謹慎編-11
本日は鉄道趣味に全力疾走していました。
疲れていますが、気が向いた時にしか書かない(書けない)作者ですので、書けそうなときに書いて一定量になったら投稿します。
チャーム魔術師学校との国交締結は非常にスムーズに進んでいた。
だが一方で、浮かない顔をしているものもいた。
佐藤と俺、谷岡である。
「まさかあれほどとは・・・。鹵獲するわけにもいかんし・・・というか鹵獲では無意味だし・・・兵器の改良と言うよりは戦法ごと・・・」
佐藤は連日このようなことをつぶやきながら客船“桜丸”船内を徘徊し、船員に不審者と間違えられるという珍事も発生した。
俺はそう、前の世界への帰還である。
成功確率8割、だが不可能。この矛盾のような事実が精神的ダメージ大だった。
「ヘルマー大佐、タバコあるか?」
「ありますけど・・・、谷岡中将がタバコを吸うとは知りませんでした。」
「まぁな。普段は吸わないが、吸いたい気分なんだよ。」
露天艦橋で俺はタバコを吸った。
俺はこのままこの世界で歳を取って死んでいくのだろうか?
という答えの無い疑問が頭を離れない。
「あ~~~~!もう!」
一気にタバコを吸って灰皿に投げ込んだ。
こういう時はポジティブに取るべきだ。
よくよく考えてみれば俺は災害で死んだことになっているはずだから、保険金は家族に行っているはずだ。息子が死んでくよくよして精神崩壊するような両親ではない。そう考えると、何かホッとした。
「ヘルマー大佐!」
横で俺の様子を見てポカンとしているヘルマー大佐を俺は大声で呼んだ。
「ハッ!?」
「ヨシダ アイさんを呼んできてくれ。」
吉田少尉の孫娘、ヨシダ アイさんと吉田少尉の後輩建築家を乗せて、戦艦“瀬戸”と駆逐艦3隻は出港した。
戦艦“瀬戸”
後部甲板
ここに俺と、手空きの海兵全員と艦長のヘルマー大佐、そしてヨシダ アイさんと後輩建築家が集まっていた。
「大日本帝国海軍、吉田永徳少尉に対し、敬礼!」
俺の号令で全海兵が敬礼し、ヨシダ アイさんと後輩建築家の手によって吉田永徳少尉の遺体は海葬された。
そう、吉田少尉のお葬式のために戦艦“瀬戸”は出港したのだ。本人も“遺体は海に沈めてくれ”と言っていたそうなので、彼が一番望んでいるであろうやり方で執り行った。
遺品はヨシダ アイさんが引き取ると思っていた。だが・・・
「これは、あなたが持っていてください。」
渡されたのは、日本海軍の軍刀だった。軍刀と言っても大きなペーパーナイフほどの大きさで、飾りに過ぎないものだが。
「い、いえ!お孫さんであるあなたが持っていたほうが・・・」
「いえ、もしもあなたが元の世界、祖父のいた世界に帰れたときに、軍刀をあるべきところへ持って行ってください。」
「はぁ・・・。そう言うのなら。」
もしも、吉田少尉の奥さんか娘さんがご存命であったら、渡しに行こう。帰れるかどうか、不明だけど。
チャーム魔術師学校滞在最終日
「いや、本当に上々の結果だよ。よくやったねアルバン君。」
「いえいえ。副首相の手助けがあったからこそです。」
客船“桜丸”で“国交締結記念パーティー”が執り行われた。そこで副首相と今回担当になった外務省の役人が話している。
小耳にはさんだ話では地下資源の採掘権を勝ち取ることに成功し、我が国に魔法の技術を輸出する代わりに科学技術を日本民主主義国が輸出することで決着がついたらしい。
俺も本当に何もしてないが、まぁ視察団の一員として参加することになった。とはいっても軍服は礼服でもあるし、なんだか普段通りの格好で来た気分だ。
「いやぁ、どうも」
無精ひげに魔術師学校の教官である証の黒ローブをきた人物が声をかけてきた。
「・・・?・・あ、ああ~、どうもデリックさん。」
デリックさんの後ろから可愛らしいドレスを着た双子が出てきた。
「本日はご機嫌麗しゅう。中将閣下。」
「ご機嫌麗しゅう。」
キリマル姉妹なのだが、雰囲気が全く違う。だが、相変わらずデザインは全く同じで色違いのドレスを着ている。
「兄もこれくらい挨拶したらどうなの?」
「場所をわきまえなよ!」
あ、やっぱりキリマル姉妹だ。
まだ10代前半に見えるこの双子姉妹はこの船上パーティーが初めてらしく、少し興奮気味で会場内の人ごみに消えていった。
俺はデリックさんと会場の隅に落ち着いた。
「谷岡中将。実はご報告があります。」
「はぁ。」
「実は、過去に一度だけあなた方が元いたという世界とつながったことが判明しました。」
「えっ!?」
「ええ、私も驚きました。あなたが帰った後、私の師匠であるロイマー教授の実験記録を調べてみたんです。
すると、一度だけつながったことがあることが判明しました。」
「えっ!?ではなぜ・・・」
「ヨシダさんが元の世界に帰らなかったですか?
答えは簡単です。つながったときにヨシダさんが近くに居なかったのです。
つながったのは30年前の話です。偶然海の波が魔法陣を書いたようでした。それで、その一瞬を逃さず偶然つながったのですが・・・当時は今よりも魔法技術は未熟で、つなぐには膨大な量の魔力を必要としていました。
そのため、2分ほどで閉じてしまいました。」
「そうか・・・」
海の波が偶然魔方陣を書く確率なんて、どのくらい低い事やら。期待は出来なさそうだ。
「ですが、その時魔導士見習いが一人、向こうの世界に行ってしまっているのです。」
「えっ!?じゃあ・・・。」
「門が開いたのはちょうど“桜丸”のような鋼鉄艦のドアでした。そこから出て以来、行方不明扱いです。」
「こちらでも異世界で漂流している奴が出ていたのか・・・」
「そうです。
その人は、あのキリとマルの、母親です。」
「なぁっ!?」
「そのためにもお願いします!研究費の援助をください!」
デリックさんは勢いよく頭を下げた。
「もちろんです。とりあえず私のポケットマネーからで良ければ。」
俺はデリックさんに頭を上げるように言ってから、そう返答した。
これ、100話行くんじゃね?と思っている作者この頃。




