謹慎編-1
謹慎です。
13年4月3日。
「謹慎」
拝啓。
恐らくどこかで生きているであろう父さん、母さんへ。
20代なのに早々に、謹慎処分を食らいました。
敬具。
くらってしまった謹慎処分。
さすがに彩海島飛行場からほぼ使い終わったとはいえ重機を持ち出し、彩海島への人員増員名目で積んだ兵は彩海島で10人ばかし降ろしただけ。
最終的には俺のおかげでよい結果になったが、帰った途端に斎間大将に呼び出され、“このくらいは覚悟していたよね?”というような笑顔で先ほどの処分が伝えられてしまった。
そう言うわけで新しい海軍総司令部のある“菊崎市”にて、暇を持て余してしまったのであった。
と、思っていたら海軍総司令部の車寄せに黒塗りの高級車が待っていた。ト○タ・クラウンの5代目に似た車だった。
「お久しぶりです!谷岡中将。」
国土開発省のダドリー・マーウィンさんだった。
ダドリーさんの運転するクラウン(車種名がクラウンだった。絶対ト○タから名前も何もコピーしただろ!)に乗って、菊崎市内を走る。そういえばダドリーさんは獣耳だったな。最近あまり気にならなくなってきた。
「謹慎処分くらったんですってね。」
「地獄耳ですね~。ご本人が先ほど知ったばかりだというのに・・・」
「ですが国土開発省にとっては非常に好都合です。」
「ひとの謹慎処分がか?」
ケンカ売ってんのか!?
「ええ、まぁ。これで使い放題な土木技術者が一人増えました。」
「そういうことね・・・」
複雑な気分・・・
クラウンは駅の前で停車した。
「こちらが、あなたが提案された鉄道の現在の姿です。開通は3か月後を予定してますが、“試運転”と称して一部物資はすでにこれで運搬中です。」
ちょうどそこへ、8620型が牽引する貨物列車がやってきた。旅客駅を通過し、その先の貨物駅で停車する。
「うまくいっているみたいだな。」
「ええ、今のところは。そういえばあなたが言っていなかった安全装置も取り付けられてます。」
「安全装置?」
「ええ、信号設置のために電気会社に頼んだら、この安全装置も付けたほうがいいと言われまして・・・。あなたにはATSといえばわかると。」
「ATS!?」
ATS。自動列車停止装置。
信号無視や異線侵入の場合に列車を止めてくれる安全装置だ。
「すごいな。そんなものを開発する力がこの国にあったとは・・・」
驚きだ。
さらに、上を見て気づいた。
「あ、気が付きましたか?我々、あなたの資料にわずかに乗っていた“電車”を作ってみました!」
よくよく考えれば、路面電車が作れるのだ。電車を作れてもおかしくはない。
「おお、見せてくれ。」
10系、と名付けられた電車は、貨物駅の片隅に止まっていた。
「いづれ車両基地に移す予定なのですが、如何せん用地買収が遅れまして・・・。完成がずれ込んでます。それまでの間、とりあえずここに置いてます。」
俺はダドリーさんの説明そっちのけで10系電車に見入っていた。
茶色の塗装、貫通扉付の前面、2両編成・・・。
まるで国電だ。
車内に入る。
車体は鉄製だが、内装は木製。自動ドアではなく、手動ドア。ロングシートばかりの通勤型電車。明かりは電球で、とにかく昭和臭い。だが、それが好きだ。
「すごいな、こりゃ。」
「本当に頑張りましたよ~、泣きたいくらいに。」
それからダドリーさんがいままでのストレスを発散するかのように猛スピードで話しはじめた。俺はそれを2時間ほど聞く羽目になった。
その後、ダドリーさんに桜市まで送ってもらった。
桜市軍基地前で車を降りる。
「今後も何かあればお手伝いしてください!我々には軍での謹慎なんて知ったことではないですから!」
「はぁ・・・」
いいから“謹慎”を大声で言うな!
こうして俺は旧海軍総司令部、現桜鎮守府にある自室へと戻ったのであった。
「谷岡中将閣下!お帰りなさい!」
海軍区画、つまりは桜鎮守府に戻ったとき、突然敷地内のライトが全部点灯し、そこには海軍兵が捧銃して道の両脇に並んでいた。
いや、空軍兵も陸軍兵も混ざっている。
状況がよくわからず立ち止まっていると背中を押された。
「マレナ少尉」
「少佐です!室長さん!」
「俺はもう室長じゃないんだがな・・・」
「いいから歩いてください!全員室長さんを出迎えるために自主的に集まっているので、並びは適当ですが。」
「そうか。
では、ありがたく。」
俺は捧銃の道を鎮守府まで歩いた。
やはり、誰かに出迎えられるというのは、
とてもいいな。




