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ホワイトノイズ  作者: 廿楽 亜久
第7楽章 大凶鳴

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06

 庭園に住む奏者は、そのほとんどがまだ二十歳にもならない子供ばかり。そのため、庭園の電気が落ちるのは早い。明日の作戦のこともあり、ほぼ全員の奏者がすでに布団に入っていた。


「?」


 何かの音に、カシオは布団から体を起こすが、ほかの子供たちはすっかり夢の中らしい。隣で眠るカルラも、起きる気配はない。しかし、やはり何か近くにいるような気がして、視線を巡らせれば、ひとつ空いている布団。


「ミドナさん……?」


 別にミドナがいないことについては不思議ではなかった。一緒の時間に布団に入らないことはよくあるし、人に呼ばれたり、それこそほかの子供にトイレに付き合ってもらうため起こされたりもすることもある。

 明日は大規模な作戦だ。ミドナの友人には幹部も多い。もしかしたら、その人たちが最後になるかも、と会いに来たのかもしれない。カシオは、もう一度布団に横になると、目を閉じた。


「コンナ艦長」


 それはたまたまキャメリアの調整を手伝いに行ったときのことだった。コンナが呼ばれ、なにかと目を向ければ、上官の副官。


「奏者のことなのですが」


 その言葉で、カシオもコンナもすぐに察しが付いた。カシオは奏者の中での序列は低い。中の下といったところ。黒竜と戦うのであれば、奏者の能力は高いほうがいい。つまり、今作戦だけでも奏者を変えないかという話だ。


「……」


 静かに歯を噛み締めるカシオに、護衛として一緒にいたジルも眉を下げたが、すぐにその頬を緩め、肩に手を置く。


「アンタはどうしたいんだい? カシオ」

「ぇ……?」

「案外うちの艦長は甘いからねぇ。ちゃんと言わなきゃ、行動に示さなきゃ、あの人は置いていっちまうよ」


 憧れだった。時々、庭園に顔を見せに来るお姉ちゃんが。

 新しい船の艦長だと紹介された時は、すごく、嬉しかったんだ。


「あの、僕でも謡の力は落ちませんか?」


 気が付けば、副官に聞いていた。驚いて目を見開いていたものの、すぐに確認すると、少し変動はあるものの、大きく下がることはないと、そう返される。


「じゃあ、奏者はカシオのままでいい。馴染みのある声の方が、あいつらも安心するだろうしな」


 心が大きく跳ねた。

 副官が頷いて帰っていったあと、コンナはカシオを見ると笑った。


「じゃ、頼むよ。カシオ」

「うん!」


 思わず出た大きな声に、周りの人が不思議そうにこちらを見ていた。

 カシオが眠りについた頃、庭園の外では白銀の髪を隠した少女が、新緑のような髪を持つ女に声をかけられ、小さく悲鳴を上げていた。


「いや、呼んだのはそっちだろ……」

「ご、ごめん……びっくりしちゃって」

「まったく……もうみんな寝てるんだ。静かにな」

「はーい。早いんだね」

「まぁな」


 柵を挟んで、ミドナとシリカは向かい合う。かつても同じように柵の外と内から話をしたことがあった。外には自然がいっぱいあるのだとか、見渡す限りの砂海ではなく、見渡す限りの木に囲まれた森があるとか。

