番外編*ナイショの再会(前)
激しい動きで乱れた衣装を直してもらいながら、次のシーンの確認をしていたときのことだった。
「あぶない!」
「翔――!」
とっさのことに驚いたものの、我ながら驚異の瞬発力だと思う。突然倒れてきたセットの一部から、自力で逃れることができた――上半身だけはね。
普通に動くから大丈夫だって言っても、「万が一のことがあるから」と無理やり病院に連れてこられた。
「撮影はお前が戻り次第さっきの続きだから、今夜は少し遅くなるかもな」
「だから病院なんて来なくていいって言ったのに」
幸彦にぶつぶつ言いながら、長椅子に座って待っていたら…、
「橋元さーん。橋元美紀さーん」
少し離れたところにある診察室から出てきた看護師が、そんな名前を口にした。
まさかな。珍しい名前でもないし……。
「はい」
ななめ後ろあたりに座っていた女性が返事をし、看護師のもとへ歩いていく。その横顔をちらりと覗き見ると…――亜紀にそっくりだった。
低めの身長、華奢な体格、落ち着いた雰囲気……。俺は、確信した。この人が、亜紀の双子の姉の美紀さんだ。
「あのっ…」
思わず声をかけてしまい、美紀さんは不審そうな顔でこちらを見た。
「……ひょっとして、橋元亜紀を…ご存知ですか?」
彼女は目を見開いて驚いている。この表情もそっくりだ。顔のパーツは少しずつ違うところがあるけど、ぱっと見ただけではきっと区別がつかないだろう。
幸彦を「5分で済むから」と言いくるめて、診察後に美紀さんと病院の入り口で待ち合わせをした。
「亜紀と、一緒に暮らしています」
「…そうなんだ、男の人と一緒に住んでるんだ。あの子、私にすら何も教えてくれないから…」
「でも、住所はちゃんと教えてるんですよね?先日、バースデーカードを送ってくださっていましたし」
「…実は、亜紀と共通の友人に頭を下げて、教えてもらったんです。それにあれは……、小さいころからの、私達の約束なんです」
誕生日に手作りカードを交換するのが、幼稚園の頃からの恒例だったそうだ。両親は共働きで留守がちだから、「もしお父さんお母さんが誕生日を忘れていたとしても、こうやって2人でお祝いしよう」と約束をして。それは2人が差別されるようになってからも、18の年に亜紀が家を出るまで続いた。当然、それからも続いていくものと思われたが、亜紀はぱったりとカードを贈らなくなってしまった。
「…絶交されて、当然ですよね。私は、母と妹の仲を取り持ってあげることができなかった。私にしか、できないことだったのに…」
きっと、亜紀は美紀さんのことを怒ってなんかいない。
誕生日に話してくれたときの様子は……怒っているというより、とても悲しそうだった。あの日から、亜紀の心の重荷を少しでも軽くしてあげたいと、ずっと考えていた。何か方法はないかと悩んでいた矢先、偶然出会えた彼女の姉…。このチャンスを活かすべく、俺はあることを思いついた――。
「来週の日曜日の13時、××駅にご両親を連れてきてくれませんか?」




