謹慎編-8
13年8月10日
「アドリミア派遣と比べれば短い航海だったな。ヘルマー大佐。」
「そうですな。谷岡中将。」
チャーム魔術師学校には、6日間の航海でついた。距離は日本民主主義国―アドリミアの半分以下、およそ4000km。
やろうものなら二式飛行艇で一っ跳びの距離だ。
チャーム魔術師学校には立派な埠頭があった。そこには多くの帆船が、様々な国旗を掲げて停泊している。
「国旗の見本市だな。」
「各国の軍艦だそうです。チャーム魔術師学校には各地から貴族や王家の子が学びに来ますからね。もちろん、魔術をつかえるものなら一般市民でも来ますが。」
「ほぉ、詳しいな。ヘルマー大佐。」
「ええ、昔ペートルス中佐から聞きました。」
ペートルス中佐かぁ。部下を失って結構な精神的ダメージを受けていたが、大丈夫かな?あれから陸上勤務へ配置換えになったと聞くけど・・・。
戦艦“瀬戸”は客船“桜丸”と埠頭をはさんで反対側へ接岸した。
「そういえばヒネク少将は?」
「ああ、ヒネク少将は現在本領発揮中。」
俺は露天艦橋から下を覗き込んだ。それにつられてヘルマー大佐も下をのぞき込む。
ちょうど、ヒネク少将と補佐官二人が“桜丸”から降りてきた視察団と合流したところだった。
「副官に補佐官二人まで・・・本来補佐官一人くらいは谷岡中将のもとにのこるのが普通では?」
「考えてみろよ。せっかくここまで来たんだぞ。まだペーペーの少尉候補生にはできれば外国を見ておいてもらいたい。そしてヒネク少将は元々貴族の礼儀が分かるからっていうことで連れてきたんだ。
一方で艦隊には俺が残っているからいざと言うときの指揮は問題なし。
・・・ということからこうなった。」
「なるほど~。
お!チャーム魔術師学校のお出迎えが来ましたよ!」
そう言われて俺も顔を出した。
黒いローブにデカい黒の帽子。いかにも魔法使いっぽい格好をした集団が現れた。先頭の初老の男性が代表だろう。
ヤーシュ副総理が手を伸ばすと、その初老の男性は首を振った。遠いので何を話しているのか見えないが、視察団は困惑しているようだ。
すると、初老の男性の足元が光り始め、初老の男性は一瞬光に飲み込まれたかと思うと30代くらいの男性になった。
「見たか?ヘルマー大佐。」
「ええ、見ました。」
「若返りの魔法か?」
「さぁ・・・。なんたってここはあのチャーム魔術師学校です。世間一般に知られていない魔法があっても不思議ではありません。」
俺は携帯無線を取った。
「司令より補佐、状況報告を。」
“は、はい!補佐コートニー!異常なしです!”
“補佐リネット、同じく。先ほどの魔法は姿を変える魔法だそうです。それに視察団が驚きましたが、危険はありませんでした。”
「司令了解。ナイス状況報告だ。リネット少尉候補生。」
“ありがとうございます”
とりあえず異常はないようだ。
それにしてもこの建物、どこかで見たことのあるような建物だな・・・
中央に大きな塔が立ち、その周りにも多くの塔が立っている建物、チャーム魔術師学校をみてそう思った。
そうだ・・・。前の世界で土木の歴史の授業でビデオで見た・・・何だっけ・・・。
訊ねようにも、同じビデオを見たであろう佐藤は今は視察団御一行の一員だ。
確か世界遺産の・・・欧州にある・・・
「艦長、“桜丸”より無線通信が入ってます。」
後ろから通信兵がそう言って思い出した。
「わかった、今・・・」
「サグラダ・ファミリア!」
そうだ!世界遺産でスペインにある未だに完成していない(谷岡が前の世界にいた当時)巨大な教会!
でもなんでそれに似ているんだろう・・・。ここは異世界なのに・・・。
「いいから!この艦の艦長に合わせてくれ!」
「いったいあんたは誰なんだ!」
「貴様ら!わからんのか!この帽子で分からんのか!」
「あ!国防海軍の帽子!どっから・・・」
「バカ者!わしのじゃ!」
露天艦橋の下、艦門でトラブルが発生していた。ちょうどヘルマー大佐は通信室だ。しばらく気づかないだろう。
俺は下へ降りた。
「何事?」
「し、司令!」
あわてて海兵が敬礼した。
もめていたのはこの艦門に詰めていた海兵と老人だった。もう90歳になろうかと言う老人は、頭に日本民主主義国国防海軍の第3種軍服の帽子をかぶっていた。
「あ、あんたがこの艦隊の指令か。若いの。」
「そうです。失礼ですが、どういった・・・」
「階級は?」
「中将です。」
その瞬間、腰のまがった老人は信じられないくらい背筋をぴんと伸ばした。
「失礼しました中将閣下。本官は、香港方面特別根拠地隊、第882海軍設営隊所属少尉!
吉田永徳であります。」
「ま、まさか大日本帝国海軍の!」
「そうです!この艦は海軍旗を掲げています!ということは帝国海軍と関係のある海軍ですよね?ねぇ!?」
吉田少尉が俺の袖をつかむ。
「我々は日本民主主義国国防海軍。大日本帝国や日本のある世界からこの世界に飛ばされてきたものによって作られた国の海軍です。」
それを聞いた瞬間、吉田少尉はへたり込んだ。
「そうか・・・違うんか・・・。大日本帝国海軍じゃなぁんか・・・」
吉田少尉は完全にへたり込むと、こう言った。
「そうか・・・やっぱりわしは、帰れへんのか・・・」
そう言って吉田少尉は倒れた。




