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ホワイトノイズ  作者: 廿楽 亜久
第3楽章 正義と過去と愛と友情
14/36

04

 目を開ければ、本を読んでいるミドナが視界に広がった。

 ようやくクロスが目を覚ましたことに気がつくと、ミドナは本を置き、クロスに文句有りげな視線を送る。


「ようやく起きたのか……そろそろ足が痺れてきそうなんだが」

「お前が悪い」

「どう考えても、人の膝で寝てるお前の方が悪いだろ」

「膝じゃなくて太ももだ」

「ヘリクツ」

「どうとでもいえ」


 そう言いながらも起き上がれば、ミドナは伸ばしていた足を折り曲げ、体育座りのような体制になる。


「全く、悪夢だった。神子の加護とやらはないのか」

「聞いたこともない。そんな便利なもの。というか、悪夢だったのか?」

「あの時の夢だ。お前が人生初の告白をされた時のな」


 そういえば察しがつくのか、微妙な顔をするミドナだが、


「悪夢ではないだろ。別に」

「十分、悪夢だ。二度とごめんだ。あんなもの」


 二度とごめんなのは、ミドナも同意見だ。外出禁止は別に嫌ではなかったが、あの時以上に先生に怒られたことはない。

 寝ぼけ眼で大あくびをしながら、クロスは傍らに置いてあった大きなファイルを開く。そこには、手書きの文章が書かれていた。


「それ、なんなんだ?」


 ずっと気になっていた。庭園に来てからずっと書き続けていて、書き終えたと思ったら、突然、寝始めるのだから、聞くタイミングが今まで無かった。


「うちの艦長が注文された資料だ」

「コンナさんが?」

「やめておけ。めんどうごとに巻き込まれるぞ」


 またなにかしようとしているらしい。気にならないといえば嘘になるが、クロスの表情を見る限り見せる気はないようだ。しかし、表情は楽しげで、言葉こそ嫌がっているようだが、嫌々やっているわけではなさそうだ。


「引きこもりは引きこもっていろ。それが安心だ」


 資料はもうまとめ終わっている。あとは届けるだけ。


「じゃあ、俺は帰る」

「散々寝るだけ寝てか……」

「ここは昼寝にちょうど良くてな。またくる」


 ウィンリアの中でも特に緑に溢れているこの庭園は、緑に溢れている二人の故郷によく似ていた。故郷に似てるからか、クロスもよくここにきては、眠って何をするわけでもなく帰っていく。

 ミドナも慣れたように、それを見送るだけだった。


***


 日も暮れ、照明の光に照らされる時間になってきた頃、フィーネとミスズは自宅に向かって歩いていた。


「でも、びっくりした。フィーネのお姉ちゃん、結構すごいこと関わってたんだね」


 教育課程の人間なら、襲撃などがあっても戦闘に駆り出されることはまずない。巻き込まれたとしても、最初に行うのは、身を守り、軍に連絡を入れることだ。戦うなんてことはありえない。

 思い返してみれば、教育課程の時、もしもウィンリアに地を這う者(レジスター)が襲撃してきた際は、必ず連絡をしろと妙に強調されていたが、原因はフレイヤたちのせいだったのかもしれない。

 フィーネもフレイヤに似ているが、さすがにあの状況で戦いに行くという選択肢は取らなかったはずだ。


「でも、フィーネはさっきの話、知らなかったの?」


 姉妹であれば少しくらい話を聞いていそうなものだが、フィーネは困ったように頬をかくと、


「知ってはいたんだけど……お姉ちゃん説明がすごいっていうか……なんていうか、えっとね……バーン! とかドドドドーン! とかそういうのばっかりで……」


 言いづらそうにしていた意味がよくわかった。


「それに、その話する時だいたいミドナさんの話になるし……」


 珍しく暗い顔をするフィーネに、ミスズも苦笑いになってしまう。


「ミドナさんのこと好きなんだっけ?」

「うん……いや、別に女の人同士とか! いや、それもそうなんだけど、そうじゃなくて……ミドナさんに迷惑かけちゃってるような……」

「でも、ほら嫌がってなかったし」


 前にあった時にその話が出ても、嫌がってはいなかったはずだ。確かに困ってはいた気がするが。

 まだ納得した様子ではなかったがフィーネは、遠くにいた二人組を見つけると大きく手を振る。


「ヤッホー! 二人共ー! おつかれー!」

「おつかれ」

「おつかれさま」


 ユーリは返事をしたが、ズルダは興味なさそうに明後日の方向を見ていた。そんなズルダに、フィーネはズルダの前に手を振り続ければ、さすがに邪魔になったのか腕を振って払っていた。


