由がわかった。机に腰掛けると、小さく笑いをこぼす。


「本当に、コンナって戦果がなきゃ、上に嫌われるタイプだよね」

「それでも、キャメリアがあれだけの戦果を出してるのは、あいつの能力のおかげだろ」

「ははっ……そうだね。今は、優秀で気の合う参謀までいて、やりすぎないかってだけが心配かな?」

「それはお前が紹介したんだろうが……」


 ジーニアスがクロスに時折声をかける理由は、そういった理由もあった。そんな参謀にギリクは小さくため息をついたのだった。

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