アドリミア王国内乱編-13
「アドリミア派遣艦隊司令、エヴェリーナ少将から通信です。」
艦橋の信号兵に呼ばれて、受話器を受け取った。
“エヴェリーナです。室長、状況がよくわからないんですが・・・”
「すまん。いろいろと状況が変わりすぎてな・・・」
本来の予定では、第1、第2艦隊で構成された連合艦隊が海岸線沿いに敵艦隊を攻め、外洋から回り込まれないようにアドリミア派遣艦隊が外洋から攻める予定だった。
だが、現在戦闘は行われていない。
と、いうのも30分前・・・
「報告!海龍艦5、轟沈!海龍1頭が爆発で陸地へ飛ばされたらしく、陸地でのたうち回っています。」
見張り員が報告にきた。
「戦闘続行!すぐに艦隊を立て直すぞ!敵は海龍艦だけじゃない!まだ木造戦艦が残っているぞ!」
俺は急いで艦隊の立て直しを図った。
ところが、
「司令!敵艦から白旗が上がってます!」
見張り員の報告に最初に反応したのは、ヘルマー中佐だった。
「戦闘準備続行せよ!」
だが、国際信号旗すらまともに普及していないこの世界。白旗=降伏とは限らなかった。
そう考えると、ヘルマー中佐の判断は正しいと言えた。
すると、周辺に大声が響いた。
“私は、アドリミア海軍下級将軍、エルランド・エストホルムである。我々は、戦闘の停止と交渉を望む!”
「魔法による呼びかけですね。どうします?司令。」
ヘルマー中佐が俺を見た。
「通信兵、全艦に通達。旗艦が発砲するまで絶対に撃つな。ただし、敵がすこしでも敵対行動をみせたら速攻で撃て。」
「了解!」
俺はマイクを艦外スピーカーに繋いだ。
「こちらは、日本民主主義国海軍中将、谷岡である。交渉を望むなら、条件がある。
まず初めに、全乗員を甲板に集めること。
第2に、交渉の場は本艦で行う。交渉団5名を派遣されたし。
第3に、そちらが少しでも攻撃するそぶりを見せた場合、こちらはすぐに攻撃を再開する!
以上の条件をのむ場合は、すぐに船を停止させ、全乗員を甲板に集めよ!」
ここで、アドリミア派遣艦隊がやってきた。
俺はあわててエヴェリーナ少将に戦闘停止を伝達したのであった。
陸地に追い込まれるような状態で木造戦艦10隻は停船し、甲板には多くの乗組員が集合していた。その木造戦艦10隻を取り囲むようにアドリミア派遣艦隊と連合艦隊が鎮座する。
少しして、手漕ぎの小舟がこちらへやってきた。
タラップから上がってきた人物を、儀仗兵と俺が出迎えた。
服は軍服っぽいのだが、飾りや階級章みたいなものがたくさんついたデザイン。生地は薄い青色なのだろうが、その色がほとんど見えないくらいついている。
「エルランド下級将軍だ。この度は交渉に応じていただき、感謝する。」
「谷岡中将です。こちらも無益な戦闘はしたくありません。その点において今は我々の利害は一致しております。」
後ろから、エルランド下級将軍と同じ色のベールを羽織った女性が上がってきた。こちらもいくつか階級章を付けているが、そこまで多くは無い。
魔導士か・・・。いや、魔術師か・・・。
あーもう!どっちでもいい!
※。魔法使いは魔法を使う者全員を指す。魔導士は魔術師協会で修行する魔術師のタマゴのこと。
しまったな。魔法使いは連れてくるなって条件を付けておけばよかった。
甲板にテーブルといすを置いて、交渉が始まった。
「さて、このたびはどのような用事でしょうか?」
まずは俺から切り出してみた。
「あなた方は、第1皇女、第2皇女陣営についているのですよね?」
「そうです。」
「我々は、そちらの陣営へつきたい。そう考えています。」
「はっ?」
俺は耳を疑った。
「我々は、第2皇女陣営につきます。」
「・・・詳しくお話を伺ってもよろしいですかね?」
「我々海軍は、ピーア第2皇女様に大恩があるのです。
今から5年前、海軍で流行病が流行りました。そのうち同じような病気が一般市民の間にも流行り、国中ひどい状態になりました。
それを解決し、助けてくださったのがピーア第2皇女様でした。」
「ちなみに、どのような病気だったのですか?」
「下半身のしびれから始まり、最後には心臓が弱くなって死に至るのです。」
「解決策は?」
「ある田舎で食されている穀物を食べるように言われました。」
「ほぉ~」
症状からして、俺は脚気ではないかと予想した。
軍艦では食べ物が制限される。釣りをしたところで乗員全員を賄うだけの魚は取れないし、そうなるとあらかじめ積んできた食料を食べるしかない。
脚気は、ビタミンB1不足で起こる病気である。神経障害による下肢のしびれから始まり、最後には心不全につながる。
かつては日本でも大流行した病気だ。ちなみに脚気は江戸で大流行し、ビタミンB1を多く含む蕎麦を食べれば防げたために、東京ではうどんよりも蕎麦が主流になったという話もある。
解決策としてはもちろん、不足したビタミンB1を補給すればよい。そのため我が軍では麦飯(白米と麦の混合)を採用している。
まぁ、俺は医者ではないから断定はできないが。
そこへ、飛龍が降りてきた。
「谷岡中将!海軍が交渉を望んているというのは本当か!?」
飛龍から降りるなり、リースベト第1皇女が大声で言った。
エルランド下級将軍は右手を顔の真ん中に持って行き、親指を軽く鼻にあてて手を止めた。そのまま振り下ろせばチョップするような感じだ。これが、アドリミア王国軍の敬礼だということは一応知っていた。
「はい。連絡した通りです。それでは本格的な交渉に入りましょうか。エルランド下級将軍。」
俺はニヤッとしてエルランド下級将軍に言った。




