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ホワイトノイズ  作者: 廿楽 亜久
第4楽章 砂に潜む影
16/36

02

 荷物の運び入れが忙しなく行われ、ドックはいつも以上に騒がしかった。フィーネたちが事情を聞こうにも、手の空いている人などいない。


「あ゛……」


 そんなフィーネたちをソフィアがたまたま見つけてしまい、声を漏らせばアネリアもそちらを見て「あら……」と声を漏らした。


「聞きつけて来ちゃったのね……」


 それが自分のせいだとわかっているからかソフィアは声をかけるか迷ったが、ちょうど入口からコンナがやってきてフィーネたちと顔を合わせていた。


「なんだ。来てたのか」


 キャメリアの艦長の登場に驚きながらもグラジオラスのことを聞けば、なんとも言えない表情をする。その表情から状況は悪いのかと、ミスズが表情を曇らせると、コンナは慌てて訂正をした。


「いや、私も要点しか聞いてないんだ。といっても、あいつら簡単に死なないから安心しろって」


 ミスズの表情はやはり曇っていて、コンナもどうするかと頭をかいてしまう。


「救援はキャメリアが?」


 そんな時、助け舟なのかはわからないが、意外そうにユーリがそんな質問をした。通常の救援であれば、討伐専門のキャメリアが出るようなことはない。

 つまり、何かがあるということになる。その何かに考えられるのはひとつだけだ。


「砂竜がいるんだろうなぁ……」


 うれしいのか、めんどくさいのかよくわからない表情で呟くコンナに近づいてくる人影があった。その人影、アネリアに目を向ければ軽く手を振られる。


「遅かったわね。それに眠そう」

「いや、まぁ、ちょっといろいろ……うちの優秀な参謀がちゃんと準備してくれてるだろ?」

「してるわよ。文句は言ってたけど」

「あいつは、文句言わなきゃ生きていけない体質だから仕方ない」


 アネリアの言葉使いに唖然としているズルダだけで、他は全く気にしていないようだ。


「それから……はいこれ」


 コンナからユーリに放られた紙を広げてみれば、一時増援として救援部隊に配属される旨が書かれていた。


「あらま……」

「前の功績が高く評価されたらしい。船は好きな方に乗れ」


 アネリアの許可は取っていないはずだが、どうせ拒否しないことはわかっている。それだけ告げると、コンナはアネリアと共に、参謀たちがいる場所へ歩いていってしまった。


「させた、の間違いじゃなくて?」

「されてはいた。あとは、ただの願掛け」


 数秒後、残された四人はようやく状況を理解すると、フィーネが大きな声を出しながら驚き、ミスズもユーリも何も言わないが、驚いた様子で目を見開いていた。ただズルダ一人だけ、今だに状況を理解しきっていなかった。


