出向編-6
最近またブックマーク件数が伸びて来ていて、内心喜んでいる作者です。
そして、最近になって”レビュー”とは何かを理解した作者です・・・(今更)
桜市沖合に浮かぶ、日本民主主義国国防海軍連合艦隊。
相変わらず主力の戦艦“瀬戸”の露天艦橋でヘルマー大佐がぼやいていた。
「治安維持出動で戦艦出してどうするんですか?まったく、緊急出港だっていうから何事かと思えば・・・」
「それを俺に言われてもなぁ・・・。主力を桜市沖合に回せって言われただけだし。ほぼ威嚇だよ、威嚇。」
まぁ、こうなることは予測できていたのだが、海兵から不満が出るのは仕方ない。だが、どうしてもその矛先は俺に向かってしまう。
ちくしょう!俺も責任を外務省に丸投げするかな・・・
「司令!本土より通信です!通信室までお越しください!」
通信兵に連れられて俺は通信室へ向かった。ため息をつきながら
“いったい何を考えているのですかーーーー!”
「はい、もしもし」と言った瞬間受話器から大声でそう言われた。
「・・・いったい何事ですか?ピーア大使殿?」
電話の相手はアドリミア王国大使館大使にして桜市立病院外科所属の医師という謎の肩書を持つ皇族、ピーア・マリーア・リア・アドリミア第2皇女様であった。
“何事も何もありません!いったいこの騒ぎは何なのですか!?”
「外務省かキレヌ王国大使館に言ってくださいよ~。というかこれ、桜鎮守府から電波通信でつないでいるのか?」
通信兵がうなづくと同時に受話器の向こうから、“少々無理言ってつないでもらいました”と声がした。
“やりすぎではありませんか?桜市民もここまで事が大きくなって恐怖しています。”
「そう言われてもなぁ・・・。俺の一存じゃ何もできませんよ。そもそも、あのキレヌ王国のバカ大使がこんなことしなければよかったんですよ。」
“それもそうですけど。”
「確か、キレヌ王国はアドリミア王国と仲が良かったですよね?今回の国交締結はアドリミアの仲介だとか?それをいうならピーア大使にもいろいろ問い詰めたいですね。」
“あなたも知ってましたか。それをつつかれるのが嫌で外務省ではなくあなたに電話したのに。”
・・・だと思った。
「それで?あのオードリアン男爵とかいうのはどういう人物なんです?」
“それは・・・アドリミア大使としてはお答えできません。”
「でしょうなぁ。外交にかかわりますからね。外交機密ってやつになるでしょう。
ですが、海軍中将に仕事を紹介してもらった個人としては?」
“そうきますか・・・。いいです。お答えしましょう。”
ここで少し間があった。
そして第一声がこれだった。
“気持ち悪い!!”
「へっ?」
“気持ち悪い!女性の敵!よくあんなので貴族がやってられるわね!あのデブ!”
・・・いや、これ、もう・・・
“二度と顔も見たくなかったのに何でこの国在中の大使なんかになるかなぁ!?来るな!帰れ!いっそのこと(自主規制)!!”
もうただの悪口!!
何だこれ?ただ上司を嫌っているOLの愚痴じゃないか!
「あの・・・ピーア大使?とんでもない事言ってますよ?」
“あら、ご友人として話していたのでしょう?呼び捨てでいいわよ。”
「ピーアさん・・・。彼の家柄とか知りません?」
“そうねぇ。あの(自主規制)野郎、家柄はものすごい名門だったのよ。キレヌ王国自体が元々アドリミア王国から独立した土地だったの。400年くらい昔の話なんだけど・・・。詳しい話は割愛するわ。長いですし。
その400年前、キレヌ王国が誕生した時に、国のNo.2として活躍したのがエトホーフト家。彼はその分家の分家くらいに当たるわ。
彼の祖父までは非常に優秀な人だったのよ。私のお父様も非常に手を焼いたと言っていたわ。
だけど、彼の父親はこれと言って何ともない人だったわね。正直印象が薄いわ。
そして彼自身は、最悪ね。”
俺は聞いたことをメモした。今後何かと重要なことになりそうだからだ。
“信じられます?私に挨拶しに来た時も女性の奴隷を連れていたのですよ!正直奴隷の子がかわいそうでかわいそうで・・・彼の挨拶なんてどうでもよかったくらいです。”
これを聞いてて思った。なんでこんなやつがまだ貴族やってんだ?
「なりほど。それで、なんでこんなやつがまだ貴族やってんですか?それも国の顔ともいえる大使なんかに。」
“さぁ・・・。詳しいことは知りません。ただ、キレヌ王国では奴隷は当たり前ですし、国を運営する上で奴隷が欠かせなくなっているのです。”
「ほぅ。と、いうと?」
“この国では犯罪者は刑務所と言う場所に収容されるようですが、あの国では違います。犯罪者は奴隷として売られ、その売上金が被害者救済に当てられます。そして、国の安い労働力として奴隷が使われるのです。
ですから、たとえキレヌ王国の街中で奴隷が鞭で叩かれていてもかわいそうと思う人はいません。私にはいまいち理解できませんが、どうやら「犯罪者だから」ということで誰も同情しないのでしょうね。”
なりほど。そう言う考えもあるのか。と少し納得してしまう。
それと同時にふとした疑問がわいた。
「ありがとうございました。ピーアさん。また連絡するかもしれません。」
“いえいえ。いっそのことあの(自主規制)野郎を二度とこの世にあらわれないようにしてくださったら非常に喜ばしいです。”
「そろそろ大使として話したほうがいいのでは・・・」
“コホン。失礼しました。
それではごきげんよう。”
「最後、猫かぶり過ぎやろ・・・」
そうつぶやきながら俺は通信士に次の指示をした。
“はい、菊崎市警本部。”
「海軍の谷岡だ。アフル警部を出してくれ。」
少しして、アフル警部が出た。
“アフルです。何でしょう?”
「保護された少女たちに聞いてほしいことがある。」
~20分後~
「やっぱりな。」
「何がです?」
受話器を通信兵に返しながらつぶやいた俺に、リネット中尉が質問した。
「あとで説明するよ。リネット中尉、内火艇を用意してくれ。桜鎮守府へ行く。」
「艦隊の方は?」
「ヘルマー大佐に丸投げしてくるよ。」
俺は指揮権をヘルマー大佐に預け、桜鎮守府へ上陸した。




