アドリミア王国内乱編-16
最近寒くなってきましたね~。お鍋が恋しい季節なのに、白菜の値段は下がる気配なし。去年はそろそろ値段が下がり始めていたころなのになぁ・・・。
「出港用意!総員直ちに戦闘配置につけ!」
重巡“仙崎”の副長が艦橋で指揮を執っていた。俺はそれを露天艦橋で聞いていたのだが、その隣には何かと雑談とアドバイスをしてくれる、ヘルマー中佐はいない。
「副長、海図を用意してくれ。通信兵、第2艦隊につないで場所を確認しろ。」
「ハッ!」「了解!」
こういうこともいちいち指示しないとやってくれない。こうしてみるとヘルマー中佐がどれだけ優秀だったかわかる。
海図が用意され、木造戦艦の模型と味方艦隊の模型が置かれる。
「副長、ここに行くのにどのくらいかかる?」
「ええと・・・」
副長はそろばんを取り出して計算している。まだ経験が浅いようだ。経験豊富な艦長なら、計算せずともだいたいの時間が分かってしまうのである。
「2時間くらいかと・・・」
「距離は近い。全速力で行く。1時間で行くぞ。」
「了解です!」
今回はアドリミア派遣艦隊は置いて行くことになった。万が一の場合の海軍戦力としてだ。
「嫌な状況だなぁ・・・」
重巡“仙崎”の後ろに続く第1艦隊の艦をみながら、おもわずつぶやいた。
日暮れ寸前。
18時前に木造戦艦10隻を監視している第2艦隊と合流した。木造戦艦10隻に停船命令を出し、俺は内火艇に乗り込んだ。
重巡“仙崎”の砲術長に陸戦隊隊長になってもらい、俺は10名の陸戦隊員とともに木造戦艦に乗り込んだ。
この俺が交渉にのぞんでいる間、臨時ではあるが連合艦隊(第1+第2艦隊)の指揮は第2艦隊司令ペートルス中佐に任せた。
「今日は儀仗兵を連れていないのだな?結構あの軍服はデザインセンスがいいと思っていたのだが。」
リースベト第1皇女はずいぶんとご機嫌だった。甲板に置かれたテーブルの上にはワインらしき瓶が一本置かれている。
「すまないな。先ほどまで夕食を取っていたのだ。そうしたら私の大好きなワインが積んであったのでな。少し楽しんでいたのだ。谷岡中将もどうだ?」
「いえ、遠慮します。」
俺は硬い表情のまま、椅子に座った。
俺が遠慮したことで、あまりいい話ではないと察したらしい。リースベト第1皇女は俺に向かって真っすぐに座りなおした。
「さて、緊急の用事とは、何用かな?」
「まず今朝早く、前線にて我が軍の将校があなたの軍から派遣された道案内役に刺されました。」
「何!?」
身を乗り出すリースベト第1皇女。
「次に、半舷上陸中の軍艦艦長が、フィアンカの居酒屋の店員に突然ナイフで刺されました。」
「え、」
リースベト第1皇女は何か言おうとしたが、俺は無理やり続けた。
「さらに!我が軍の将軍が襲われて重傷、私も襲われました。身元を洗った結果、襲撃者はあなたの空軍の兵士であることが判明しました。さらに、また別の空軍将校に我が軍の将校が刺されて重傷です。
どういうことか、説明願えますよね!?」
俺は思いっきり威圧するように言った。昔から威圧感があると言われまくっていただけあって、かなり威圧できたと思う。
「す、すまん。今の話は初耳だ。な、なにがなんだか・・・」
リースベト第1皇女は完全に取り乱していた。
「何が何だかで済むと思いますか?場合によっては“派兵関する取り決め”の違反ですよ。我が軍への攻撃とも取れる行為、どう説明しますか?」
「す、すぐに飛龍で本国へ帰る!そして必ず調査して報告を・・・」
「申し訳ありませんが、現在あなたと我が軍の間にそこまでの信頼関係はありません。そのまま飛龍で逃走されてはたまったものではありませんからね。フィアンカまでは我々が送り届けます。」
「まてやコラぁ!聞いていれば言いたい放題言ってくれやがって!」
木造戦艦の乗員らしき人物が声を荒げて乱入してきた。
「そもそも、そんなこと本当に起きているのか!?それに、居酒屋の店員が刺したのは我が軍とはまったく関係が無い!」
「そうだそうだ!」
「確かにそうですが、空軍の将校も我が軍を攻撃しています。」
「だから!本当にそんなとこが起こっているのか!お前らはいちゃもんつけて第1皇女様の身柄が欲しいだけなんじゃないのか!?」
ここまでいろいろ言われると、実際に被害を受けている俺も頭に血が上ってきた。
「ぁあ!?何じゃわれぇ!身柄が欲しいだけならお前らがゆっくりフィアンカに戻ってからでもいつでもできらぁ!」
「ああ!?何だと!?貴様ら他国の軍のくせに偉そうに!もしや、我が国を占領する気なんじゃねぇだろうな!?」
「派兵してもらっているやつのセリフがそれか?あ?ちったあ礼儀ってもんを考えたらどうなんじゃ!」
俺も木造戦艦船員も完全にケンカ寸前になっていた。俺も相当ムカついて、広島弁交じりだ。さっきから「やめろ!」とリースベト第1皇女が言っているが、俺の耳にも船員に耳にもさっぱり入らなかったし、周りの船員も俺と言い争っている船員の応援でうるさくしていた。
「やめろーーーー!!!」
突然今までより格段に大きな声で叫んだリースベト第1皇女は机を持ち上げて俺と言い争っていた船員の頭で破壊し、ワイン瓶で俺の頭をぶん殴った。
前者は良かった。だが、後者はまずかった。
よりによって“将校殺し”が相次いでいて、それがリースベト第1皇女陣営の人物によるものと疑われている時にその長が、俺を瓶で殴ったのだ。
「き、貴様ぁ!」
“仙崎”砲術長が1式歩兵銃を構えた。それが音で分かった。
俺は意識はどうにか保っていたが、体を動かすことができなかった。視界は柵の隙間から海を見ていた。
そこには、我が軍の軍艦がいる。それらが一斉に木造戦艦10隻に照準を合わせるのが見えた。
「中将!中将!しっかりしてください!」
陸戦隊員が俺に声をかけているのが分かる。だが、体がなかなか動かない。
「やめろ!お前らもやめろ!」
リースベト第1皇女が慌てて海兵たちに剣を収めるよう説得している。だが、やってしまった本人とあっては我が陸戦隊員に対する呼びかけは全くの無駄だった。
「仙崎陸戦より各艦!仙崎陸戦より各艦!増援を求む!中将が殴られて意識を失っている!この人数では脱出すら困難だ!」
小型無線機で陸戦隊員が増援を呼びかける。
俺は無理やり体を動かして、その兵からマイクを奪い取った。
「中止。先ほどの、命令は、取り消しだ。増援は出すな。以上谷岡。」
そして、左右感覚がくるったままの体を無理やり立たせた。
「いやぁ、申し訳ない。頭に血が上ってな。
さて、お話の続きといきましょうや、リースベト第1皇女。」
俺は、どうにか椅子に座ってそう言った。




