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緊張の再会

 「△△町って、なに言ってんの…?明日は午後から仕事だろ?雑誌の取材2本!」

「せっかく半日オフなんだから、会って来いよ。亜紀ちゃんも明日休みだから」

どくんどくん、と胸が高鳴るのを感じる。亜紀に、会える……?

幸彦はこちらに顔を向けて、優しい目をして微笑んだ。

「お前はもう、誰が見ても立派な俳優だし、人気も不動。亜紀ちゃんに胸張って会いに行けるぐらい、じゅうぶん頑張ったよ。もう2人のことは世間も事務所も認めるはずだし、もっとセキュリティ万全なとこで2人で暮らせばいい。それに、これからも輝き続けるためにはあの子の存在が必要なんじゃないか?こっそり行って、おどろかしてやれ」

「……でも、今さらどんな顔して会えばいいんだよ。3年もほったらかしだったのに」

煙草の煙をふーっと吐き出しながら言うと、幸彦は急に怒ったような顔をする。俺に何か言おうとしたけど、青信号になっていて後続車にクラクションを鳴らされた。再び車が走りはじめ、幸彦は前を向いたまま話す。

「…おまえ、俺の好きなタイプ知ってる?」

「え?なんだよ、突然」

「亜紀ちゃんみたいな子」

「え…?」

冗談だろ、と思ったけれど、幸彦はバックミラーごしに俺を見て、不敵に笑った。

「亜紀ちゃん、元気そうに話すし笑いもするけど、なーんかいつも寂しそうにしてるんだよなあ。そんなとこ見てると、けなげで可愛いなって思っちゃうよね」

幸彦と亜紀は、たしか初対面でもすぐに打ち解けていて、相性が合うんだなーとは思っていた。幸彦はこの3年の間に、何度も亜紀と2人で会っている。亜紀も、ひょっとすると…――?

「…迎え、来なくていいよ。自分で行く」

こんなこと、考えたくもないけど……もし、亜紀にいい人がいるのなら…。けじめをつけて、彼女を解放してあげなくちゃいけない。

亜紀をいつまでも縛り付けておく権利なんて、俺にはないのだから。


 せっかくベッドに入っても、亜紀に会うことを考えると緊張でよく眠れなかった。勝手に出て行った俺のこと、怒ってないかな。他に好きな人がいるんじゃないかな。考えれば考えるほど、不安は募っていく…。


 翌朝の天気は曇りだった。服装にかなりの時間悩み、朝食は喉を通らなくて、コーヒーだけ飲んで家を出た。

帽子とメガネで変装してタクシーに乗り、△△町まで30分ぐらい車に揺られる。最初はどんな挨拶をしようか、どんな声色で話そうか…。考えることはいくらでもあった。ずっとずっと会いたかったはずなのに、留守であることを願ったりもした。でも、やっぱり会いたい…。

 気持ちの整理がしたくて、マンションの最寄駅で降ろしてもらい、そこからは歩いた。亜紀の職場から一緒に帰ったことや…あの日、距離を置こうと言ったこと。いろんなことがよみがえってくる。亜紀が今でも、1人でここを歩いている様子を想像するだけで、涙が溢れそうになってしまう。

いよいよ、ミントグリーン色のマンションが姿を現し始めた。塗装をし直したのか、以前よりも映える色になっている。

持ってきた合鍵でエントランスを通り、エレベーターで6階へ上がる。鼓動がどんどん速くなるのを感じるけれど、もうとても抑えられない。時間はまだ朝の9時前。こんな早くに来て、迷惑じゃないかな…。朝に弱い亜紀のことだから、まだ寝てるかもしれない。

玄関の前でもう一度、深呼吸をして、震える指でチャイムを押した。奥から歩いてくる音がドア越しに聞こえて、一気に緊張感が高まる。そして、一瞬の間を置いて鍵が外され、ゆっくりとドアが開いていく…――。

「………」

顔を覗かせた亜紀と、一瞬で目が合った…。

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