「うぜェんだよ!」

「反応しないズルダが悪い!」

「何で俺が反応しねぇといけねぇんだよ!」

「一人で手、振ってても悲しいじゃん!」


 はっきりと言い切るフィーネに、ユーリは安心したように微笑み、ミスズの方を見た。


「絡まれたらしいな」

「……少しだけ。スレイさんとコンナさんが助けてくれたから」

「コンナ艦長か」

「コンナさんと何かあったの?」


 何か考えるように呟くユーリに、ミスズが前から思っていたことを聞いてみれば、驚いたようにミスズを見ると、首を横に振った。


「ただ、配属をキャメリアに希望しているだけだ」


 それは意外だった。キャメリアは討伐部隊でもトップクラスだ。そのため、新人が入ることはほとんどないし、そこに配属されればよほどのことがない限り、別の場所に異動することはない。

 ユーリは王立騎士団に希望するものだとばかり思っていた。それは、そこで言い争っていたフィーネとズルダも同じだったようで、驚いた顔でユーリを見ていた。


「意外……リーダー、王立騎士団にいかないの?」

「王立騎士には興味がないな。それに、私では高が知れている」


 王立騎士団というだけでそれなりの箔がつくが、それ以上に特殊な環境であることには違いなかった。その一つに、共鳴者としての能力。これが高くなければ、騎士の家系が多く存在する王立騎士団では、どうしても下の方となってしまう。

 ユーリは決して低いとは言わないが、平均的だ。その能力だけで言えば、ミスズやフィーネが破格とも言える高さを誇っている。そんな二人がいても、チームのリーダーを任されているのは、ひとえに戦闘能力の高さだ。


「それに、王立騎士では、地を這う者と戦うことが減るだろうしな」

「リーダーって意外に、ガンガン戦いたいってタイプ?」

「結構、血の気多いしな……」


 ズルダだけが納得した様子で呟けば、ミスズもフィーネも驚いてズルダを見た。


「そうなの!?」

「知らなかったのかよ!?」

「知らないよ!? メチャクチャ優等生タイプだと思ってたもん!」


 二人がまた言い争い始めると、ユーリは恨めしそうに砂海の方を睨むと、


「絶対に許さない……」


 その小さな声を聞いたのはミスズだけだった。


***


 グラジオラスは、警備任務を終えウィンリアに向かって航行していた。


「久々に普通の航海だね」


 ジーニアスが報告書をまとめながら、呟く。


「最近は、緊急帰還命令が多かったからな」

「帰ったらコンナ、どれくらい調べ進めてると思う?」


 別に約束をしたわけでもないが、おそらく最近の地を這う者の動向を探っているはずだ。


「あいつ、意外にああいうの得意だからな……」

「人望が厚い、というよりも、単純に顔の広い友達がいるからね」


 笑っているジーニアスに、カルラは期待に目を輝かせながらにギリクの方を向くと、


「帰ったら、今度こそ、ミスズとフィーネとウィンリアで遊ぶんだ!」

「そりゃよかったな。今度はちゃんと申請しろよ」

「わかってるよ!」


 前に申請がされていなかったため、庭園で遊んだことは聞いていた。しかし分かっていることを注意されたからか、カルラは頬を膨らませていた。

 だが、よほど楽しみなのか、その表情は緩んでいる。


「まだ帰還してねぇんだ。気ィ抜くな」


 注意はするものの、カルラは嬉しそうに頬を緩めている。

 もう何を言っても無駄かと、ギリクも本来の警備任務を全うすべく、ウィンリアに向かっていた、はずだった。


「ギリク!! 地を這う者!!!」


 突然のカルラの叫びに、ギリクは周囲の確認を行うが少し遅かった。

 グラジオラスは衝撃に大きく揺れた。

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