 外にはこんなきれいな音を奏でる人がいるのかと、初めて会った時には興奮して騒ぎすぎて、先生たちにすぐに見つかってしまった。

 あの時は、外の話を聞くのが楽しかった。ミドナの話を聞きに来るのが好きだった。だから、またここに来た。


「ごめんなさい」


 柵越しに突然頭を下げられ、ミドナも驚いて目を丸くする。


「本当は、アタシひとりでなんとかするつもりだったんだ。だけど」


 巻き込むつもりはなかった。だから、ちゃんと謝りたかった。

 頭を下げたままのシリカに、ミドナは小さく笑うと、柵の隙間から手を伸ばす。


「気にしなくていい」


 伸ばした手で、下げられたシリカの頭を撫でた。


「この戦いはきっとずっと前から決まってたんだ。そのために私は……いや、ヒスイが産まれた。世界を守るため」

「……ヒスイって、ミドナお姉ちゃんみたいな髪の子?」

「あぁ。会ったのか?」

「会ったよ。役目、役目って、お姉ちゃんみたいだった」


 自分の思いなんて何もなくて、どこかに連れ出そうとしても鎖につながれたように動かない、人なのに人ではないような人。


「でも、前にあった時はちょっと違ったかな」

「そう。きっと、ヒスイにも私たちのところにも来てくれた、太陽みたいな人が来たんじゃないか?」


 それはかつて、ランスロットと出会ったときにシリカが言った言葉だった。顔を真っ赤にさせたシリカをおかしそうに笑うと、ミドナは柵を背に寄りかかると座った。


「み、ミドナお姉ちゃんにもきた?」

「太陽みたいな王子さま?」

「ちがぁう!!!」


 真っ赤な顔のシリカをからかいながら、頭に浮かんだのは、三人。しかし、すぐに苦笑に変わった。


「太陽かぁ……知恵の輪をなにも絡んでなんていないって言い張りそうな奴と、チェーンソーみたいに壊していきそうなのと、全部溶かして解いていきそうなのだなぁ」

「なにそれ……」

「友達」

「……ほ、本当に?」

「本当に。大事な友達だよ」

 

 納得していなさそうだが、近づいてきた気配に、シリカは慌てて身を低くする。先生や軍人に見つかればめんどうごとになるのは目に見えている。


「あ、あのね! 本当にありがとう。ちゃんとそれ言いたかったの。それじゃあね! おやすみ」

「あ、あぁ。おやすみ」


 足早に走っていったシリカに、ミドナも少し驚くものの、息を吐き出すとその気配の方へ目をやった。


「ありがとうなんて、私だって護りたいから戦うんだ。それが運命なら、その運命にも感謝するさ」


***


 作戦も決まり、ギリク、コンナ、ライル、ジーニアスの四人は夜の街を一緒に歩いていた。


「いやー終わってよかった」

「これからだろうが」

「フレイの乱入には驚いたね」


 今思い出しても、ギリクとライルは頬がひきつる。すでにジーニアスとコンナは笑い話程度になっているようだが。


「もし黒竜が倒せたとして、今後も出てくるのだろうか……」

「さぁね。それはわからないよ」


 今回も黒竜が現れた原因はわかってはいない。黒竜を倒せば、全ての地を這う者(レジスター)がいなくなるかもしれないという仮説もでているし、そうじゃないかもしれない。地を這う者と同じ。何も分かってはいないのだ。


「出てきたらまた倒すだけだ。じゃなきゃ、誰かがまた悲しむ」


 真面目なギリクらしい答えに、ライルもジーニアスも安心して頬をほころばせていれば、一人めんどくさそうな表情をした人物がいた。コンナだ。


「やっぱ、お前とは一生、意見が合う気がしない」

「んなもん最初から分かったんだろ」


 つくづくギリクとコンナは物事の考え方が正反対だ。だが、反対であってもたどり着く結果は同じだった。


「理念はともかく……倒せばいいんだよ。倒せば」

「脳筋」


 今はいないクロスの代わりにジーニアスが言えば、コンナに睨まれ逃げるように道を曲がった。ギリクも同じ方向に曲がり、自然とライルとコンナの二人になる。


「夜も遅い。家まで送ろう」

「お前は早く明日に備えて休んだら?」

「コンナを送ったとしても、それほど帰宅時間に差はない。こんなところでキャメリアの艦長の身になにかあったほうが問題だろう?」

「運がいいから不良に絡まれないし、ムキムキのマッチョでもない限り、勝てる自信もあるんだけどなぁ」


コンナの住むマンションに着くと、礼を言ってエントランスの扉に触れたがすぐに振り返ると、ライルは少し不思議そうに首をかしげる。


「どうかしたか?」


 なにか用でも残っていたかとライルが聞けば、コンナは内ポケットから石のお守りを取り出し、ライルに放り投げた。驚きながらもそれを受け取れば、前に見たお守りとは少し模様が違う。


