アドリミア王国内乱編-17
遅くなりました。
近々大学の学園祭があるもので、何かと準備に忙しくて・・・
今後しばらく更新できなかったらすいません。
結局、話はリースベト第1皇女が折れる形で落ち着いた。リースベト第1皇女は重巡“仙崎”の水上偵察機(3人乗り)に乗り込んだ。だが、監視としてリースベト第1皇女が乗っていた飛龍に飛龍に乗ったことのある海兵が乗り込み、ついてくることになった。
「副長、第1艦隊はすぐにフィアンカへ戻る。準備しておけ。」
「ハッ」
重巡“仙崎”に乗り込んだときに艦門で待っていた副長にそう指示をして、俺は医務室に向かった。幸い、軽い脳震盪だろうとの診断結果だった。
艦橋に戻るとすぐに、ダァン!という音がした。水上偵察機が出射機から勢いよく飛び出した音だ。恐らく、リースベト第1皇女が乗って飛び立ったのであろう。
その後、再び第1艦隊は全速力でフィアンカへ戻った。
第1艦隊がフィアンカに戻るころには、事件の全容がはっきりしていた。
「つまりですね、今回の事件の犯人には全員共通点があったんです。それが、“全員陸軍の関係者”と言うことです。
例えばヘルマー中佐を襲った犯人の居酒屋の女性。彼女の夫は陸軍兵士でした。つまり、夫婦で別陣営になってしまったわけです。
そこへ第1皇子陣営から手紙が届きました。“夫を殺されたくなければ情報を流せ”と。
次第に要求はエスカレートしていき、今回に至ったというわけです。」
大使館から車と内火艇を乗り継いできたエルネスト少佐がすべてを説明してくれた。
結局襲撃者の全員が、“第1皇子陣営関係者”だったわけだ。正確には、夫、妻、兄弟、親などが第1皇子陣営関係者、または首都シャウテンに住んでおり、“言うことを聞かなければ殺すぞ”と脅されていたわけだ。
「裏工作まで仕掛けてくるとは・・・。結構この世界の戦争も近代化しているんだねぇ・・・。」
純粋な感想を述べた後、俺はふと思った。
「ん、ならこちらも工作をやればいいんじゃないか?」
エルネスト少佐は難しい顔をした。
「それがですね、こちらもやっているとブレイシュ辺境伯爵はおっしゃっていたのですが・・・」
「いったい何をしているのやら、か。確かに現状こっちが負けているよなぁ。」
俺は事件被害者が運び込まれた輸送艦“大隅”を見ながら言った。
それから数日は静かであった。いい意味でも悪い意味でも。
良い意味では海軍兵や暇な兵に上陸を禁止したため、トラブルがこれ以上起こらなかったこと。悪い意味では兵にストレスがたまり、少しイラついていること。そして、フィアンカの町から日本民主主義国軍兵が姿を消したことにより、フィアンカの町が悪い意味で静かになったことである。
日本民主主義国歴13年2月1日。
そうこうしているうちに、2月になった。
フィアンカの町には雪が降り、軍艦にも雪が積もった。
そう言うわけで非番の海兵に雪かきをするように命じたのだが、ほぼ雪合戦になっている現状を俺はのんきに露天艦橋から見下ろしていた。
「こなくそー!」
若い海兵が投げた雪玉が、勢いよく飛んでいき・・・
「うぉ!?」
緑色の軍服を着た人物にクリーンヒットした。
俺は謝罪すべく、あわてて下へ降りて行った。
俺が下に到着するころには、雪合戦していた若い海兵が全員雪積もる甲板に土下座していた。
「ははは。海軍さんの若いのは元気ですなぁ。」
アドリミア派遣軍軍団長、鯵川大将は笑って言った。
重巡“仙崎”の会議室で鯵川大将と面談した。
「先ほどは申し訳ありませんでした。」
まずは俺の謝罪から始まった。まったく・・・
「それで、軍団長殿直々にここにくるとは・・・。」
そもそも、俺に用事があるのなら大使館に呼び出せばいいし、なんなら音声通信もできるのだ。わざわざここに足を運ぶ理由は少ない。
出された緑茶をすすった後、鯵川大将は切り出した。
「まずは現在の戦況から説明しようと思う。
現在我が陸軍は3個師団がこのアドリミアにいる。そのうち2個師団はすでに首都シャウテン目前まで進軍済みだ。補給も問題なく届いており、ここまでは進軍は順調だった。」
「はぁ・・・。」
「先日、アドリミア王国海軍の主力が日本民主主義国海軍に撃破され、残りはこちらの陣営についたとだけあって、西のパスピエ辺境伯爵が“中立”を宣言した。今、ハヴェル公爵が南の辺境伯爵の某とやらに話しをしに行っているそうだ。」
「はぁ。これで南も話がついたら、万々歳じゃないですか。アルトゥル第1皇子陣営はほぼ孤立しますよ。」
アドリミアには辺境伯爵は3人いる。
まずは西のパスピエ辺境伯爵。領地は首都シャウテンの西側、北から南まで全部。パスピエ家はずいぶんと昔から西側を管理していたそうで、自分の家の名前を付けた町が北側の海沿いに存在する。なぜ西側領地のど真ん中にしなかったのかと言うと、西側領地の南側は山ばかりで人も少なく、街を作れるような場所が無かったからだそうだ。
南の辺境伯爵は今回はあまり重要でないだろうとして名前までは聞いていない。まぁ、越智さんに聞けばわかるだろうが。
領地はアドリミア王国南側の中央部。西と東はそれぞれ別の辺境伯爵の領地だ。そのため辺境伯爵のなかでも一番領地が小さい。だが、巨大な大陸にあるアドリミア王国では外国の外交団の多くが南の領地を通るので、外交デビューを飾れる場所でもあるそうだ。
そして東の辺境伯爵、ブレイシュ辺境伯爵。領地はアドリミア王国の東側、北から南まで。巨大な大陸の角(?)に位置するアドリミア王国は東側はすべて海沿いだ。そのうち天然の良港であったフィアンカに自分の館を置いている。
ちなみに、首都シャウテンのあるアドリミア王国中央部と中央北部パッチはアドリミア王国直轄管理地だそうだ。
まぁつまり、これで南の辺境伯爵との話がつけば、アルトゥル第1皇子陣営は“コの字”型に取り囲まれた形になる。
流れは思いっきり我々の側に来ていた。
「今、前線ではアルトゥル第1皇子陣営だった一部の陸軍兵士がこちら側へ降伏し、逆にこちら側陣営につく、と言う行為も見られているようだ。」
「順風満帆ですな。で、一体どうしたのです?」
「それがですな・・・
首都、シャウテンに侵攻できんのだ。」
・・・はいい?