「ドッキリとかじゃなくて!?」

「みたいだな……」

「ど、どういうことだ?」

「だから、救援部隊に一時的に配属されて、キャメリアかアネモネに乗るの!」


 フィーネが要点だけを言えば、ようやく分かったようで数テンポ遅れながらも驚いていた。その間に、ミスズとユーリはどちらの船に乗るかという話に進んでいた。

 どちらに乗っても、役割が大きく変わることはないだろうし、おそらく状況によってどちらの船にも移動することもあるだろう。


「リーダーは、キャメリアに乗りたいよね?」

「……あぁ」

「じゃあ、そっちでいいんじゃない?」

「俺はどっちでもいいしな」

「ここで考え込んでるほうが悪いし。そうしよう」


 四人はキャメリアに乗ることに決め、各自共鳴武器を受け取りに向かった。


***


 コンナが大あくびをすれば、キャメリアの筆頭騎士であるジルが小さく笑う。


「なんだい。眠そうじゃないか」

「本当は今日、休暇だったんだよ? 少しくらい夜更しするでしょ……」


 少しの夜更しが徹夜だということは、スレイ以外には気づかれることもなく、その会話を聞いていた周りの人も笑って話を聞いていた。


「そりゃ、災難だったね。子供の夜泣きに起こされた日を思い出すよ……」

「お母さんは大変だねぇ」

「でもかわいいのさ。最近は、夜のトイレが怖いから付いてきてって、時々起こされるんだよ」

「電気を消して、隠れて驚かせるの?」

「最低だね……アンタ」


 割と本気でジルに言われたが、実際兄弟にそれをされたことがあるという人が現れ、その時の恐怖体験を半分聞きながら、半分寝ていた。


「……」


 軽く肩を叩かれ、虚ろんでいた意識を戻してジルに何も言わずに礼を伝えれば、軽く微笑まれた。どうやら、もうすぐ到着らしい。

 グラジオラスからの救援信号がでている地点から最も近い基地のある街、イレンツが近づいてくるとアネモネからこの周囲の確認をしてから街に入るとの旨の通信が入った。

 イレンツの停泊地は、既に準備は整っていた。


「場所の特定は出来ましたか?」


 コンナが部屋に入って早々にそう聞けば、ここの管理を任されてる司令官は首を横に振った。


「それが、ノイズがひどく……探査艇をだそうにも地を這う者 (レジスター)の襲撃を受け……」

「信号はまだ出ているのか?」

「定期的に。最後は、今から15分前ですね。しかし、移動をしてるのか、ノイズの影響なのか、一番大きな波長を捉えた場所が信号のたびに変わっていまして……」


 普通なら、信号弾は一定の場所から上げる。そのほうが、早く見つかる可能性があるからだ。


「あいつらも気づいてはいるんだな」

「気づいているとは?」


 驚いた表情でコンナとクロスを見るイレンツの司令官に、二人はまさかとは思い、ゆっくりと目を合せた。

 ミスズたちは補給などを手伝っていたのだが、それほど長い航海してないため、すぐにやることはなくなってしまい邪魔にならない場所にいれば、カシオが走ってきた。

 後ろには剣ではあるが、ミスズの剣とは違い反りがあり、細身の刀を携えた女性がいた。


「カシオ!」


 フィーネが手を振れば、息を軽く切らせながらしっかりと頭を下げて挨拶を返された。


「え、えっと……」

「あ、リーダーのユーリとズルダだよ」

「は、初めまして! カシオです」


 ちゃんと返事を返したのはユーリだけで、ズルダは「おう……」と相槌のようなものしか返していなかった。


「カルラちゃん……大丈夫かな……」


 誰も、すぐには大丈夫とは言えなかった。ただでさえ、救難信号というだけで生存率は低いというのに、キャメリアが出るような状況だ。誰も、安易には答えられなかった。

 しかし、それを答えたのは、ミスズだった。


「大丈夫だよ。きっと」

「ミスズ……」


 自らもいとこであるジーニアスも大丈夫だと思うためなのか。しかし、それでもカシオを少しでも安心させようとするミスズに、フィーネもできる限り元気よく大丈夫だと言おうとした瞬間、ミスズの背中が軽く叩かれた。


「バカね。助けるために来たのよ? ただ討伐しにきたわけじゃないんだから」

「アネリア艦長……」


 ミスズとカシオに余裕そうにウィンクをした。


「それに、いい男はそう簡単に死ぬもんじゃないわよ」

「いい男?」

「ギリクよ。ギ・リ・ク」


 その場にいた全員が一瞬で硬直した。ちょっとした冗談のつもりなのかとも思ったが、冗談の空気がない。


「そうですね!!」

「そこで同意すんのかよ!?」


 フィーネが混乱しながらも同意したのに対し、ズルダがどうにか突っ込みをいれたものの、他は触れないのが吉とみたらしい。


「護衛は君一人なのですか?」


 咳払いをしてから、アネモネの参謀であるクラウドがカシオの後ろにいた女、ナギに聞けば表情を変えずに「はい」と短く答えた。


「筆頭騎士ではない人間が一人で護衛とは……」


 クラウドがため息混じりに言っている間にも、ナギの目が微かに細くなる。それにアネリアが気づいたようでクラウドを手で制すると、クラウドもそれ以上のことは言わなかった。

