謹慎編-12
更新が遅くなって申し訳ありません。しかも更新していない間にブックマークが少しずつ増えていき、「あ、やべぇ。早く更新しないと・・・」と思った作者であります。
どうしても忙しいので不定期更新ですが、それでもよろしければ読んでいただけると幸いです。
“それでは、チャーム魔術師学校と日本民主主義国の国交締結、技術交流の開始を祝しまして、日本民主主義国副首相とチャーム魔術師学校校長のあいさつです。”
パーティーは最高潮に達しようとしていた。
壇上に、副首相とチャーム魔術師学校の校長とらしき人物が上がる。
副首相とチャーム魔術師学校の校長のあいさつが終わり、個人的にはうざったい校長の話がやっと終わってせいぜいした気分になった。
「では、互いに握手を。」
それから、意識が無くなった。
気づいたら、机の下敷きになっていた。
「・・・クソッたれ!どうなっているんだ!?」
全身痛いし、会場は真っ暗になっていた。
頭がクラクラし、耳鳴りがひどくて音が聞こえにくい。
多くの人が出口に向かって走っている。
「・・・テロ、かな?」
やっと状況が分かった。が、気絶していたせいかまったく“焦り”がわいてこない。どころか動く気もしない。まだ、頭が半分ボーっとしている。
「谷岡中将!!助けてください!」
俺の目の前にデリックさんの顔がドアップで登場した。
「キリが!キリが!」
ふらつきながら、猛ダッシュするデリックさんについて行く。
「キリ!キリ!」
マルが大声で声をかけていた。が、キリは頭から血を流したまま倒れている。
「谷岡中将!お願いです!助けてください!」
デリックさんは慌てふためいているが、俺も頭から出血して程よく落ち着いている。
素人ながら診察をした。
「頭からの出血は大したことは無い。おそらく脳震盪だろう。脳内出血が気になるが、ここではなにもしようがない。
足は骨折しているな。マル、そこの椅子の足を持ってきてくれ、あとはテーブルクロスもだ。」
割れたガラス片でテーブルクロスをひも状に引き裂き、折れた椅子の足を添え木にする。骨折の応急処置だ。
「デリックさん、あなたはこのまま“桜丸”を早く降りなさい。なんなら日本民主主義国国防海軍の軍艦に逃げ込んでもいい。」
そういって一筆書いたメモ用紙を渡す。
「えっ?でもあなたは・・・」
「いやぁ、これから本業なものでね。軍人も忙しいよ。」
そう、視察団の護衛が西方派遣艦隊のお仕事。
「とはいっても、“桜丸”には国防海軍関係者なんて俺くらいしかいないんだがな。ってそういえばヒネク少将はどこ行った?」
廊下に出ると小銃を持った桜丸の船員が走り回っていた。それを一人捕まえる。
「副首相はどうした!?」
「あ、海軍の・・・。ヒネク少将とご一緒に会場を出られるところまでは見ましたが・・・」
「わかった。どうも。それで?犯人は?」
「チャーム魔術師学校の教授だそうです。」
「はぁ!?なんでそんな奴がこんなことを・・・」
「分かりません。」
「だよなぁ。すまんかった。行っていいぞ。」
とりあえず副首相はヒネク少将と一緒なら大丈夫だろう。しかし、少し失敗したな。
客船“桜丸”の治安維持は基本的に船員によって行われる。つまり、船員は船の中なら警察官と同じ権限を持っている。
国防海軍も同じものを持っているのだが、今回船内の警備は船員とわずかな海兵に任せっきりだった。副首相も護衛官(つまりはSP)を付けていたし、大丈夫だろうと思っていたのが失敗だった。そのわずかな海兵も、荷物チェックと乗船客の確認のためにいるだけだ。
ズドォオン!
地響きのような音がし、船が地震のごとく揺れた。
それが何なのかすぐにわかった。
「くそっ!そこかしこ爆破しまくる気か!」
船外通路に出た。船体の埠頭側に大穴があいて黒煙が上がっている。
「やばい!あんな喫水線を爆破したら浸水するぞ!」
本当に冗談ではないことになった。
船員たちは船内警備で普段の持ち場には最低限の人数しかいないし、どこにテロリストがいるかわからない中で応急処置にあたるのは困難だろう。
さらに乗り込んでいる全員を脱出させるとなると・・・無茶がある。どう考えてもかなりの数の死傷者が出るだろう。
「第1分隊は船橋!第2分隊は艦内警備!第3分隊は私とともに進水応急処置に向かうぞ!」
突然海軍兵が現れた。しかも指揮を執っているのはリネット少尉候補生だ。
「リネット少尉候補生!」
俺が叫ぶとリネット少尉候補生は俺の方へ走ってきた。
「谷岡中将!ご無事でしたか。」
「ああ、死にかけたよ。」
少し笑って答える。
「勝手ながら戦艦“瀬戸”から陸戦隊を編成しました。処分は後でお願いします。」
「わかってる!というか適切な判断に処分はいらん!それよりも副首相は!?」
「ヒネク少将とともに脱出しました。救命いかだで脱出したため駆逐艦“葵”が救出したとのこと。」
「わかった!陸戦隊の指揮は任せたぞ!」
「いえ。指揮官は別にいます。」
「何!?」
俺は戦艦“瀬戸”へ走った。
タラップを駆け上がり、エレベーターへ飛び乗る。そうすれば艦橋はすぐだ。
「ヘルマー大佐!状況は!?」
ヘルマー大佐は落ち着いていた。
「谷岡中将、現在指揮は司令付補佐官のコートニー少尉候補生が執っております。」
振り返ると艦橋の一角に“桜丸”の艦内図と作戦を立てる時に使う軍艦型の駒が置かれていた。
「1分隊、船橋確保!」
「2分隊、現在Cデッキを捜索中!」
「3分隊、Eデッキを捜索しつつ爆破口へ急行中!」
通信兵の報告を聞いてコートニー少尉候補生が駒を動かす。
俺は驚きつつヘルマー大佐に訊ねた。
「ヘルマー大佐、こりゃあいったい・・・」
「優秀ですよ。彼女らは。指示が的確だったので大人しく従ってます。」
「マジかよ・・・」
陸軍時代から多くの部下を率いて指揮を執ってきたヘルマー大佐にこう言わせるのだ。相当なものだ。
俺が唖然としている間にも、コートニー少尉候補生は指示をだし、通信兵からの報告で駒を動かす。
1時間して少し落ち着いた時、やっとコートニー少尉候補生は俺に気づいた。
「あ、司令!状況報告します!
現在、テロリストはDデッキの第3船倉に籠城中。チャーム魔術師学校に問い合わせたところ、チャーム魔術師学校の教頭だそうです。」
「教頭!?」
「詳細はあとで報告します。現在戦艦“瀬戸”より派遣した陸戦隊が包囲しています。
“桜丸”ですが、浸水が激しく船首部に浸水、船首が着底しました。」
艦橋から“桜丸”を見ると、確かに船首がかなり沈んでいた。
「水深がそこまで無かったのが幸いでした。現在、排水ポンプが作動していますが穴が大きすぎて船首左舷側は排水不可能です。
以降の指揮をお願いします。」
結構的確に指揮できているじゃないか。
「排水ポンプは止めろ。左右バランスが崩れるのは避けたい。戦艦“音戸”からも陸戦隊を出して増援に向かわせろ。
あと、“桜丸”の乗客は全員避難したのか?」
「避難済みです。確認取れてます。」
「わかった。さてと・・・」
俺はこれからどうしようか考え始めた。




