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異世界で開拓を  作者: 急行 千鳥
出向編 続き
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出向編-10

二式飛行艇は過去最大級の機数が同時に飛び立った。量産体制をどうにかこうにか整えた、とは斎間大将から聞いていたが、まさか操縦者含めて100機が同時に稼働可能だとは思わなかった。


二式飛行艇の機内には、第1海軍陸戦師団がびっしり乗っている。だが、もちろん全員は乗り切れず、また二式飛行艇はアドリミアと日本民主主義国を何往復もすることになる。


そう、ついに木嶋総理の堪忍袋の緒が切れたのだ。


木嶋総理はもちろん、“文明国”の日本民主主義国としての行動をしようと、20万件と言う過去最大級の国民からの抗議文、今までにないくらい突っ込んでくるマスコミ、日に日に増えていく「キレヌ王国との戦争賛成派」議員たちを抑えてきた。

その一方でこっそりと準備を進めていたのも事実ではある。具体的には、“飛び地”に陸軍兵を増員させる程度の物であったが。


そして、ついに“キレヌ王国大使によって日本民主主義国の軍人が重傷を負った”という知らせを聞いて、キレヌ王国に対して国交断絶と宣戦布告を行ったのである。

普通なら最後通牒というステップがあるはずだが、すでに相手方が自国の軍人を傷つけたこと、大使が大声で戦争をするぞ!と叫んでいることなどもあって、相手はそんなことを気にしない国だと判断したらしい。そこを指摘されても、“うちの軍に最初に攻撃したのは、貴国の大使でしたよね?”で押し通す気だ。



「それにしても、木嶋総理があんな演説するとは思いませんでしたね。」

隣に座っているリネット中尉が俺に言った。

「ああ、俺も驚いた。」


正式に出動命令が下り、すぐに出ろとのことで二式飛行艇に乗り込もうとした時、海軍総司令部に高級車が滑り込んできたのだ。

そこから降りてきたのは、木嶋総理。

「諸君!私はこれほどの屈辱を受けたことは無い!我が国は文明国だ。多少のことは笑って許そう。相手が誤ればこちらも譲歩しよう。

だが!キレヌ王国はこちらに一切相応態度を示すどころか、ついには我が軍の中将を傷つけるといった暴挙に出た!

これは、宣戦布告無しのキレヌ王国からの攻撃とも取れる行動だ!そして、謝罪は未だに無い!

この戦争は、我が国が文明国であると同時になめられないようにするための戦争だ!

しっかり奮戦してきてくれ!」



「・・・おれもあそこまで怒り心頭している木嶋総理は初めて見たよ。」

正直、思わず引いてしまうほどの勢いだった。ホント。

一方で軍に対する治安維持出動命令は解除されている。


途中、柱基地に二式飛行艇は着水した。

柱基地は日本民主主義国から約4800km、アドリミアから約4200km離れたところにある、絶海の孤島である。そこを、海空共同基地として開拓したのだ。今回みたいにアドリミアのある“南大陸”へ緊急の用事があるときに二式飛行艇の中継地とするため、救難捜索のときの基地として、海賊対策の基地として、など用途はたくさんある。


軽油の入ったドラム缶を積んだ大型発動艇、通称ダイハツが着水した二式飛行艇に給油を始める。アドリミア派兵の時はタンカーをこのあたりに浮かべておいたが、それだと機数が増えると対応できない。本当にこの基地を作っておいてよかったと思う。


5時間ほどして、再び飛び立ち、アドリミアのフィアンカの港のはずれにある“飛び地”近くに着水した。

すると、すぐに内火艇がやってきた。


「おかしいですね。」

それを見たリネット中尉が言った。

俺も同感だった。

「ああ、これだけの人数がいるってのに内火艇はおかしい。この基地にもダイハツはあるんだろう?」

「あるはずです。谷岡中将!掲げている国旗を見てください!」


近づいてくる内火艇の国旗を見ると、上が緑、下が赤、真ん中が白で中央にはアドリミア皇族家の家紋がついていた。

つまり、アドリミアの内火艇だ。


「谷岡中将が乗っている内火艇はこちらでよろしいか!?」

内火艇からりりしい女性の声がした。

「リースベト第1皇女様!?あ、いや、今はリースベト皇帝陛下か。失礼。」

「谷岡中将、できれば私とすぐに来てほしい!」

皇帝になったというのに、相変わらず1年前と同じアドリミア空軍の軍服を着ているリースベト皇帝は大声でそう言った。

「それは出来ない。本官にも軍務がありますゆえ。」

そこへ、邪魔だ邪魔だ!と言わんばかりにダイハツが押し寄せる。


「来ないなら我が国の貴軍の通過を認めんぞ!」

おう!そう来ますか・・・

確かにそうなると、大きく東から回り込まねばならず、とても大変なことになる。

まったく、在アドリミア大使館は何をやっているんだ!そんぐらい済ませておけよ!今も大使は越智さんか?


「通過を認めないなら結構!面倒だが他の方法を取るまでだ!」

だが、通過できなくても“大変”になるだけで“不可能”ではない。

そういうとリースベト皇帝は黙った。


「頼む、一緒に来てくれ。これは非常に高度なレベルの問題なんだ。」

やっぱり外交がまだまだだな。この若き皇帝さんは。

「分かりました。では、あとで自動車で向かいますので。どちらに行けば?」


ブレイシュ辺境伯爵の家に到着したのは3時間後だった。

軍用トラックで思いっきり家の前まで乗りつける。


「遅い!もっと早く来れなかったのか!?」

リースベト皇帝がイライラした様子で言った。

「そう言われましてもねぇ。現在“飛び地”にいる海軍兵はすべて本官の指揮下ですよ?その一軍の長を呼び出そうというのだから、時間がかかって当然です!」

少々不機嫌で俺が言うと、となりでリネット中尉がうなづいていた。それはいいが、睨むまではしなくていいから。相手、皇帝だからな?


部屋にいたのは、リースベト皇帝、ブレイシュ辺境伯爵、そして、一人の男性。

「それで?高度なレベルの問題、とは?普通そう言うのは大使をよぶのではないですかね?」

言葉遣いは丁寧に、だけど嫌味を言ってやる。

だが、その嫌味に返事をしたのはリースベト皇帝ではなかった。


「申し訳ありません。私が無理を聞いてもらいました。」

そう、この部屋にいた男性。ボロい外套羽織っていたと思ったが、外套の下は結構いいもの着てるな。ということは、どこぞの貴族か。


「こちらは、キレヌ王国のフォルグ・キレー子爵だ。」


リースベト皇帝の説明に、俺もリネット中尉も驚いたのは言うまでもない。








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