 表情こそあまり変わらないが、感情の起伏は激しいようだ。少なくとも、戦闘狂が集まると言われているキャメリアに乗っているのだから、好戦的ではあるのだろう。


「そんな! まさか!?」


 突然、億の部屋から聞こえてきた声に、アネリアは困ったように頬に手を当てため息をついた。


「まだ何か問題があったのかしら……」


 アネリアたちは声の聞こえた方へ、早足で向かっていった。


「何だったんだ……? 今の」

「さぁ……」


 全員で首をかしげていると、また新たな足音が近づいてくる。フィーネがその足音に目を向ければ、そこには大きな体をした男が立っていた。


「デカッ!!」


 服の上からでもはっきりとわかる筋肉、身長も頭一つどころか二つは抜きん出ている。子供が初めて見たら、泣いてしまいそうなほどのコワモテで、実際カシオも少し涙目になっていた。


「フィーネたちがどうしてここにいるんだ?」


 しかし、聞こえてきた声はその体からは想像できないような透き通った女性の声。


「おーい……?」

「あ、ミドナさん!!」


 その大きな体のインパクトで見えていなかったが、先程の声はミドナの声だったらしい。フィーネが安心したように息をついていると、ミドナもフィーネの考えていたことが想像できたのか、なんとも言えない表情を向けていた。


「それで、なんでフィーネたちがここにいるんだ?」

「救援の手伝いです!」

「確かに、救援部隊に1チーム派遣されるとありました」

「やっぱり、そういう声だよね」

「フィーネ」


 男の声にフィーネが安心していると、ミスズから静かにたしなめられた。


「アネモネの筆頭騎士、ガイナスと申します。先の討伐での活躍は聞いています。共に全力を尽くしましょう」


 差し出された手に、フィーネが慌ててユーリを見たがすぐに手をだし、握手を交わした。


「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします。え、えっと……フィーネです。リーダーはこっちのユーリなんですが……」

「これは失礼いたしました。ユーリ殿」


 そういって、柔和な笑みでユーリとも握手を交わしている。そして、カシオの方を向くと、カシオは少し息を詰まらせていた。


「お初にお目にかかります。カシオ殿。怖がらせてしまって、申し訳ない」

「い、いえ!!」


 その声すらも上擦っている。それに耐え切れなかったのは、もちろんフィーネだ。


「カシオ、怖がりすぎ!!」

「フィーネ……あんまり笑うのは」


 しかし、ツボに入ってしまったのか、腹を抱えて笑ってしまっている。ミスズが止めるが、それをやんわりと止めたのはガイナスだった。


「自分の容姿は理解しているつもりです。怖がられてしまっても、仕方がありません」

「でも……」


 フィーネは笑いながら、カシオの背後に回ると、ガイナスの方に押し出した。


「ほーら! こんなにいい人なのに、怖がってちゃダメだってー!」

「ぇ……あ、えっと……初めまして」


 突然のことに慌てながらも、ほらほらと笑顔で背中を押し続けるフィーネに、少しだけ和んだのか小さな声ではあったが、カシオが頭を下げてた。


「こうして笑顔に変えてしまえるなんて、彼女は素晴らしい才能を持っていますね」

「いや、アレ単純にバカなんスよ」


 ズルダが一応訂正したが、ガイナスにはそれもただの仲間からの戯れ程度にしか思えないらしい。


***


 作戦会議が開かれている部屋では、司令官以外が苦い表情をしていた。それも仕方がないとも言える。

なんせ、砂竜がこの付近に存在していることに気づいていなかったのだから。


「このノイズで、砂竜がいないと思うとは……」

「で、ですが! このイレンツは襲われたことはなく! 探査艇を出しても、巣は見つかっておらず!」

「被害は完全に無いの?」

「耳に入っている情報では」

「軍以外に、商人たちにも?」

「商人たちは時々……しかし、それはありえないことではないので」


 確かに、商人たちは運が悪かったというだけということも多々ある。アネリアは困ったように頬に手をやり、コンナを見れば寝不足のせいかいつも以上に目つきが悪い。

 救難信号もノイズがひどく、全ての信号の波長を細かく正確にとれたわけではないが、取れた信号は最も大きな波長を出している部分が、その信号の撃たれた場所である。しかもその場所はその都度場所が変わっている。

