市街-3
前書きに書くことが思いつかなくなってきた・・・。
俺はよく状況もわからないまま、パトカーに乗っていた。
とりあえず人死にはなく、あの場を脱出できたとこは喜ぶべきことだろう。
「いえね、軍人さんが護衛もつけずに西境橋(どうやらあのレンガ橋のことらしい)を渡るから心配で、増援読んでおいたんですよ~」
セダン型パトカーを運転しながら警官が言った。
「申し訳ない。まだこのあたりをよく知らないもんでな。」
「いえいえ。次回からは気を付けてくださいよ。必要なら警察から人をお貸ししますから。」
その言い方からして、この人は警察でもそれなりの階級なんだな、と推察した。少なくとも“部下持ち”であることは確かだ。
「あ、申し遅れました。桜市警国境警備隊隊長の、シュテファン・オレンハウアー警部です。」
「国防軍海軍準備室の谷岡大佐です。本当にお世話になりました。」
「いえいえ。」
こう会話する間にも、パトカーはレンガ橋、つまりは西境橋をわたり、検問所までたどり着いていた。
「お茶を出しましょう。どうぞこちらへ。」
そう言うとシュテファン警部はパトカーを降りた。
最初に渡ったときはあまり気にしていなかったが、検問所には仮設住宅くらいの広さの事務所があった。そこで麦茶を頂く。
「さてと、私にいろいろ聞きたいのでは?」
シュテファン警部は俺の向かいに座りながら言った。
「よくわかりましたね。」
ちょっと驚いてそう言うと、シュテファン警部は軽く笑った。
「あなたみたいな軍人さん、私が知るだけで3人目ですよ。」
では早速、と言わんばかりに質問させてもらった。
「いったい彼らは何なんだ?」
「見ての通り、難民ですよ。全国各地の国から流れてきたのでしょう。
もう8年くらい前の話になりますが、この国は難民を次々と国民として受け入れていたんです。おかげで町も大きくなりました。
ですが、いかんせん難民が多すぎました。そこでこの国の“議会”は国民の受け入れを制限したんです。」
「制限?中止はしなかったのか。」
「ええ、まぁ。人手は必要でしたし、ただ単に多すぎただけでしたので。
その時出された条件が、
①国内に住居を持つこと
②国内で仕事を持つこと
③税金を納め、法律を守ること
基本的には、この3つでした。
これ以外の人はこの町に1か月以上の滞在を禁じられ、それ以上滞在したい場合はいったん門の外へ出て再入国しなければなりません。」
「ん?そしたら1か月に一度門の外に出てまた入れば・・・」
「確かに可能です。ですが、そのたびに“入国税”が取られます。日本民主主義国国民はとられませんが、それ以外の人はこの入国税を払わないと入国できません。
しかも、よそ者が出入りできるのは年6回と限られてます。6回を超えて入国する場合は入国税が5倍になります。値段は私の3か月分の月給ですからね。難民に支払える額ではありません。」
「それで彼らはなんであそこにまだいるんだ?他の地へ行った方がいいだろうに。」
「行く当てもないんでしょう。またはわずかな希望にかけているか・・・。とにかく詳しいことは知りません。
私ももう少しここに来るのが遅れていれば、あそこの住人でした。正直、見たくないんですよ。あそこ。」
そう言うとシュテファン警部は煙草に火をつけた。
「ああ、それと。あそこではたまに流行病がはやったりしますから、気を付けてくださいね。」
それだけ言うと、シュテファン警部は事務所を出て行った。
事務所の外では、マレナ少尉が待っていた。
「大佐!あの・・・その・・・」
見た目はコップを割ってしまって親に怒られると思っている子供だ。
「さてと。ドックを覗いて帰るぞ。マレナ少尉、この後ヒマか?」
「えっ!?あ、はい!」
昭和の香りがするデザインのタクシーを捕まえて造船所へ向かった。
マレナ少尉は俺にどう言い出そうかずっと考えているらしい。だが、できればタクシー運転手がしゃべらないとも限らないのでタクシーを降りてからにしてほしいな~、と思って放置しておいた。
「造船所ですよ。お客さん。」
タクシー運転手がそう声をかけて、ドアを開けてくれた。マレナ少尉が先に降りて俺は金を払う。
「お客さん、娘さんが何をしたか知りませんが、しっかり話を聞いてあげた方がいいですよ。」
「へ?」
「娘ってのは一度父親嫌いになると二度と治りませんからね。」
「父親ちゃうわ!」
まったくこの運転手は!
降りてみるとさっきまであんなに深刻な顔で考えていたマレナ少尉が笑いをこらえていた。
「お前なぁ・・・」
思わず呆れてしまう。さっきまでの深刻なアレはどうした!
造船所を歩きながら訊ねた。
「んで?あそこで何してた?」
その瞬間、笑いをこらえていたマレナ少尉から笑いが消えた。
「え~っとぉ・・・」
「いいから正直に話してみ?」
マレナ少尉は決心したようだ。くるっとこちらを向いて話しはじめた。
「私、じつは14歳なんです!」
いや、だからどうした!?