出向編-7
なんか、かなり久々に日本民主主義国国内のことを書いているような気がする。
リネット中尉が運転する車の中で説明した。
「結論から言ってしまえば、キレヌ王国大使館大使、オードリアン男爵はキレヌ王国内で犯罪を犯している。さっき外務省にキレヌ王国の法律を調べてもらったが、間違いない。」
「えっ?どういうことですか?」
「電話でアドリミア王国のピーア大使が言っていたんだ。“犯罪者は奴隷として売られ、その売上金が被害者救済に当てられます。”って。そこでそれ以外の場合で奴隷になることがあるのか調べてみたんだ。
結論から言えば、外国から持ち込まれた奴隷でない限り、ない。
それで疑問に思ったんだ。最初に菊崎市警本部に保護された少女。あの人は間違いなく“転生人”、つまりは別世界から来た人だ。
それが、どうやって奴隷になったんだろうな?」
リネット中尉は首をかしげた。
「答えは、そもそも彼女は犯罪を犯していない、だ。」
「えっ!?それでは・・・」
「そう、オードリアン男爵は無理やり彼女を奴隷にしたことになる。」
「ですが、外国から持ち込まれた場合は・・・」
「そう、その場合オードリアン男爵を罪に問えない。だが、彼女が言うにはキレヌ王国国内で親切な人と一緒に暮らしていて、無理やり誘拐されたんだそうだ。
今からそれを証明しに行く。」
「どうやって・・・」
「あ、そこ右曲がって止めてくれ。」
車は、桜市の大通りにある時計店の前で止まった。
「時計店?」
リネット中尉は首をかしげた。
「そうだ、時計店だな。」
「こんな時に買い物・・・というわけじゃないですよね?」
「んなわけあるかい。」
そう言いながら俺は店内に入った。
「あ、オーナー!いらっしゃい!」
中から出てきたのは、背の小さいおじさんだった。
「オーナー?」
リネット中尉が俺を見る。
「ああ、ちょっとな。買ってみた。」
と、いうのも中将になってから給料が超高額になり、銀行なんて数えるほどしか存在しないこの世界ではお金を持て余すようになった。
最初は適当に貴金属や宝石を購入して金庫へぶち込んでいたのだが、そしたら経済省事務官の平林さんから“買占めするな!”とお叱りをくらった。
というわけで、捨てるよりかはマシ、程度の気持ちで経営難のお店や会社を何個も買ってみたのである。
正確には資金援助。そして事業のお手伝い。経営能力が低い店には他の店から経営能力のある人を派遣させたり、人手付属の会社には人手の余っている会社から人員派遣させた。程度のことなのだが、これで多くの会社や店が経営を持ちなおしたのである。もちろん、100%とはいかなかったし、結局倒産した会社も多くある。
こうしていつの間にか“谷岡グループ加盟店”みたいなことになり、現在に至るのである。
いつぞや佐藤が言っていた“大きな買い物のうわさ”は恐らくこれである。
ということをリネット中尉に簡単に説明した。
「・・・の、中の一つだ。
久しぶりだな。ラッヘさん。」
「いえいえ。オーナーのおかげで現在は安心して時計作りに専念できます。」
ラッヘさんは外国からの移住者。最初はお金があったので職業支援学校へ通い、時計に興味を持ち、時計部門で首席で卒業した。
それで個人経営店を始めたのだが、ラッヘさんの経営能力は低く、倒産寸前になっていた。そこを偶然俺が買いとったのである。
今ではラッヘさんは時計作りに専念し、経営は別の人がやっている。
「確かラッヘさんはどこか大きな商会とつながりがあったよな?」
「ええ、時計部品の一部をアトリス商会から仕入れていますけど?それが何か。」
「その、アトリス商会の人を紹介してほしいんだ。」
「はぁ・・・。ええですけど。ちょっとお待ちください。」
ラッヘさんは奥へ行って電話をかけ始めた。
「商会ですか?」
「ああ、会社をいくつか買ったときにものの試しで調べてみたんだが、実際商会の調査能力は高い。正直この国の警察とどっこいくらいだ。それを多くの国でやっているんだ。これほど優秀な情報機関は無いよ。」
再び車を走らせて、桜市中心部にデパートを出店しているアトリス商会を訪ねた。アトリス商会は日本民主主義国内においては珍しく外国の商会である。日本民主主義国発足当初は多くの商会が出店したそうなのだが、他の国とは違う文化、法律について行けれずに撤退を余儀なくされた。その中で生き残ったのだから、かなり優秀な商会と言える。
「アトリス商会日本民主主義国国内取締役の、バジナです。」
金髪ひげに眼鏡の40代くらいの男性が言った。
「突然の訪問、失礼します。国防海軍中将の谷岡です。」
「そう言えばそうでした。あなたは軍人でしたね。いや。どうも私たちの業界では、“中小企業の首領”としてのイメージが強いもので・・・」
どんなイメージだよ・・・。
「それで、谷岡中小企業連合の連合長さんが、何用でしょう?」
「そんな連合作った覚えもありませんがね・・・。
用事は、情報です。キレヌ王国の。」
バジナさんはフーっとため息をついた。
「やはりそう来ましたか。先日、外務省の人が来ましてね。同じことを言ってましたよ。」
「それで?」
「断りました。私らに得が無かったので。」
「でしょうな。外務省の役人もそうなることが分かっていて、一応来たのでしょう。
ちなみにどうですか?日本民主主義国の役人は。」
「正直、優秀です。この国の経済システムも、他の国よりとてもいい。
実は他の国でこの国の外務省諜報員にうっかりちょっかいを出してしまったことがあるのですが、最終的には土下座するしかありませんでしたね。我々にそうさせるくらい優秀でした。
ですが、どうにも役人は“上の立場”になるにつれてバカになっているように思えます。いや、一番上は優秀ですね。
つまり、“中の上”くらいが一番バカです。」
・・・おう。面白いくらいはっきり言うな。
「なりほど。率直なご意見、痛み入ります。
それで、情報は?」
「私たちに相応の利益があれば、お調べいたしますよ。
私たちは商人です。情報も商品。それ相応の対価が必要です。」
これはごもっともなのだが、日本民主主義国で対価を役人が用意するのは非常に困難なことだ。“特権”や“贔屓”をすれば不正にあたる。まぁ、外務省なら“外交機密費”という武器もあるにはあるのだが。
「では、あなたの言う谷岡中小企業連合との取引での割引、でどうでしょう?」
「なら、紹介してほしい企業があります。」
「なら、その企業の紹介でどうでしょう?」
「いいでしょう。契約成立です。」
口利きくらいで情報が手に入るのなら、安いものだ。
「ところで、契約成立して、そうそうになんですが・・・。公務で使う情報を個人資産を使って調べていいのですか?」
「いやいや、何を言っているのですか?私は海軍、事件捜査は警察、外交問題は外務省の仕事。私の仕事は無関係。
私個人が知りたいと思ったことに、個人の物を使って何が悪い?」
「なるほど!あなたは面白い人ですな。
今後も何かとごひいきに。“谷岡中将企業連合連合長様”。」
俺はアトリス商会を後にした。




