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おかえりなさい

 『俺と一緒に住もう』その一言から、全てが始まった。

最初は「話の合う、ただの知り合い」程度に思っていた翔を、……まさか、こんなにも愛おしく思う日が来るなんて。あの頃はまだ、「あ、名前は聞いたことあるかも」ぐらいの影の薄い役者だった彼も、今ではすっかり売れっ子俳優の一員。案外、私はアゲマンなのかもしれないなあ…なんて、彼の腕の中でぼんやりと思った。


                  *


 久しぶりに抱っこした亜紀は、驚くほどに軽かった。背が小さくて、もともと子どもみたいな軽さではあったけれど、今は羽が生えたように軽い。

紺色のシーツを張ったベッドにゆっくりとおろし、頬に手を添えながら…亜紀の顔をじっくりと見つめた。突然の至近距離に驚いて、最初は照れていた亜紀も、次第に熱っぽく俺を見上げるようになった。

何度も何度もキスをしながら、亜紀のブラウスを暴く。彼女の手が、すがるように俺の頭を抱くのが愛おしくて、鼓動がどんどん高鳴っていく。

白い肌に手を這わせようとしたとき、突然、彼女が俺の手首を掴んだ。

「…どう、したの……?」

やっぱり嫌だ、って言われたらどうしよう。もし拒絶されたら…――。

赤くなって顔を伏せる彼女が、蚊の鳴くような声で言ったのは「恥ずかしい…」という一言だった。

一緒に住んでた頃は、だいたい週1回ぐらいはしていたのに。それなのに、今さら恥ずかしいだなんて。

「どうして、恥ずかしいの?」

「…3年ぶり、だから。だって、誰にも裸、見られてなかったから……」

俺を見上げながらそんなことを言うから、もう胸の奥がキュッと締め付けられてしまった。

「翔にはわかんないよね。雑誌とか映画で脱いでるから、なんともないんでしょ?女優さんの肌だって、きっと見てるでしょ…」

亜紀はシーツを顔まで引き寄せ、ふいっと体ごと横を向いてしまった。ああ、もう。なんで、彼女はこんなにも俺の心を擽るんだろう。

思わず笑みをこぼしながら、亜紀の体を優しく抱き寄せ、隣に体を横たえた。一糸纏わぬ体がぴたりと吸い付くように密着して、なんだか俺まで照れてしまう。

「俺だって、恥ずかしいよ…?大勢の前で肌を見せるより、大好きな1人に見せる方が…ずっと緊張する。…俺も、3年ぶりだから」

お互い、3年間誰にも体を許さなかった…。その事実に、またも嬉しさが込み上げる。

じわじわと幸福感に浸っていると、観念した亜紀が俺の首に抱きついてきた。亜紀を抱きしめ直すと、改めて彼女の細さに気づく。ウェストなんて、折れてしまいそうに細い。もともと太ってはいなかったけれど、大食いだった亜紀がこんなになってしまうなんて…。

「…亜紀、ちょっと痩せた?」

「それは翔もでしょ?」

「え…」

亜紀は「前はこんなに、骨浮いてなかったよ」と言いながら、俺の鎖骨や肩のところを指でなぞっていく。他人に肌に触れられるのってくすぐったいし、気持ち悪くて嫌だけど…亜紀なら、全然構わない。それどころかもっと触れてほしいし、俺も、もっと彼女に触れていたいと思う。

「じゃあ…今日は、2人でおいしいものでも食べに行こっか!」

俺の言葉に、亜紀は「うん♡」と嬉しそうに微笑んだ。

「…でもそのまえに、亜紀を食べてからね」

「ぁ…っ!」

それから俺と亜紀は、明るい日差しの中で何度も何度も愛しあった。これまでの寂しさを埋めるように。それから、再び心が通い合った喜びを分かち合うように…。


 彼女のそばは、なんでこんなに心地がいいんだろう。彼女の香りや声、肌のぬくもり。そのすべてが愛おしくて仕方がない。もう今後一生、彼女から離れるなんてできないだろうし、したくないと思った。

この3年間、いつも何かが欠けたような気持だったのは、きっと…あの頃から、お互いがお互いの一部だったから。距離を置いたのも、最初は粘着質なファンを彼女から遠ざけるためだったけれど、それだけではなくて、やっぱり俺たちの関係にとって必要な時間だったんじゃないかと思う。

お互いに依存して馴れ合うだけじゃなくて、再び会う日を夢見て…それを糧として頑張った。その時間があったからこそ、今こうして成長した姿で再会できたんだ。


「おかえりなさい、翔」

「…ただいま、亜紀」




                 ~Fin~

今後、不定期で番外編を数話upする予定です。

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