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はじまり

 「一緒に、住む…?」

「うん!君は元彼が合鍵を持ってる間は安心できないし、それにここは女性の1人暮らしには物騒だよ。そして俺は彼女と別れたばっかりで、新しく住むところを探してた。ってことで、ちょうどいいじゃん」

この人は、何を言ってるの?一緒に住む?ゆうべ、知り合ったばっかりの男女なのに…?

私が混乱している間にも、彼はごそごそと封筒の中から書類を出してきて、私にペンを持たせた。

「ここにサインしてくれたら、俺が手続しとくよ。あ、印鑑も忘れないで」

「ちょっ…、ちょっと待って。どうして話がそんなに飛躍するの?一緒に住むって…。私達、お互いのこと何も知らないし」

「そんなの、これから知っていけばいいよ。昨夜一晩一緒にいて、俺が信頼に値するってことは証明できてると思うし、君だって襲われそうになった部屋で1人暮らしをするのは不安だろ?」

「だからって、なにも一緒に暮らさなくても…」

「実は俺、1人暮らししたことなくてさ。超絶寂しがり屋なんだよね。でもずっと友達のとこにいるわけにもいかないし…。俺のこと嫌だったら無視しててもいいから。それに、ほら。見て。2DKだから部屋は別だし。とりあえず、3か月だけ一緒に暮らしてみない?それでダメならもう何も言わないからさ」

「………」

理性を働かせると、その選択が危険だってことぐらいすぐにわかる。…でも、たしかに、またいつ智之が来るかもわからない所にはいたくない。昨夜のこともあるし、1人で暮らすのは怖い。

……彼とは相性がいいみたいだし、話だって弾む。でも、それだけの理由で決めてしまっていいのか…。

「まあ、とりあえず部屋見に行こうよ。絶対気に入るから!」

そう言って、彼は私の手を強引に引く。

「えっ、ちょっと…!」

「今日の予定は?」

「…仕事は休みだし、特に何もないけど」

「じゃあ、問題ないねっ」

「ちょっとー!」

 いま思えば、この時からすでに…私は彼に恋をしていたのかもしれない。きりっとした顔立ちとは正反対の、天真爛漫な性格に惹かれていたんだと思う。

                  *

 モデルであり女優でもある坂上唯子は、26歳。その美貌を武器に、デビューから9年間芸能界を渡り歩いてきた。そんな彼女は今、ある場所を訪れている…――。

 「それで、何かわかったの?」

煙草をふかす彼女の正面には、1人の男が座っている。その男は部屋の奥に目配せをし、バイトの女性に茶色い封筒を持って来させた。

「これだよ」

唯子は男から封筒を受け取り、中身をバサッとテーブルに広げる。写真が20枚程度入っていた。

「名前は橋元亜紀、23歳。勤務先は××駅構内のカフェ。△△町のマンションで岡本翔と一緒に住んでいる」

「………」

唯子は1枚の写真を手に取り、じっとりと見つめた。マンションのある1室で、翔らしき男性が亜紀を出迎えているところが写っていた。

この女が、翔の……。

唯子は煙草を灰皿に押し付け、写真を握りしめたまま立ち上がった。

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