表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

悪魔の囁き

 ミントグリーン色の外壁。収納の多いキッチンに、色素の薄いフローリング。観音開きの窓……。

彼はどうして、こんなにも私の好みに合う物件を探して来られたのかと、とっても不思議だった。よくよく考えてみると、私が前に住んでた部屋の様子や、あの夜、ぽつりぽつりと話した中に散りばめられていた私の好みを、1つ1つ拾い集めて考えてくれたんだと思う。

私がその部屋を、一目で気に入ってしまったことは言うまでもない……。

 そして、最初は完全に個室化していたそれぞれの部屋の、境界線が薄れていくのにそれほど時間はかからなかった。一室にはタンスやクローゼットを固めて置いて、もう一室は二人の寝室になった。


 それからおよそ2年間、私達は一緒に暮らしてきた。

最初の頃は一緒に買い物に出かけたりしていたけど、翔がどんどん有名になっていくほど…一緒に出掛ける回数は減っていった。私のせいで翔の仕事に迷惑がかかるなんて、考えるだけで嫌だったから。

出かけるときは別々だけど、家では一緒にいられる。……今の私には、それでじゅうぶんだ。

そして、そんな日々がずっと続くと信じていた――。

                   *

 「ご注文はお決まりですか?」

なんだか、オーラのある女性だと思った。お店に入ってきたとたん、歩き方からして違うお客さんに、周囲は少しざわめいた。

その女性は帽子を深く被っていて、顔は見えない。けれど、真紅の口紅を塗った唇がとても印象的だった。つい唇を見つめながらオーダーを待っていると、ふいにその口の端がくいっと持ち上がった。

「…橋元亜紀、さん?」

「え……」

どうして、私の名前を…?名札で名字はわかるけど、下の名前まで…。

不審に思っていたら、女性は1枚の写真をすっとテーブルの上に出した。これは、私と…翔。

この女性は、一体…?

「ちょっと、来て」

女性に強く腕を引かれ、店の裏口から外へ出た。路地裏の壁に背中を押しつけられ、女性がずいっと詰め寄ってくる。

そして、女性はゆっくりと帽子を脱いだ――。

「……坂上、唯…?」

芸能界に疎い私でも、彼女のことは知ってる。ファッションショーにも毎回のように出ていて、世界的にも有名なモデルだ。最近は女優業もしてるんだっけ。

「私が前に翔とつきあってたことはもちろん聞いてるでしょ?でも私、別れたつもりなかったのよね。翔が出て行っちゃって、ずっと探してたんだけど……まさか、あの翔が別の女のところにいるなんてね。…あ、そうだ。私達、今度同じドラマに出るのよ。私の役は、翔演じる佑人が叶わぬ恋をする相手…アキ」

「………」

この人と翔が、つきあってた…?と、いうことは、前に一緒に暮らしてた女性って、この人なの…?

少し前に、「ヒロインがアキっていうドラマに出るから、練習つきあってね」って、翔が言ってたのを思い出す。その「アキ」が、元カノ…。

「あれ?もしかして、何も聞いてなかったの?一緒に暮らしてるのに、何も知らないのね」

「………」

それまでニヤニヤと笑っていた顔が、急に真顔に変わる。

「黙ってないで、何とか言いなさいよ。小さなカフェの店員のあなたと、芸能人の私。どっちが翔につりあうかなんて、言うまでもない…。この意味、分かるでしょ?」

そして、彼女は私の耳元に口を近づけ、ぼそりと低い声で囁く…。

「翔と、別れろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