アドリミア王国内乱編-12
近々、他の小説も上げようかなぁ~。と思ってます。
ちなみにまだ胃腸炎です。
重巡“仙崎”を先頭に、連合艦隊、アドリミア派遣艦隊が続いた。何気に予備戦力の無い大艦隊だ。今のところこの艦隊にいる“仙崎”“下関”以外に重巡はいないし、軽巡も他の艦隊にはいない。
「ただ、こうして見ると壮観だなぁ。」
露天艦橋から後ろを見ながらつぶやいた。我が海軍過去最大規模の艦隊だ。大半は駆逐艦だけど。
「司令!こちらへお越しください!」
「はいよ。」
海兵に呼ばれて、俺は艦橋に戻った。
艦橋にはこの周辺の海図が広げられ、誰が作ったのか木製の海龍艦の模型と、元々作ってあった木造船の模型が置かれていた。ただしこの海図、水深が記録されているのはほんの一部で、ほぼ航空写真を図面におこしただけの代物だ。ちなみに水深が分かっているのは日本民主主義国からアドリミア王国まで電話線を敷設した敷設艦の通ったところだけである。
「現在われわれがいるのがここ、フィアンカ沖合です。
それで敵艦隊がいるのがこの、フィアンカとパッチの間、フィアンカから200km離れたところです。」
ヘルマー中佐が状況を説明する。
パッチとフィアンカはおよそ600km離れている。敵艦隊は海岸線沿いにフィアンカへ向かっていた。
「さてと、どうしようかね~。
ヘルマー中佐、君ならどうする?」
試しにヘルマー中佐に質問してみた。
「そうですね・・・。敵は幸いにも海岸線を航行しています。私なら、いったん艦隊を外洋に出して、陸地に対して垂直に敵を攻めますかね。陸地には逃げられませんから、結構効果があるかと。」
「けっこういいセンスしてるね、ヘルマー中佐。だけど、少し詰めが甘い。」
そう言って俺は味方艦隊を示す模型を2つ取り、置いた。
「俺ならこうするね。」
「なるほど。」
「とにかく第1目標を見誤るな。これは防衛戦だ。最悪敵さんにお引き取り願えばそれでいい。」
その後俺はボソッと付け加えておいた。
「ま、ただで帰す気は全くないけどな。」
「前方!敵艦隊発見!」
見張り員が叫んだ。
双眼鏡で前を見ると、海龍艦5隻を先頭に敵艦隊がこちらへ進んでいた。
「さてと、全員気合い入れて行けよ~!」
俺はそう声をかけた。
実は、艦隊司令と言うのは戦闘中やることが無い。戦闘中の指揮は艦長が取るし、戦闘中に指示することと言えば“撤退”か“戦闘続行”かの判断くらいだ。
「それにしてもなんで敵艦隊はこんな海岸線沿いを航行してきたんでしょうかね?」
突然、ヘルマー中佐がつぶやいた。
「さぁな。海龍艦について俺らは無知に等しいからな。何か事情があったんじゃないか?」
「そうなんですかね・・・」
ヘルマー中佐は何か腑に落ちない顔をしたまま、自分の任務を続行していった。
だが、言われてみれば不思議だ。なんで外洋に出ずに座礁の危険や追い込まれる危険のある海岸線沿いなんかを航行しているのか。
「敵艦発砲!」
見張り員が叫んだ。俺は驚いた。
「オイ!まだまだ射程圏外だぞ!?」
「い、いえ!陸地に向けて発砲!対地砲撃を行っているようです!」
そういうことか!
「こいつらの目的はフィアンカじゃねぇ!戦闘中の陸軍の支援だったんだ!」
だが、今さらこれに気づいてもどうしようもなかった。すでに艦隊は全速前進で敵艦隊に向かいつつあるし、これ以上時間が短縮する方法はない。
「通信兵!全艦に通達!対地砲撃している艦を優先的に攻撃しろ!」
「了解!」
連合艦隊は2列縦列で敵艦隊に突入していった。
「進路0-3-0!」
ヘルマー中佐が進路変更を指示する。陸地に対して30度の方向に艦隊を進める。
「左舷砲雷戦用~意!」
敵艦隊まではかなりの距離がある。それこそ駆逐艦では完全に主砲の射程圏外に敵艦隊がいる。
だが、あえてこうしたのは理由があった。
2列で突入した艦隊は、互いの艦が邪魔にならないように互い違いになるように、前の艦と間隔をあけて航行した。
敵艦隊はまだ撃ってこない。距離が開いているからだろう。
「撃てぇー!!」
ヘルマー中佐の叫び声とともに、重巡“仙崎”の20.3cm主砲が火を吹いた。それと同時に全艦から魚雷が投下される。
酸素魚雷。
日本海軍の使った兵器の一つだ。
一説には“第2次世界大戦期に連合軍が一番恐れたのは、大和でもなく、空母機動部隊でもない。酸素魚雷とそれをつんだ潜水艦だ”と言われるほど連合軍を恐怖のどん底へ陥れた兵器だ。
原理としては比較的簡単なのだが、実際に物を作るという段階で事故が多発。酸素を扱っているだけあって少し失敗すれば大爆発。というわけで第2次世界大戦前には主な先進国は開発を試みていたのだが、失敗を繰り返すうちに諦めた。
ところが、日本軍だけが開発に成功したのである。
それを、佐藤と言う男が再現してしまった。作っちゃったのである。
だが、一つ欠点があった。
木造船に撃っても、不発が多い。木造船が柔らかいせいだと考えられた。だからもっと信管を調節して敏感に反応するようにしようとしたら、
「これ以上やったら、大波で揺れただけで大爆発するかもよ?」
という佐藤の言葉でやめた。それ以来、あまり使うことの無かった兵器である。
それが今、これでもかと言わんばかりに魚雷発射管から放たれた。
「あと10秒で魚雷到達!」
魚雷の速度と敵艦隊との距離を考え、ストップウォッチで時間を測っていた海兵が叫んだ。
海龍艦の海龍か曳いている船は、鋼鉄艦だ。よって魚雷は有効であるはずだ。ただし、海龍に効くかどうかは不明だが。
とにかく、初の実戦での魚雷の使用とだけあって、多くの兵が注目していた。
「到達、今!」
海兵がそう叫んだ瞬間、俺は艦橋の壁に叩きつけられた。
大波が発生し、艦が大きく揺れた。
「状況報告!」
ヘルマー中佐はどうにか艦にしがみついて指揮を執っていた。
「魚雷命中!命中本数不明!」
「後続の駆逐艦、転覆寸前です!」
俺はこけたまま心の中で叫んだ。
佐藤ぉーーーー!
お前は加減と言う言葉を知れぇーーー!!




