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番外編*2つの指輪

 『もう、出て行ってくれない?』

年上の彼女・唯子と喧嘩をして家を追い出され、俺は住所不定(無名)俳優になった。

とりあえず今夜は友達の家に転がり込もう。それから、唯子とは少し時間を置いて改めて話をしに行こう。こんな別れ方は嫌だ。

ふらりと入ったカフェで、かれこれもう何時間も無駄に時間を過ごしている。突き返された指輪をポケットから取り出しては眺め、またポケットに入れる……。

「お客様。たいへん申し訳ございませんが、そろそろ閉店のお時間でございます」

ああ、ここにも俺の居場所はないんだ。


 気分が晴れないまま、ぼんやりと雨の中を歩く。

カフェを出てすぐは小雨だったのに、いつのまにか土砂降りになってきた。傘を持っていないことに気づいたのは、駅を出てからしばらく歩いてからだった。近くにコンビニもないし、まあいいや。たまには、大粒の雨で頭を冷やすのも悪くない。

とある橋の上をふらふらと歩いていたら、向かい側から高校生らしき人影がすごい勢いで走って来るのが見えた。なにしろ狭い歩道だから、人がすれ違うだけでいっぱいの広さ。ぶつかられても別に気にしない…と思ったのもつかの間、

「あっ!」

ポケットに入っていた銀色の小さなもの――おそらく指輪だろう――が、川の中へと落ちて行った。

まずい。

あの指輪がないと、唯子と仲直りできない。失くしたなんて言ったら、ほんとにもう終わってしまう。土砂降りだけど、ひょっとしたら石か何かに引っかかってるかも…。

欄干に手を添えて、川に飛び込む決意を固めていたら、

「待って、早まらないで!!」

背後から女性の怒声が聞こえた。突然のことに驚いて、俺はバランスを崩し…真っ逆さまに川に落ちた。


                   *


 あの朝、目が覚めたとき…――彼女は、俺の肩に凭れて眠っていた。

前夜は大雨だったのが嘘のように晴れ、朝の日差しが差し込む部屋で…俺は彼女の肩をそっと抱いた。そして、女の子独特のふわふわ感と心地よい重みを感じながら、唯子の存在を頭の中からフェードアウトしてしまった。

知り合ってまだほんの数時間しか経ってないけど、彼女とはこれからも続いていく…――なぜだか、そう確信していたんだ。


実際、その確信は当たっていると思う。


『俺と、結婚してくれる?』――『いいよ』

俺が一大決心をしてプロポーズしたのに、亜紀はさも当然のことのようにあっさりと返事をした。

「…なに、どうしたの?」

「え…、あ、いや、だって…。そんな簡単に決めちゃっていいのかなって。悩んだりしないの?」

「悩んでほしいなら悩むけど」

「えっ!?やめて!悩まなくていい!」

せっかくOKしてくれたのに、考え直して断られたんじゃたまんないよ…。

慌てふためく俺を見て、亜紀はおかしそうに笑う。

「私、結婚するなら翔しかいないから」

そう言ってはにかむ彼女は、とても綺麗だった。

この笑顔を、ずっと守っていきたいな。そんなことを考えながら、彼女の細い指に指輪を嵌める。俺達を結び合わせたのは別の指輪だったけれど…これからは、この指輪が2人を1つにしてくれるだろう。

口に出すにはまだ恥ずかしいけど。愛してるよ、亜紀――。


                 ~Fin~

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