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彩られていく時間

 「ん…っ、ぁ…」

玄関先でこんなこと、って思うけど、逸る気持ちを止められなかった。亜紀の後頭部に手を添え、何度も組み替えながらキスを繰り返す。亜紀も俺の背中に腕を回し、必死に応えようとしてくれている。そんな彼女が愛おしくて、俺はますますやめられなくなってしまう。

2人の体が徐々に温まって、お互いのことしか考えられなくなってきたとき…、俺のスマホが鳴り響いた。とたんに現実に引き戻され、亜紀は赤くなってぱっと離れてしまった。

「…ごめん」

一旦玄関ドアのほうを向き、電話に出る。相手は幸彦だった。おそらく、迎えか何かの連絡だろう。

――ところが。

『午後からの雑誌2本、今日はなくなった』

「…え?」

『1本は先方の都合でキャンセル。その時点で今日の仕事はもう1本の方だけになったから、こっちからお願いしてずらしてもらったんだ。ここのところ、お前ずーっと働き詰めだったから、ささやかなプレゼントだよ』

「え…っ」

…と、いうことは…。今日は、1日オフってことか…?

『そのかわり、また明日からバリバリ働いてもらうからな。朝の7時に寮へ迎えに行くよ』

それだけ言って、電話は切れてしまった。俄かには信じられなくて、スマホを握りしめたまま呆けてしまう。亜紀とこういうことになっているだろうことを予想して、幸彦がなんとか手を回してくれたんだろうか…。

「…翔……?」

亜紀の声にはっとして、後ろを振り返った。

「亜紀…、俺、今日1日休みだって…」

亜紀も驚いたように目を大きく開き、そのあとすぐに微笑んだ。

再び亜紀を抱きしめようとした…けれど、亜紀は黙って踵を返してしまった。嫌な汗がじわりと手に滲む。

「よかったね。リフレッシュして、また明日から頑張ってね」

あっさりした彼女の様子に、俺は慌てて靴を脱いで上がった。部屋の奥へ歩いていく亜紀を追いかけ、今度は俺が後ろから彼女を抱きしめる。彼女は大きく肩を震わせたけれど、抵抗せずに腕の中に納まってくれている。

「なんで逃げるの?」

「逃げてなんか…」

「また、亜紀の遠慮癖が出てるよ。俺のこと、もっと求めていいのに」

耳元で囁くと、亜紀はぴくりと反応した。可愛いなあ、もう。

「今日1日、ここにいてもいい?」

「…いいよ。まだ、ここは翔の家でもあるんだし……」

「そういう意味じゃなくて」

くるっと亜紀を回転させ、正面から向き直る。彼女の顔はトマトのように真っ赤で、目は潤んでいた。

そんな理性をくすぐるような表情で見上げられたら、いくら俺だって無理だよーなんて思いながら、彼女の額にキスをした。

「今日1日、亜紀と一緒にいたい。今日だけじゃなくて、これからもずーっと。空白の3年間を、一緒に埋めていきたいんだ」

「……私も、翔と一緒にいたい…!」

亜紀のこの一言を聞いた途端、俺に迷いはなくなった。

可愛い彼女をひょいっと抱き上げ、変わらず左側にある寝室の扉を開けた…――。

※次回、最終回です。

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