謹慎編-10
昨日も今日も定期試験~。
明日も定期試験~。
でも小説書く~。
俺はキリとマルに連れられて視察団とは別行動をしていた。もちろん、視察団長の副首相にはことわりを入れてある。
「ここだよ。」
連れてこられたのは大量の紙、書類、巻物が散乱する部屋だった。
「お~い!兄~!いないの~!?」
「どの紙に埋もれてるの~!?」
キリマル姉妹がそう言いながら部屋に入る。しっかし本当に見分けがつかないな。この姉妹。
どちらも年齢は10代前半くらい。ワンピースを着て頭には三角巾みたいなものを付けている。今のところ違いは、三角巾とワンピースの色くらいだ。明日会ったらどっちがどっちかわかるかなぁ・・・。
そんなことを考えていると突然すぐ隣の紙が動き始めたので、俺はあわてて拳銃を向けた。
「う、う~ん・・・。なんだいそれは?新しい魔法の杖かな?」
“拳銃=武器”という概念がないらしく、紙の下から出てきた男性は落ち着いていた。
「「あ!兄居た!」」
キリマル姉妹がその男性に飛びついた。
「お~、可愛い妹たちよ。お久しぶりだな~。大きくなったか?」
あ、なんかあったかい家庭っぽい。
そう思ったのはここまでだった。
「このクソ兄!あれほど寝るならせめてベッドで寝ろって言ってるでしょ!」
「そうだよ!ここには貴族やら偉い人が出入りするのは日常茶飯事なんだから!また研究費減らされてもいいの!?」
そう言いながら恐らく兄である紙の下で寝ていた男性を全力で揺さぶる姉妹。
「そぉおいぃいわぁあれぇえてぇえもぉお~」
前後にブンブン揺さぶられながら答える兄。
「「言い訳無用!!」」
痛そうな音が部屋に響いた。
「いや~、お見苦しいところをお見せした。申し訳ない。えっと~、どちら様だったっけ?」
兄はやっと椅子に座って俺に挨拶した。ここにたどり着くまで結構時間がかかったのだが、割愛しておく。ちなみに彼の顔には青たんこぶが二つできている理由も割愛しておく。
「いえ、初めまして。日本民主主義国国防海軍の谷岡と申します。」
「おや、軍人さんが僕を訪ねるのは珍しいね。魔法の戦闘についてはダーレン先生の方が詳しいですよ。」
紙の山を整理しながらマルが注意した。
「兄、まずは自己紹介くらいしたらどうなの?」
「あ、申し訳ない。研究しかできなくて、礼儀作法もおぼつかないんだ。
私はデリック。ここの研究者だ。主に“ロイマー並行次元世界論に基づく別次元世界探究”を研究している。」
「・・・へ?」
ダメだ。さっぱり意味が分からない。
キリが兄を注意する。
「兄、それで一般の人が分かると思う?」
「そう言われても最初くらいは正式名称で答えたいだろう?確かのそうだけどさ・・・」
本当に、妹2人がしっかりしているなぁ・・・
「つまりは、別次元の世界についての研究なんだ。
谷岡さん、あなたはここの建築技師、ヨシダさんをご存知ですか?」
「ええ、少しなら。我が艦の甲板上でお亡くなりになられましたから。」
「残念です。この世界の建築界の教祖とまで言われた人だったのに・・・。
それに元々この研究は、ヨシダさんのために始めたことなのですから。」
「と、いいますと?」
「ヨシダさんは、魔法の無い世界から来たそうなんです。最近は彼がどうやってこの世界に来たのか、どうすれば帰れるのかを研究していました。ですが、彼はもう亡くなってしまった。帰してあげることができなかった。
この研究も恐らく形骸化するでしょう。もう学校側からの研究費は少なくなってましたし、スポンサーであるヨシダさんが亡くなってしまってはね。
失礼、それで何のご用でしたっけ?」
ここでマルがデリックさんに言った。
「兄、その人を連れてきたのはね、その人も別の世界から来たからなんだよ。」
「本当か!?
ではあなたも・・・」
「ええ、吉田少尉のおよそ70年後の世界から来ました。」
「少尉?彼は軍人だったのですか?」
「ええ。そうです」
「我々はそんなことすら知らなかった。もっと彼を知っておけばよかった。このままだと墓参りにすら行けないとこだったよ。
ありがとう。」
吉田少尉はどれだけ自分のことを話していなかったんだろう。
「ところで、質問していいか?」
「なんでしょう?」
「実際、俺が吉田少尉のいた世界、つまり俺が元いた世界に帰れる可能性はあるのか?」
一番聞きたい事だった。
いや、この世界に来た元日本人なら誰でも聞きたい事だろう。
日本民主主義国を見ればわかる。
どこか日本っぽい風景、建物、軍艦、鉄道、食糧。まるでこの世界に日本を作るかのようにこの世界に来た日本人たちは国や町を作ってきた。日本民主主義国はその結晶だ。だがそれは未だに日本への“未練”がある証拠でもあった。
実際俺自身もそうだ。家族に別れすら言わずにここにいる。もう一度家族に会いたい。日本に帰りたいと思う気持ちは常にどこかにあった。
だが、どうすればいいかもわからず、その気持ちにはどこか“あきらめ”があった。
「条件さえそろえば、確率は8割です。」
俺は目を見開いた。
帰れる可能性が80%!過去最高の数値だ。いままで0だったんだから。
「ただし、困難なことが一つあります。」
「何でしょう?お金ですか?お金でしたら・・・」
「いや、まぁ、それもそうなのですが・・・これ以上お金をかけても可能性が1割上がるかどうかです。すでに理論は完成しています。そのための魔法陣も、道具もそろってます。」
「ではいったい・・・」
「簡単に言ってしまえば、“門”です。」
「“門”?」
「ええ、この魔法は次元を超えて別の世界とこの世界をつなぐ魔法です。ですが、そのためにはこの魔法陣と、門型の物体が必要となります。
それが、つなぐ先の世界にも必要なんです。」
絶望するには充分な情報だった。
だってそうだろ。
魔法の存在しない世界で、誰が魔法陣を書くのだろうか。
「ハハ・・・。やっぱり無理だったか。」
期待がでかかった分、ショックも大きかった。




