表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホワイトノイズ  作者: 廿楽 亜久
第1楽章 討伐作戦
7/36

06

 妙にサラサラとした砂の上を歩く。すでに、地を這う者はいない。怪我人は治療を、他は仲間のせめて回収できる遺品を回収していた。


「チフスはまだよかった。両親に最後に顔を見せられる」

「……」


 否定してしたくても、できなかった。遺体の回収ができない人、損害が激しい人、その中でもチフスは“まだ”いい方だった。


「フィーネ……?」


 ミスズが心配そうに顔をのぞき込めば、フィーネは涙をこぼしていた。


「助け、られなかったっ……!」


 ミスズの袖をつかみ、涙をこぼすフィーネをそっと抱きしめた。昔、母にそうされたように、優しく頭を撫でる。

 しばらくしてから、泣き止むと頬の涙を拭いながら、礼を言う。


「ありがと、ミスズ」

「ううん。大丈夫?」

「うん。泣いてても、何も変わらないもんね……もっと強くならないと」


 グっと拳を強く握るフィーネと、それを安心したように見るミスズとユーリだったが、


「てめェ!!! マジでいい加減にしろよ!?」


 ギリクの怒鳴り声に驚いて、そっちを見れば、ギリクともう一人、女が立っていた。黒と赤のワンピースタイプの制服であるため、助けに来てくれた軍艦の人間であることは、ひと目でわかる。それに、左腕に装飾されている三本の太い縄は、その女が艦長であることを示していた。


「え、えーっと……」

「コンナ艦長だな」

「コンナ艦長……?」


 不思議そうな顔をするフィーネに、ユーリはため息をついて説明した。


「軍艦キャメリアの艦長だ」

「あぁ……」


 キャメリアといえば、泣く子も黙るといわれるウィンリア屈指の討伐部隊、しかも巣の殲滅専門の部隊だ。乗っている共鳴者は実力者ばかりで、筆頭騎士であってもあの船に乗ってしまえば、普通の戦力となってしまうと言われている。


「艦長、若い人なんだ……」


 そんな軍艦の艦長という程なのだから、艦長もベテランのもっと年齢は高いと思っていたが、見た目だけではギリクと同じ、もしくは下のようにも見えなくはない。


「それで、どうしたんだろ?」

「さぁ……」


 艦長同士の話し合いに入るわけにもいかず、周りから眺めているしかなかったのだった。

 その注目を集めていた二人はというと、


「真面目な話の最中に、変な話題入れてくんじゃねぇよ」

「変な話題って……別に、カルラちゃんいないかな? って話だろ」

「だから、なんてここにカルラが必要なんだよ!?」

「癒し」


 怒りも度を通り越し、ただため息をつくしかなかった。少しでも、意識を別のところにやろうと、周りを見れば、キャメリアの奏者である少年が、共鳴者たちに抱きつかれていた。抱きつくというよりも、抱えられるという感じだが。

 目が合ったからから、助けてという目で訴えかけられるが、おばさんパワー顔負けの力でかわいい子供とのスキンシップに割り込むことなどできない。しかたなく、視線を戻す。


「で、さっきいってた事情ってのはなんだったんだよ。お前が、逃がすなんて珍しいし」

「あー! それね! 聞いてよ!」


 妙に食いつきがよく、驚いて身構えてしまう。


「超大型の巣って話はしたじゃん」

「あ、あぁ……」


 砂竜のひとつの習性として、もし巣が破壊され、砂竜のみが残るような状況になった時、前に作った巣が残っていた場合その巣へ戻る。

 そのため、その付近の発見されていた巣を同時攻撃し、逃げ場を無くす作戦が取られていた。そして、その作戦は、超大型の巣へキャメリアともう一隻が参加し、まず砂竜が逃げることなどできないように行なっていた。


「確かに数も多いし、巣にも近づきにくいし大変だったんだけど……まさか、巣に二体砂竜がいると思わないじゃん」

「……二体?」

「二体。しかも、一匹がもう一匹逃がすために暴れてさ……逃げた先が巣が発見されてる方だし、アネモネだけで、なんとかなるところまで数減らして、一応数人置いてきて追ってきたってわけ」

「つまり、超大型ってよりも巣が2つ重なったってこと?」


 ジーニアスが聞けば、コンナは首を横に振った。


「それが、うちの参謀がいうには、巣が2つ重なったって感じじゃないらしいんだよ」

「ってことは……つがいかね?」

「やっぱりそう思う?」


 コンナも笑いながらそう言うが、ギリクだけは眉間にしわを寄せていた。


「前例はねぇぞ」

「だからって、否定する?」

「否定はしてないだろ。どっちにしたって、一度調査が入らない限りわからねぇんだ」


 地を這う者はわからないことが多い。故に、討伐が終わったあとは、調査隊が派遣される。詳しい調査結果が出てからでなくては、断定はできない。

 小さな耳鳴りのような音に、ミスズとフィーネは艦長たちの会話姿から目をそらし、その音のする方を見れば、先程助けてくれた男の方が、一際大きな砂の塊の前に屈み手を触れていた。