「あげる」

「え!?」

「ライル、運悪いから。私の幸運を分けてあげる」


 お守りの球形の石の中心には穴が開き、そこから長い紐が通され、首にかけられるようになっていた。それはかつて兄が自分を護るために押し付けてきたお守りだった。


「それじゃあ、おやすみ」

「ありがとう。コンナ。おやすみ」


 扉の中に入ったコンナを見送ると、ライルもそのお守りを握り締め、帰路についた。


***


 ドックの中、アネリアは小さくため息をもらした。


「元気がないようですね」

「半分はアンタのせいよ」

「そうですか。それはすみません」


 全く悪びれていない様子ではあるが、それに文句を言う気はなかった。


「アンタはあれでよかったの? 全部捨てて、あの小さなお姫様のために罪を背負って」

「よかったんですよ。元々私は艦長であり続けるのは無理でしたから。仲間の死の重圧に比べれば、あんな罪なんて軽いもんですよ」

「艦長ってよりも、ただの騎士ね」


 一人の少女のために、全てを捨て、少女を護り、その願いを叶える騎士。

 ランスロットには艦長という肩書きよりもずっとそちらの方が似合っていた。


「ちょっと憧れるわねぇ……」


 頬に手を当て思いを馳せるアネリアに、ずっと気になっていたことをようやく聞くことができた。


「その性格、ずいぶんオープンにしたんですね。前は隠してたのに」

「うっさいわよ! これで変じゃないって言ってくれた子がいたのよ」

「そりゃまた変わった子ですね」

「これでも結構人気あるのよ? アタシ」


 実際に、若い女子に人気があり、教育課程で講義の手伝いをすると色々話をしたりすることもある。

 それを聞いたランスロットは、女子ってのは全く理解できないものだとこぼした。


***


「夜の散歩中に地べたに座って一休みか? 疲れたなら布団に入って休めばいいだろ。それともなんだ? 部屋ではこいつのように世界の終わりだと泣いてる奴らが多すぎたか?」


 夜だというのに、元気なことだ。

 小さくため息をつくと、顔を真っ赤にさせている女へと目を向けた。


「な、泣いてないもん! 泣いてないよね! 私!」


 小走りで駆け寄ってくるキャロルは、ミドナの前へ座ると、目を見せつけるように見上げてる。こぼれ落ちそうなその目は、確かに潤んでいて、泣いているかいないかといえば、微妙なところだった。


「ミドナァ!?」

「そら見ろ。無言は肯定だ。おめでとう! 泣き虫め!」

「全然めでたくない!!」

「二人共、みんな寝てるからもう少し静かに……」


 ミドナの注意に素直に頷いたのはキャロルだけで、クロスは返事をすることはなく、二人の前に座った。


「それにしてもどうしたんだ? こんな時間に」


 聞けば、作戦を耳にしたキャロルが、いても立ってもいられなくなり、ドックの近くで知り合いの顔を探しては、邪魔になるのではないかと声をかけられず、この時間までまごついていたそうだ。

 つい先ほど、クロスが帰り際見つけ連れてきたそうだ。


「前のようにひと目も気にせず、ピーピー泣けばよかったじゃないか」


 少し前にグラジオラスが帰ってきた時は、ひと目もはばからず泣き、周りの人も驚き、遠巻きに様子を見ていた。あの時は、ギリクの邪魔になるなんてこと考える余裕はなかったものの、今回は違う。


