アドリミア王国内乱編-7
今回は谷岡中将に知らない、本国での動きについてです。
更新遅くなってすいません。
「失礼します!」
ノックもせずに海軍兵が飛び込んでくる。
ここ数日、斎間大将の部屋のドアは開きっぱなしだった。防衛機密や軍事機密の書類が机からあふれ、床にも山積みになっている。
さらに“ハンコはまだか”というパシリに出された兵、首相官邸からのパシリ、近々派兵があるかもしれないからということで陸軍と空軍からのパシリ・・・
とにかくパシリ(使者)が出たり入ったりしている。
よって斎間大将は海軍兵がノックもせずに入ってきても咎める気にすらならなかった。
「今度は何だ!」
すでに6徹夜という新記録を打ち立てている斎間大将はイライラMAXだ。
海軍兵はすでに斎間大将のイライラには慣れており、ビビることもなくさっさと第1輸送艦隊と言う名の連合艦隊からの電文を斎間大将に差し出した。
電文を読んで、斎間大将は立ち上がった。
「車!」
それだけ叫ぶと桜鎮守府の正面玄関に走って行った。
首相官邸。
「・・・以上。受信された電文そのままです。」
斎間大将は首相官邸まで海軍の車で乗りつけ、木嶋総理にそのまま電文を渡した。
「はぁ~。やっぱり他の者を行かせたほうが良かったんじゃないのかね?頭痛がするよ。」
木嶋総理は白髪頭をボリボリかいた。白髪が数本床に落ちる。
「いえ、自分は彼を行かせて間違っていなかったと思っています!」
斎間大将はわざと必要以上に気を付けをしてはっきりと言った。
「つまり、彼は的確な状況判断をしていると?」
「もちろんです!彼は、我が国防軍の中でも実戦経験者であり、戦場における状況判断に置いて信頼における人物です!」
木嶋総理の問に斎間大将は即答した。
「・・・君のその発言、野党が聞いたら“まだ戦争を始めてないのに”云々言って来る問題発言だよ。」
「なら、野党が与党になったときも同じことを言います。」
「そうじゃないよ・・・」
木嶋総理は頭を抱えながらも考えた。
そして近くに控えていたメイドに言った。
「おい、外務大臣の吉住君呼んできてくれ。」
「木嶋総理!!」
斎間大将はすごい剣幕で詰め寄った。
「分かっているよ。だけど私としても外務大臣と相談なしにどうこうできないんだ。」
「こちらは命がかかっているんですよ!」
「命も大事だが、規律も大事だ。」
これで首相の独断で何らかの決断を下せば、外務大臣以下外務省を無視することになる。しかも“軍のごり押し”で。木嶋総理はこれを一番嫌った。前例を作りたくなかったのだ。
だが、立場違えばという話で、斎間大将には海軍兵の命がかかっている。詰め寄るのも大声で怒鳴るのも仕方ないといえば仕方ないのである。
無言で首相官邸から出て行こうとする斎間大将に木嶋総理は叫んだ。
「いいか!くれぐれも命令違反をするなよ!」
斎間大将は一瞬立ち止まったが、そのまま車へ向かった。
「そうか、そう言うことか。運転兵、急いで鎮守府へ戻ってくれ!大至急だ!」
斎間大将は運転兵をせかした。
運転兵は車載無線を取り、桜市警に誘導を要請した。
軍の車両の一部には警察と交信できる無線が積んである。これは、今回のように上級将校の緊急移動、護衛用と、非常時に軍と警察が一体になって動くことを想定してのことだ。主に、軍の治安維持出動と災害派遣出動を想定している。
すぐにパトカーが2台誘導に駆けつけた。
もともと自動車は高級品であり、一般人の所有率はそこまで高くないのだが、それでもパトカーの誘導により信号無視をできた分、桜鎮守府のある軍基地にたどり着けたのは早かった。
だが、入口は大変なことになっていた。
「派兵はんた~い!」
「木嶋首相の暴挙を許すな~!」
野党議員とその支持者によるデモ活動。
「先ほど軍基地より軍関係車両が首相官邸に向かった模様です。アドリミア王国派兵で動きがあったのでしょうか!?」
アドリミア王国派兵を取材するマスコミでごった返していた。
さらにタイミング悪く、派兵賛成派のデモ隊がそこへ合流。
もみ合いとなり、それがいつの間にか“衝突”になっていた。
桜市警の歴戦の勇者、機動隊が到着し、すぐに鎮圧にかかる。おそらく近くに隠れて待機していたのだろう。
だが、今の斎間大将にその鎮圧を待っている心理的余裕はなかった。
「す、すぐどかせますんで!」
誘導のパトカーから降りた警官はそう伝えた後、もみ合いの波間に消えていった。
「あ、大将閣下!」
運転兵がそう叫んだ時には、斎間大将は車を降りていた。
「あ!海軍総司令の斎間大将です!」
ラジオリポーターがそう叫んだとたん、群衆の目が斎間大将に向けられた。
「派兵はんたーい!」
メガホンでそう叫びながら野党の女性議員が“反派兵派”の先陣をきって突進した。
「どけ!どけぇ!急いでいるんだ!」
斎間大将はそれにかまわず軍基地の門を目指す。
「斎間大将!答えてください!何かあったんですか!?逃げるんですか!?」
ラジオリポーターがマイクを殴りつけるように斎間大将に向けた。
「道をあけなさい!」
警官隊が群衆を無理やり排除しようとする。だが、まだ十分な人数が斎間大将の近くにたどり着いていなかった。
「派兵反対!」
「道を空けろ!」
「逃げるんですか!」
「みなさんは、公共の道を不法に占拠しています!ただちに解散しなさい!」
ここで、斎間大将の堪忍袋の緒が切れた。
斎間大将は女性議員からメガホンを奪い取り、大声で叫んだ。
「だまれぇええええええええええーーーーーー!!!!!」
全員が動きを止めた。排除のチャンスだというのに、警官すら斎間大将を注目している。
「いいか!派兵賛成も反対も、俺にとっては非常にどうでもいい!俺が最優先すべきは兵の命と軍務だ!」
「だから私たちは派兵に反対・・・」
女性議員がそう言おうとしたのを、斎間大将は言葉で遮った。
「あんたの言う“兵の命を守る”というのは軍務を邪魔することなのか!?俺が一刻を争う状態だったらどうする!?それが兵の命を奪うことにつながりかねないんだぞ!なんだお前ら!兵隊の命よりも自分の主張が大事か!?自分の取材が大事か!?」
群衆は賛成派も反対派も、マスコミも警官も黙り込んでいた。
「自分の意見を主張するのは一向に構わん!自分の仕事をするのも一向に構わん!だが、場所を考えろ!」
それだけ言い放つと、斎間大将は軍基地へ走って行った。
こんな大事を斎間大将がやったと知ったのは、もちろん本国に帰った後の話だった。




