謹慎編-2
ヒマです。
国防海軍から謹慎処分をくらって、暇を持て余す羽目になった。
かといって、無駄に時間を過ごすのはもったいない。
それで俺は、ダドリーさんに電話した。
“おや、謹慎中の谷岡中将殿。どうしました?”
謹慎言うな!
「いや、少し頼みがあってな・・・」
桜市中心部
総務省研究庁
ダドリーさんに紹介してもらったところだ。「国立~~~~研究所」はすべてこの役所の管轄になる。ちなみにいつぞやのドラゴンの死体を引き取ったのもこのうちの一つ。国立魔術研究所だった。
研究庁には窓口があり、国民であることを示す身分証を見せれば公開してもよい研究成果を見ることができる。もちろん、軍事兵器などについては“公開できない”情報だ。
「谷岡中将ですか?」
研究庁の窓口前に並ぶベンチに座っていると、天然パーマで眼鏡をかけた初老の男性が声をかけてきた。
「ええ、そうです。」
「あ、やはり。何度か新聞でお顔を拝見したことがあったのでそうではないかと。」
「あの・・・どちら様です?」
「あ、申し遅れました。私、国立魔術研究所の佐平と申します。ダドリーさんから研究庁経由でお話は伺っております。どうぞこちらへ。」
俺は佐平さんに連れられて、車に乗り込んだ。
国立魔術研究所は、桜市北部にあった。
「デカい建物ですなぁ・・・」
まるで要塞のようなデカさだ。しかも窓がほとんどなく、それが何か威圧感をかもしだしている。
「ええ、まぁ。大型の物も研究することがあるので大きくないとやってられないんですよ。」
「なるほど~」
俺は要塞のような研究所の中へ入った。
中ではよくわからない研究が行われていた。90年代に流通したコンピューターのような画面にはよくわからない数字が羅列してある。
そこを通り抜けて、面談室へ到着した。
「改めまして、佐平守です。前の世界、といいますか、日本国にいたころは物理学者でした。今はまぁ・・・ごらんのとおりです。」
「国防海軍中将の、谷岡です。この度は無理を聞いていただき、ありがとうございます。」
「いえいえ。ところで、中将ともあろう人が何用でしょう?」
「“魔法”について教えていただきたいのです。」
佐平さんは少し首をかしげた。
「それは、魔法が使えるようになりたい、と言うことですか?」
「いえ、そうではなく。
我が国防軍は何度か“魔法使い”と戦ってきました。その際、相手の戦力をどう考えればよいのか非常に判断に困る結果となってしまいまして・・・。それに、魔法使いとの戦闘で多大なる被害を出したこともありました。
敵を知ることは軍事的にも大切です。だからこそ、ぜひとも教えていただきたい。魔法について、基礎から詳しいことまで。」
佐平さんは、少し考えてから言った。
「なら、学びに行けばいいのではないですか?」
はい!?
「どこへ?ここよりも魔法について詳しいところがあるのですか!?」
「ええ、あります。ちょうど外務省さんも国交を持ちたいと思っていたらしいですし。これも古い話なんでそろそろ大使館でもできたんですかね?」
「外務省!?国交!?」
「そうです。一応“どこの国にも属さない”と言うことになっているらしいのですが、実質その学校が“国”と言っても過言ではありません。」
「つまり・・・」
「そうです。我が国の国外、“魔術師協会”の総本山ともいうべき存在です。
“チャーム魔術師学校”は。」
ここで、魔法について現在までに分かっていることをおさらいしておこう。
魔法使いと魔導士は別物。魔法使いは魔法を使う者全員を指すが、魔導士は魔術師協会で修行する魔術師のタマゴのこと。
炎を出す魔法を使う魔法使いのことを“火炎系魔法使い”と呼ぶ。が、これはあくまで俗称だそうだ。実際は魔法とは火でも水でも出せる、万能なもののことらしい。だが、得意不得意がもろに影響を受け、万能な人物はそう多くないらしい。
そして、魔法使いはただでさえ数が少ない。その中で・・・ともなると、相当少ないのであろう。
あとは、“魔性野獣”と呼ばれる魔法を使う動物たち。例えばファブルなどは、魔法を使って他の仲間と意志疎通ができるらしい。だからこそ連携がとても良いのだ。
かくして・・・
「一応謹慎処分中ということに“書類上”はしておくが、事実上謹慎を解いてやるとのことだ。お前、いったいどういう手を使った?」
海軍総司令部で斎間大将が呆れたような声で言った。
「まぁ、流れでこうなったというかなんというか・・・」
「まぁいい。外務省からの鶴の一声で軍需庁を黙らせるとは・・・。そう言うわけで艦隊総司令の役職は謹慎だ。つまり、お前は現時刻をもってただの海軍中将だ。」
そう言って斎間大将は姿勢を正した。
「谷岡海軍中将!現時刻をもって貴官は“西方派遣艦隊司令”に任命する。海軍総司令と艦隊総司令代行の権限によって西方派遣艦隊には以下の艦を配備する!」
そう言って斎間大将は命令書と書類を俺に手渡した。
「ま、ゆっくり行ってこいや。」
斎間大将はそういって俺を送り出した。
人員不足なので、外務省もちょうど良いのが見つかったと思ったのでしょうね。佐平さんから総務省経由で外務省へ伝わったそうです。その結果がこんな苦し紛れの人事となったわけです。