「気になるか?」

「ライルさん!」


 突然の声に驚いて振り返り、敬礼すればライルも少しだけ驚くと敬礼を返してくれた。


「お疲れさま」

「はい」


 戦果のことも被害のことも聞いており、フィーネの目元を見れば、先程まで泣いていたことはわかった。そのため、その話題にはあえて触れずに、先程二人が見ていた方向を見る。


「あれは何をしてるんですか?」

「砂竜の逆鱗を探してるんだ」

「砂竜の逆鱗?」


 砂竜を含め、地を這う者は倒せば、砂になってしまい、どこがどの部分だったのかなどわからなくなる。


「逆鱗だけは特別でな。砂にならないんだ。それに咆哮を響かせるために、逆鱗は共鳴するんだ。俺たちの使ってる共鳴武器のほとんどが、逆鱗を使ってるんだぞ」

「え!? これって、砂竜からできてるんですか!?」


 フィーネが驚いて、自分の剣や浮遊装置を見るが、鱗のような形跡はない。ミスズもそれをじっと見るが、どこからどう見ても、これが逆鱗から作られていると言われても信じられない。

 二人の不思議そうな顔に慌ててライルは、逆鱗から作っているが、あくまで逆鱗は音を響かせるために共鳴することができるというだけで、共鳴された音を増幅し、強度の確保のために、別の素材を特殊な技術で錬成しているのだと補足すれば、二人とも納得したような声をこぼした。


「さすがに量の確保もあるし、それに……」

「それに?」

「扱いが難しいんだ」


 奏者がそれをつけて音を増幅させることは問題ない。それ自体は、現在も行われている方法だ。しかし、共鳴者は奏者との相性が合わない限り、逆鱗全てをつけた武器を扱うことはできない。元々、聖なる音を発するようには体ができていないのだ。無理に合わない音を大きく響かせようとするなら、自分の体が傷つく。

 ちょうどその時、男が石のようなものを持ち上げていた。そして、ビンに入れるとこちらを見た。


「!」


 慌てて敬礼しようとするフィーネとミスズだったが、飛びついてきたそれに、敬礼はできなかった。


「二人共、おかえり!」

「ぇ……」

「ただいま」


 反射的に返したフィーネも、不思議そうな顔をしていた。だが、カルラからしてみれば無事に帰ってきてくれたのだ。その言葉が正しいのだろう。


「ただいま」


 ミスズも同じように返せば、カルラは満面の笑みを浮かべた。

 そんなカルラとミスズたちの様子をじっと見ていたコンナに、ギリクは警戒するように半歩カルラを庇うように立てば、コンナも気づいたようにギリクを見た。


「そんなに警戒しなくてもいいだろ」

「いや、する必要あるだろ」

「……」

「……」

「いいじゃん。かわいいものは愛でたくなる」

「黙れ。ロリコン」


 静かに戦う艦長達に気がつきながらも、ライルはカルラの周囲を一応警戒していた。時折、コンナの様子も見ながら。

 ミスズだけが、その違和感に気がつきながらも、カルラとフィーネの会話から離れることはしなかった。


「なぁ、ハグか頭なでるなら、どっちがいいかな?」

「ハグは却下だ」

「このお父さん厳しいな……」

「娘はかわいいからね」

「誰が、あんなクソガキ……!」


 言い返そうとした時、コンナがカルラに向かおうとするのが見え、すぐに体の向きを変えたが、その前にコンナの足を止める声がした。


「アネモネとの連絡ついたぞ。無事、向こうも終了だそうだ」

「参謀ならタイミング読め」

「いたいけな少女に変態が襲いかかろうとするのを止める、見事なタイミングだと思ったのだが」


 自信満々の笑みで言い切る参謀に、コンナは恨めしそう睨みながら、


「本部に作戦終了の報告。合わせて、アネモネに停泊所からの護衛が必要かを聞いてこい」

「了解した」


 そんな睨みすらも楽しげに返すと、船に戻っていった。すでにギリクの警戒が戻っており、カルラに近づくことすらできなそうだ。


「ところで最近、地を這う者が増えてるような気がするんだが」


 いきなりの話題に、コンナも驚きながらもここ数ヶ月のことを思い出してみるが、首をかしげた。


「そうか? 私はそれほど配属してから長くない。平均的なものをそう知らないからわからないんだが?」


 それは同期であるギリクも同じである。


「それにしても、最近、殲滅目的の出撃が多い気がしてな」


 感覚的に増えているような気がするだけで、明確な数ははっきりとはしない。しかし、それこそコンナにはわからない感覚だった。


「元々コンナは、殲滅専門の部隊だから、そんなに差はないかもしれないね。でも、確かに僕も出撃に関しては多いと思ってるよ」

「ジニーがいうなら、そうなのかもな」

「なんでジニーなら信じるんだよ」

「そりゃぁ、エリート参謀の意見は聞くさ」

「……」


 全く悪びれないコンナに最早呆れるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