 おそらくジーニアスが砂竜に襲われる危険を考え、グラジオラスのいる場所からある程度離れて撃たせているのだろう。


「クロス。解読できそうか?」


 ならば、何かしらの法則性を持たせているだろう。誰かに作られた問題とは違い、重要な部分の欠落すらあるかもしれない問題を解けるとしたら、参謀くらいだろう。

 コンナは自らの参謀であるクロスに聞けば、予想以上の返事が返ってきた。


「おおよその場所はわかってる」


 さすがは天才と呼ばれているだけはある。


「さすが。じゃあ、あとは砂竜の対策だな」

「巣を隠す程度の知恵は持っているようだからな。さて……どう探したものか」


 話を次へと進めるコンナとクロスの言葉を聞き逃さなかったのが、一人。クラウドだ。


「まるで地を這う者が知能を持っているような言い方ですね」

「その通りだ。それに間違いないが」


 クロスがはっきりといえば、クラウドは眉をひそめ、


「地を這う者に知能はありません。やつらは、動物、畜生と同位です」

「畜生にだって知能はある。無論、地を這う者にもな」

「あなたは、参謀だというのにその程度のことも――」

「ハッ! 古い知識だけで時事を語るのには限界があるぞ。時は流れているんだ。上流の岩にへばりつきながら、下流に転がっていった石について語るつもりか?」

「はい。ストップ」


 二人の長くなりそうな言い争いをアネリアが間に入って止めると、コンナの方を見た。


「それで、どうするの? グラジオラスの救助を先にするにしても、途中で襲われちゃ意味ないわよ?」

「巣の位置がわかってれば、こっちで砂竜を引き受けるんだが」


 砂竜を倒せなくても注意さえ引ければ、グラジオラスが自立航行が可能であれば離脱する時間くらいは容易に稼げる。アネモネが護衛をしていれば、ここイレンツまで逃げることは可能だろうし、キャメリアも砂竜の一匹程度ならば問題なく倒せる。

 しかし、動ける状況でなければ砂竜に襲われた場合、いい的になってしまう。


「襲われた商人たちのルートから巣の位置の予測を立ててみますか?」

「そうね。やれることからやってみましょうか」


 報告のあっただけでも調べてみようと、動き出す中、司令官はというと周囲のマップに円形の印が入っていくことを眺めながら、あることを聞いた。


「グラジオラスは、本当に健在なのですか?」


 その言葉に反応したのは、ここに勤務している人間だけだった。アネリアたちは、できる限りグラジオラスのいるであろう範囲を狭めようとしていた。


「信号だって、離れた位置で撃っているのでしょう!? だったら、その間に襲われる可能性だって!」

「……グラジオラスが沈んでたとして、何か変わるか?」


 唯一返してくれたコンナの言葉に司令官は言葉を詰まらせた。巣があることは確実なのだ。しかも、その巣の位置はわかっていない。

 探査艇で見つからないのだから、相当巧妙に隠されているのだろう。どっちにしても、討伐のために巣を探すことになるのは変わらないのだ。


「あと、カルラちゃんは絶対に保護しないとな……」


 真剣な表情でいうコンナに司令官も何も言えないでいると、


「お前が言うと変な意味で聞こえるぞ。ロリコン」

「というか、アンタは同期三人の心配してあげなさいよ」


 クロスとアネリアにたしなめられたのだった。


「しかし、奏者の保護は最優先事項であり、カルラは奏者の中でも序列3位ですから、これほどの戦力を投下されたのだと思いますが」

「まぁ、それはそうなんでしょうけど……」


 元々、奏者の保護は重要事項ではあるが、聖なる音の純粋であればあるほどその優先度は高くなる。

 とはいえ、そういった理由のためだけに助けに行くわけではない。だが、人によって行動理念が違うのは仕方がない。今行うべき任務は、グラジオラスの捜索と巣の発見。そこに対して、誰も否定はしない。だからこそ、今この場は多少の波風があっても、平穏だった。

 もしこれが違ってしまっていた日には、コンナとクラウドは前と同じように大喧嘩となることだろう。そうならないことを祈りつつ、アネリアも範囲が少し狭まったマップを見た。

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