番外編*ナイショの再会(後)
毎週、日曜日のランチタイムはすごく混む。
広いお店ではないけれど、これからどこかへお出かけするようなご家族連れのお客さんもいる。…みんな、笑ってるなあ。
羨ましいなんて、思わない。意地でも思わない。私の人生はこれからなんだし、いつか新しい家族だって手に入れる。その思いが、今日まで私を生かしてきたんだ。
「橋元さーん!ご新規4名様です」
レジ係のバイトくんが声をかけてきた。ちょうどタイミングよく4人席が空いているのを確認して、ご案内しようと入口へ向かうと…私は思わず固まってしまった。
「…なんで……?」
そこに立っていたのは、翔と美紀、それから両親…。
「橋元さん?」
呆けてしまった私を見て、バイトくんが何事かと身を乗り出してくる。…ただでさえ混んでるのに、騒ぎを起こすわけにはいかない。
「…ご案内、致します」
深呼吸をして、平常心で接客をこなす。オーダーのブレンドコーヒーを、こぼすことなく無事に運び終えたときは正直ほっとした。翔がどうにかして、私の実家を突き止めたんだろうか。でも、お父さんもお母さんも驚いた顔をしていた。もしかして、内緒でここに連れてきたの…?
「亜紀さん、お客さんからの評判もいいらしいですよ。先輩スタッフに可愛がられてるところもよく見かけますし」
コーヒーを一口飲むと、ブラックのはずなのに少しだけ甘かった。よく見ると、俺のだけほんのちょっと色が違うことに気づいて、思わず頬が緩む。
「あの…、どういうことなんでしょうか。どうしてあの子がいるお店に…?あなたは、美紀と…」
お母さんが、戸惑いを隠せない表情のまま尋ねてくる。お父さんも少し居心地が悪そうにコーヒーをすすっている。
俺は隣に座る美紀さんと顔を見合わせ、小さく頷きあった。
「実は、僕が美紀さんとおつきあいしているというのは、嘘なんです。…僕は半年ほど前から、亜紀さんと一緒に暮らしています」
「え…!?」
「亜紀さんが立派に働いている姿を、お二人に見てほしくて…。美紀さんに協力してもらったんです」
たいそう驚いた様子のご両親は、俺から美紀さんへと目線を移す。美紀さんは少し緊張しながらも、静かに口を開いた…。
「お父さんもお母さんも、小さいころから私にすごく期待してくれて、手をかけてくれた。それは本当に嬉しかったし、感謝してるの。…でも、同じくらい、辛かった。失敗できないことへの恐怖と、強いプレッシャー。…それから、亜紀への罪悪感に……私はずっと苦しめられてきたの。でも…、『1人しか愛せないなら、なんで私なんて産んだんだろう』。家を出ていく前の夜、亜紀はそう言った。それを聞いてから私は、亜紀と双子であることを何度も悔やんだ。生まれてこなければよかったのは、私の方。私がいなければ、亜紀はこんなに苦しまなくて済んだのに。私の悩みなんて、亜紀の苦しみに比べれば、なんてことないものだったんだって…。どうして私達…、家族4人で仲良くできなかったのかな…」
お二人は、黙って美紀さんの訴えに耳を傾けていた。けれど、ご両親が何かを言及することは最後までなかった…――。
「ありがとうございました」
いつもより少し表情の硬い亜紀が、別のテーブルを片付ける合間に言う。黙って通り過ぎようとしていたご両親は、そろって足を止めた。そして亜紀の方へ体ごと向けて、
「…ごちそうさま」
小さくそう言ったのだった。
*
「亜紀、美紀さんにバースデーカード送ったんだって?1か月遅れの!」
キッチンに立つ亜紀の腰に腕を回して嬉しそうに言うと、彼女はポトフの鍋をかき混ぜながら、ムッとした顔で振り向いた。
「…美紀と連絡、取り合ってるんだ?美紀のほうが美人だもんね」
それだけ言うと、亜紀はふいっと顔をそむけてしまった。…そんな彼女が、俺にはすごく愛おしい。
「あー!亜紀、美紀さんにヤキモチ焼いてるんだ!」
「違うよ!そんなんじゃないっ」
「俺は亜紀一筋だから、そんな心配無用だよ。美紀さんと連絡先交換したのも、何かあったときのために一応っていうだけだし。今回も、亜紀のカードが届いたのは一大事だから、わざわざメールくれたんだよ」
「そんなこと聞いてないでしょ」
「またまたー。ほっとしたくせに」
拗ねたふりをして鍋を覗き込む亜紀。俺は彼女の白い頬に手を添えて、優しくキスをした。
『岡本さんへ。今日、亜紀から4年ぶりにバースデーカードが届きました。嬉しくて、思わず泣いてしまいました…。
父と母に大きな変化はありませんが、私達が小さいころ家族4人で撮った写真を、2人はときどき眺めています。長年拗れ続けてきたものだから、すぐには無理かもしれないけど…これから少しずつ、好転していくものと信じています。
そうそう。この前、母がこんなことを言っていました。“俳優と普通の人が結婚するのって、難しいのかしら”。もし、重く感じたならごめんなさい。だけど、きっと岡本さんを認めてる証拠です。私も、2人はすごくお似合いだと思う。妹を、これからもよろしくお願いしますね。
今度、ぜひ亜紀と一緒にうちへ遊びに来てください。お待ちしています。橋元美紀』