「あ、あの時は! だって……クロスは待ってるしかできない人の気持ちわからないから!」


 苦しくて不安で、その姿を見るまでずっと心が晴れなくて、信じているのに隙を見せれば不安が顔を出して、早くその手を、温もりを感じたい。それでしか安心できない。


「わかるわけないだろ。俺は俺の気持ちしかわからない。むしろ、お前は帰ってきたら大泣きされると分かっていながら、帰還する奴の気持ちはわからないだろ」

「ぇ」

「ひどい顔をしてたぞ」


 それが誰のことか気がつくと、キャロルは顔を真っ赤にさせると、クロスのことを殴った。その拳は、あまりに非力で、武闘派ではないクロスであっても全く痛くなかった。


「だいたい! みんなおかしいよ! なんであんな怖い思いしにいくの!? 死んじゃうかもしれないんだよ!? フレイだって……!」

「キャロを守るため、じゃないか?」

「ぇ……」

「お前はフレイだとばかり思っていたが、実はキャロ派だったか? ハーレム志望の二股でもいいが」

「なんでそうなるんだ……」


 変わらないクロスにため息がもれるが、こちらを見つめるキャロルに目を向けると、そっと微笑んだ。


「怖いとかそういうのよりも、キャロとかフレイが生きててくれる方がずっと嬉しいし、幸せなんだよ。だからさ、泣かないで」


 キャロルの手を取れば、不思議そうに見開いていた目をゆっくりと細めると、笑って頷いた。


「待ってる……ちゃんと、帰ってくるの待ってるから」

「……俺は無視か?」

「なんか入れる気がなくなったんだよ。というか、死ななそうだし。クロスって」

「死ぬぞ。簡単に、さっくりと。蚊を殺すより簡単だ」

「……クロス、意外にさみしがり屋?」

「かもな」


 二人は目を合わせると、クロスの様子におかしそうに笑った。


***


 王宮では、王立騎士団団長からのプレッシャーが部屋にいる人間にかけられていた。ほとんどの者が顔ふ伏せ、視線を合わせないようにする中、たった一人、顔をあげたまま苦笑いをしている女がいた。


「わかっているのか? フレイ」

「わかってます。はい」

「我々王立騎士団は、あの男には協力しない。それは王への忠誠でもあり、まして貴様は近衛兵だ。身の振り方をわきまえなければ、姫君にも迷惑がおよぶ」

「姫君には、すでに許可を。それでも許されぬというのなら、今この場でこの服を脱ぎ、騎士団を抜けます」

「それだけの覚悟も、才能も技量も持っていて、何故」

「私が私であるからです!」


 説教だとわかっていないのか、場違いなほどの笑顔を見せるフレイヤに、団長は長い溜息をつく他なかった。どうすれば、彼女は止められるのだろうか。王立騎士団としての誇り、それを彼女はいともたやすく捨てようとしている。

 どれほどの共鳴者がこの服に憧れ、才能に恵まれず挫折する中、この服を着ることが許されたのは、血筋を持った者か、いとも簡単に捨てられる覚悟のある者。

 だからだろうか。あの姫君の笑顔を取り戻すことができたのは。


「フレイヤ。シルヴィア様がお呼びだ」


 フレイヤが玉座に向かえば、シルヴィアは柔らかい笑みと共に、その手に美しい新緑のような緑の宝石で刀身が作られた細身の剣を抱いていた。


「フレイヤ。傍に。貴方にこれを与えるわ。我が家系に受け継がれてきた宝剣。リンネより作り出したといわれるものよ」

「え、そんな大事なもの……」

「貴方はこのウィンリア、世界を護るために戦うと言った。ならば、この剣を携えるのは不思議ではないわ。あの時の話を覚えてる?」


 このウィンリアの王の秘密。フレイヤが頷けば、シルヴィアは安心したように頬を綻ばせたが、その目には少しだけ悲しみが写る。


「貴方ひとりに背負わせてしまうことになってしまうわね。ごめんなさい」

「……いいんですよ。私の方こそ、こんな……ありがとうございます」


 シルヴィアが差し出すその剣に、フレイヤは一度手を出すことをためらうと、


「この剣で、神子様を……フレイの友達も家族も、みんなを護って」


 小声で囁かれたその言葉に、フレイヤは力強く頷くと、その剣を手にとった。


***


 路地裏からそっと道の様子をうかがえば、制服を着た大人。警備隊だ。それに共鳴者もいる。フードで顔を隠している子供なんて目立つし、かといってフードを取ったら別の意味で目立つ。どうしようかと壁を背に考えていれば、角からのぞき込む黒い服に身を包んだ男。


「……」


 見下ろす目は呆れているようで、鋭い目付きに加えて眉もひそめ、加えて夜の暗がり、シリカが青い顔をして声を上げようとした瞬間、口をふさがれた。


「んーーっ!?」

「いや、困るのそっちだろ!?」


 男は人差し指を口元にもっていき、静かにしろと伝えると、目だけで後ろの様子も確認する。

 バレてはいないらしい。こんな状況見られた日には、いろいろと面倒事になる。叫ぶのをやめたシリカに少しだけ安心していれば、口を抑えていた手が掴まれ、シリカは一歩後ろに下がると少し潤んだ目で男を睨みつけていた。


