アドリミア王国内乱編-10
みなさんも胃腸炎に気を付けてください。
食欲旺盛な作者が、珍しく1日中ほぼ何も食べずに過ごしました。
そのくらい辛かったです。
日本民主主義国
桜市 桜鎮守府
斎間大将は近々海軍都市にできる“海軍総司令部”に引っ越しをするため、仕事をしつつ引っ越しの準備をしていた。
「失礼します。」
今日もいつものように開けっ放しのドアから海兵が入ってきた。
「あ~、今度は何だ?また海軍都市の名前を考えろとか木嶋総理が言ってきたのなら無視しておいてくれ。まったく、これから軍全体が忙しくなるって時に・・・」
「いえ、そうではなく・・・」
海兵は釈然としない顔のまま斎間大将に紙を手渡した。
斎間大将はその紙に書かれたことを黙読した。
「で、これは?」
「わかりません。先ほどから謎の電文が飛びまくっているんです。斎間大将なら何かご存じではないかと思って・・・」
桜鎮守府通信部に所属する通信兵は困ったような顔をしてそう言った。
“新高山のぼれ”
“急行は発車しろ”
“東京行は6時発”
他にも前の世界で有名な軍関係のセリフや鉄道関係と思われる言葉が打電されまくっていた。
「なんだこりゃ?」
斎間大将の口から純粋な感想が出た。
ゥゥゥウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーーウウウウウウウウゥゥゥゥゥ
その時、外でサイレンが鳴り始めた。
「な、何だ!?」
敵襲かと思った斎間大将はあわてた。
窓から外を見ると、海兵たちが走り回っている。よく見ると、海兵だけではない。海軍の区画だというのに、隣の空軍や陸軍の区画からも兵が走ってくる。中にはトラックで乗り込んでくるものもいた。
「いったい何なんだ!?」
斎間大将は部屋を飛び出した。
向かったのは、“鎮守府長官室”である。名前通り鎮守府の代表者の部屋で、ここが“桜鎮守府”となってからこの軍基地の海軍区画の最高責任者は“桜鎮守府長官”となっている。
つまり、この基地で何か起きればここに情報が集まるはずだと斎間大将は思ったのだ。
「マレナ・カニサレス少佐!いったい何事だ!」
鎮守府長官で少佐と言うのはいくらなんでも階級が低すぎだと思うかもしれないが、あとから設けられたイスだっただけに、すでに他の高級将校は異動できないイスに座っていた。
そのため、お鉢が元海軍準備室メンバーでもあったマレナ少佐に回ってきたのだ。
「そう!全部すぐに出発!うん!すぐにお願いね!」
そう言って黒電話を切ると、すぐにダイヤルを回してまたどこかに電話するマレナ少佐。
「佐藤少将ですか?いつもお世話になってます。はい、お願いします・・・」
マレナ少佐、16歳。まだ子供とはいえ礼儀はヒネク中佐からずいぶん叩き込まれている。だが、海軍内部の電話は普通の話し方の事が多い。
斎間大将は入り口のドアのところで取り残されていた。次々と海兵がやってきてはどこかへ走っていく。
これではいかん!と思った斎間大将は海兵を押しのけるようにしてマレナ少佐の前に出た。
「マレナ少佐!状況を説明してくれ!」
「室長さんから暗号が届きました!それに従って行動しています!」
俺の肩書は“艦隊総司令”だ。だが、名前通りに取るのは間違いで、実際はほとんどの実戦部隊が俺の指揮下にある。つまり、実戦部隊を多く抱える鎮守府も、ほぼ俺の指揮下にあった。
斎間大将は“海軍総司令”だ。だが実戦部隊のほとんどを俺に指揮をゆだねている。そのため主な仕事はデスクワークだ。軍需庁や外務省との予算交渉や、その予算をどう使うかなどの会議、不正が無いかなどの書類審査。お役所と現場の仲介役という役目もある。
そのため、現場をあまり知らなかった。
「・・・というわけで、“今度からは暗号を自分にも知らせるように”との激怒した伝言が届いています。」
桜鎮守府からフィアンカまで飛んでやってきた二式飛行艇に乗ってきた第1飛行艇小隊のラファエル・フリード少佐から一通りの話を聞いた俺は、爆笑していた。
艦隊で2週間かかるとはいっても航空機と艦艇では根本的な速度が違う。
例えば2週間、つまり14日=336時間ずっと15knで航行していたとしよう。
それでも15kn=時速28kmくらいなので、およそ9400km。確かに二式飛行艇の航続距離は超えているが、途中で“アドリミア王国への追加燃料運搬”の名目で航行させていたタンカー(護衛付)から補給を受ければ36時間、つまり1日半でここまで飛んできてしまうのだ。
「まぁご苦労。ゆっくりして行けと言いたいところだが、すぐに戻って兵をピストン輸送してもらわないとな。」
「分かっております。結構寝心地良いですからね。我が愛機は。」
史実の二式飛行艇もそうだが、連続で何時間も飛べるので仮眠用のベッドが備え付けられていた。
「それでは、失礼します!」
そう言うとラファエル少佐は二式飛行艇へ戻って行った。
「第1飛行艇小隊は今のところ10機。1機あたり50人の兵が運ばれてきたとしても500人ですか!すごいですな。」
横でヘルマー中佐が言った。
「まぁな。だが、燃料はバカ食いするし、時間も往復3日だ。さらに言えば交代要員も予備の機体も少ない。あまり期待はできないだろうな。」
「そしたらまた2週間の船旅ですか。」
「だな。すでにそうなっている部隊もあるんだが。」
「ところで・・・」
突然ヘルマー中佐がにやけた。
「エヴェリーナ少将とは個人的にお話はされたのですか?」
「!?」
それ聞くかよ!
実は、個人的にはあまり話していなかった。
確かに入港直後には会った。だが、在アドリミア大使館(仮)の大使、越智さんも一緒だったし、さらにはリースベト第1皇女も一緒だった。つまりは、会議でしか会っていないのだ。その後もアドリミア派遣艦隊の状況を聞くためにエヴェリーナ少将とアドリミア派遣艦隊所属艦の艦長達と一緒に会ったりしたが、2人きりでは会ってない。
「今はそれどころじゃないんだよ!」
俺はそう言うと、露天艦橋を後にした。




