出向編-1
前回で、”謹慎編”は終了となります。ですがどちらかと言えばこれは”謹慎編-15”兼”出向編-1”と言った感じでしょうか。
こうして、無事、には疑問符がついてしまうがどうにかこうにかチャーム魔術師学校との国交が成立し、互いに大使館を設置することで合意した。これから半年くらいかけてうち合わせをして大使館設置をめざして準備するらしい。
とにかく、西方派遣艦隊を含めた“チャーム魔術師学校視察団”は帰国したのである。
日本民主主義国
菊崎市
海軍総司令部
「シュッコウ」
あれれ~?おっかしいぞぉ~?
西方派遣艦隊は役目を終えて解体されたのに、“出港”って~。
「言っておくけど、“出港”じゃなくて“出向”だよ?谷岡中将!」
とぼけようとしたら斎間大将にそう言われた。
「・・・やっぱり。また左遷ですか・・・」
「谷岡君、そう悲観的にとるもんじゃないよ。艦隊総司令としての謹慎は終了だ。だから、艦隊総司令の仕事をやりつつ出向先での仕事もしてくれ。」
「鬼ですか!」
「君が謹慎の間、艦隊総司令の仕事もやったけどね。あれは拷問だったよ。それから考え直したんだ。“謹慎”が本当に罰になっているのかとね。」
「考え直さなくてよかったのに・・・」
「それで思ったんだ。
むしろ、楽になってないかってね。」
うん。ぶっちゃけいうと、楽でした。ヒマでした。
今回も帰ってきてもお出迎えする山積み書類は無かったし、非常にリフレッシュしてました。
「だから、今回の警備のミスと、だけどしっかり被疑者は逮捕していたし、副首相の温情もあって、仕事を増やすだけで勘弁してやろうということになったんだ。ありがたく拝命しなさい。」
副首相――!!いらない温情かけないでーー!
「谷岡中将、本日をもって艦隊総司令としての謹慎を解除、そして艦隊総司令の仕事をしながら菊崎市警への出向を命ずる!」
えっ!?菊崎市警!?
13年12月。
俺は、軍人兼警察官になった。
そもそも、日本民主主義国においては治安維持出動や災害出動の時に警察と連携できるように普段から人事交流が行われているし、合同訓練もやっている。
「はてさて、それをなぜ今になって中将なんか派遣するのか・・・」
そう思いつつ海軍総司令部にある自分の仕事部屋に戻ると、人が待っていた。
「あっ!?」
思わず声を上げてしまった。
「お久しぶりです中将。入院中はお見舞いありがとうございました。」
そこにいたのは、リネット少尉候補生、もとい階級特進して中尉になったリネット中尉だった。
だが、出港前と比べると容姿は大きく変わっている。
まず、長くきれいだった金髪はショートヘアになり、首元にはわずかに火傷の跡が見える。
「もう、大丈夫なのか?」
「ええ、見た目よりは大したことはありませんでした。医学的には2度熱傷?と言うそうです。」
火傷については詳しくはないのでポーラ軍医の受け売りなのだが、火傷は大きく4つのレベルに分けられるらしい。
まず1度熱傷。一番軽いタイプのやけどで、水膨れすらできないタイプ。傷跡は残らず、1週間程度で治るらしい。
次に“浅い”2度熱傷。水膨れができ、治るまでに2~3週間かかる。
その次が“深い”2度熱傷。基本的には浅い2度熱傷と同じだが、治るまでに3週間以上かかり、傷跡が残る。
そして、一番ひどいのが3度熱傷。皮膚が壊死して、皮膚移植など大がかりな治療が必要になるレベル。
とのことだ。
幸か不幸か、リネット少尉候補生(当時)は深い2度熱傷だった。そのため、帰港から1か月以上たった今、退院できたようだ。
それでも、やはり自分のミスでけがを負わせてしまったのには何か負い目を感じる。
「コーヒーでも飲むか?」
そう訊ねると、リネット中尉はフフッと笑った。
「入れましょうか?司令官殿?」
「別にもう俺には副官どころか補佐官もいない。自分でやるよ。」
そういってコーヒーを用意する。
コーヒーメーカーに豆をセットし終えて振り向くと、リネット中尉が敬礼していた。
「ど、どしたの!?」
「本日付をもって谷岡中将付副官を拝命しました!よろしくお願いします!」
えっ?
マジで?
と、いうことは・・・
つ、ついに・・・
副官キターーーーーーー!!!
ヒャッホーーーーーーー!!!
はい、こんなはしゃいでいるのは心の中だけ。
大騒ぎして喜びたい気持ちは、いらない紙と一緒にゴミ箱に捨てた。
「おぅ、よろしくな。」
「まぁ、できればまた現場に出たかったのですけどね~。」
「ほぉ~。そりゃいい事を聞いた。リネット中尉。艦隊総司令の仕事がどんなものか知っているか?」
「えっと・・・我が国防海軍に所属する艦艇のほとんどを指揮できる仕事とは伺ってますが・・・。例えばどの艦隊は今どこにいるか、とかを管理する書類仕事と思ってましたが・・・。」
「甘いな。俺が書類だけで満足するわけないだろう!」
「えっ?」
「艦隊総司令の仕事は、斎間大将曰く“現場の全権代理者”。だからこそ俺はあちこちの現場に派遣されているんだ。この仕事が書類仕事というのはまぁ間違ってない。だが、同じくらい現場に出ると思っとけ!」
「了解です!」
ちょうどその時、コーヒーが沸く音がした。
「あ、コーヒー入れますね。」
「お茶くみはやらないんじゃなかったの?」
「恥ずかしいんで思い出させないでください!」
こうしてついに俺にも、副官がついた。