「なにするの! って、あなた……スレイ……?」


 その人物がスレイだと気づくと、睨んでいたはずの目は、困惑に揺れ、掴んだ手はゆっくりと離れていく。


「あ、その……怒ってる?」

「突然来て無茶な作戦立てたことか?」

「そ、それもそうだけど……」

「黒竜のこと知ってたなら、被害増やす前に来いよって話か?」

「それはランスロットが、お堅い連中には少し痛い目みないとわかりませんからって言ったからで」

「他は……あの、クソ船長に怒ることなんざ、多すぎて絞りきれねぇな……」

「そうじゃなくて! ランスロットはあなたの船長だったんでしょ!?」


 思わず出た大声に、さすがに警備隊もこちらに気づいたらしく足音がこちらに向かってくる。


「とりあえず、逃げるか」


 こっちだ。と、シリカの腕をつかむと、路地裏の奥へと走り去った。

 警備隊を撒くと、スレイはシリカの腕を離し、少し前を歩く。


「船に戻るんだろ? 送ってく」

「一人で帰れるもん」

「あの調子じゃ朝になる。いーから、ガキは早く帰って寝ろ」

「アーチみたいなこといって……」


 それでも、船はスレイの歩く方向にある。自然とスレイについていくことになる。


「……ランスロット、たまにあなたのことを話すの。悪いことをしたって。今回も巻き込んじゃったし……前だって、アタシのせいで――」

「別に怒っちゃいねェよ。お前も、あいつも、自分で決めて、自分でやったことだ」

「でも!」

「なんだよ? なにか詫びできるのか?」


 振り返ってニヒルに笑ったスレイに、言葉を詰まらせたのはシリカの方だった。なにかできるものも、与えられるものもなにもない。

 うつむいたまま服の裾を握りしめるシリカに、スレイは笑みを消すと、ため息を共に前を向くとまた一歩足を出した。


「怒るとか許すとかじゃねェから、お前が気にすんな。なんなら帰ってからあいつに聞いてみろ。俺に謝るか? って。ぜってェ、謝る気はないです。って言いやがるから」

「……」


 少しだけ、確かにいいそうと思ってしまったシリカは、慌てて離れたスレイとの距離を縮めようと少し走った。


「アタシより、ずっとランスロットのこと知ってるんだね」

「年だ。年。14からの仲だぞ。お前がもう十年、あいつに振り回されれば俺以上にわかるようになるさ」

「振り回される、か」


 十年もあれば、もっとたくさんの町を見て回れる。たくさんの人に出会って、友達になれる。


「ねぇ、スレイは今の艦長のこと、好き? ランスロットとどっちの方が、好き……?」


 その言葉にスレイは足を止めて、シリカを見れば、じっと見上げこちらを見つめるふたつの目。


「もし、ランスロットの方が好きなら、アタシたちの船に乗らない?」

「……あぁ、そういうことか。お前、そういう勧誘よくするのか?」

「しないよ。でも、スレイがくればランスロットもあなたも、きっと昔みたいに戻れると思ったの。だから……」


 一度大きくため息をつくと、頭をかいた。

 過去には戻れないし、戻る気もない。あの船に乗っているのは友人であって、自分の艦長ではない。


「遠慮しとく。今の船も居心地いいからな。それに、子供は前を見て歩け、後ろを見るのは迎えが来る前のジジババがやることだ。って聞いたことあるだろ」

「ない」

「だろうな」

「……なにそれ」


 訝しげに見つめるシリカの視線を無視しながら、スレイはシリカの頭に手をやった。


「気にすんな。こんなの気にしてたら、ランスと会話で寝込むぞ」


 乱暴に頭を撫でると、シリカから手を離し、一人で歩き出す。すでにドックは目の前。警備している軍人が入口に立っていた。

 そこに声をかけながら向かえば、後ろ手に行けとジェスチャー。


「……わかってるもん。そんなの…………ありがとう」


 言葉が聞こえたのかはわからないが、スレイは口端を少し上げると、中へ走っていく気配を見送った。


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