軍-3
政治的な話と軍事的な話です。
鉄道にたどり着くまでが遠い・・・。
俺のイラつきは最大に達していた。
「んでぇ?結局まとめると、ドック入りできなかったのは動かし方がわからなかったからぁ?」
「は、はいぃ・・・」
エヴェリーナ中佐は縮こまって正座していた。
「し、しかし現在ドックでは移動用のタグボートを建造していたわけで・・・」
「ほぉ~。せめても造船所の人にでも来てもらえば分かったんじゃないか?」
「しかし・・・そもそも海軍準備室自体がつい1ヶ月前に発足したばかりでして・・・」
「ちょっと待て!なんだ、海軍準備室には船を知った者がいないのか?」
「いるにはいますが・・・」
「とにかく!その海軍準備室へ連れて行ってくれ!」
陽炎型駆逐艦を一通り見終わって甲板でエヴェリーナ中佐と話していて、こんな話になった。
トラックに乗って俺とエヴェリーナ中佐は再びコンクリート製の建物、正式には“日本国防軍総司令部”に行った。
「みなさん。この海軍準備室に新しい人が着任しました!しかも転生人です!」
ドアを開けるなりエヴェリーナ中佐が言った。
中には3人の軍人がいた。全員敬礼してこちらを見ている。
「エヴェリーナ中佐、転生人が来たってことはついにここも本格的に始動ですか?」
男性士官が言った。
「それどころか・・・」
エヴェリーナ中佐は部屋に入って後ろを振り返った。
そこにはただでさえ近くに居ると圧迫感を受ける俺の顔が、怒りの表情でそこにあった。
「本日着任した谷岡大佐です。」
「ヒネク・ドランスキー大尉です。ここで主に書類を担当しています。」
男性が言った。眼鏡をかけた50代のおっさんだ。
「ペートルス・フロシャウアー少尉。去年まで商船に乗っていました。」
30代くらいの日焼けした男性が言った。
「マレナ・カニサレス少尉です!えっと、その、主に・・・雑用してます・・・」
今度は少女が言った。こいつ本当に軍人が?少年兵ならぬ少女兵か?
全員の自己紹介が終わった後、俺は言った。
「明日、0900より陽炎型駆逐艦の操船方法について教える!遅れるな!ペートルス少尉、船員としてここら辺の海について話が聞きたい。話に必要なものがあったらすぐに用意してくれ。それとヒネク大尉はここでの今までの資料をすべてまとめておいてくれ。マレナ少尉、基地内の地図を用意してくれ。それと市街の地図、世界地図、とにかくある地図はすべて持ってきてくれ。」
「「「ハッ!!」」」
3人はあわただしく部屋を飛び出していった。
「あ、あの・・・。私は・・・」
エヴェリーナ中佐は慌てて出て行った3人を見てあわてていた。
「エヴェリーナ中佐、あんたはここの政治体制を教えてくれ。」
「まずはここの中央政府です。
国家元首は総理大臣。今は転生人の木嶋浩平という人がなってます。」
「ちょっと待て。転生人ってのは何だ?」
「あなたのようにどこか他のところから転生した人のことです。あなたも“日本国”という所から来たのですよね?」
「なりほど。続けてくれ。」
「総理大臣は選挙によって決まります。総理大臣は人気は最大4年。最大4期まで務めることが可能です。」
「んで、政府が暴走した場合の押さえは?」
「そうですね・・・。裁判所でしょうか?」
「ほぉ。」
「裁判所は選挙管理の任も持ってます。つまり、政府支持率が半分を下回ったかどうかは裁判所が判断します。もしも下回ったと判断した場合、総理大臣は半年以内に内閣を解散、選挙を行わなければなりません。」
「総理大臣の交代だけじゃダメなのか?」
「解散は絶対ですね。」
「日本と似ているようで違うんだな・・・」
「次、軍内部の組織は!?」
「軍は政治に参加するべからず。私にはこの方針はなぜそうなっているのかわかりませんがそうなってます。政治的には外務省の軍需庁、ここが一番政治に近い軍部です。
その軍需庁から命令を受けるのがここ、総司令部です。軍需庁以外の軍はすべてこの総司令部の下にあります。谷岡大佐の立場は明日にでも正式なものになってはっきりすると思いますが、ここの室長になるでしょう。」
「軍の総数は?」
「現在我が日本国防軍は兵力およそ15万と言われています。ですが全員陸軍です。今、海軍は私たちが、空軍は“空軍準備室”が設立を急いでいます。」
「戦車はあるのか?」
「あります。佐藤大佐が“四号”という戦車を開発したそうです。あとは“サントツ”とか、“パンター”とか言ってましたが・・・。すいません。戦車隊にいたことはないので・・・」
「まぁいいや。それで・・・」
それからが忙しかった。
地図に目を通し、海図がないことに気づく。海中測量は今まで行ったことがないそうだ。
今までの資料にも目を通す。彼らは陽炎型駆逐艦をどうやって操船するかを造船所の人に聞くため試行錯誤していたらしい。
しかし、わかるのは元日本人、つまりは転生人だけである。
もちろん、転生人は日本での知識をもとに仕事をしている。まだ造船所は出来て2年ということもあり、人材は育成途中だ。
そんな中造船所の転生人を連れてくるのは困難なことだったのだ。
ペートルス少尉の話は非常に興味深かった。
「怪獣?」
「海の獣とかいて、海獣と呼びます。とにかく巨大なので大変です。商船でこれに襲われて沈んだ船は多くあります。」
「どのくらいの大きさだ?」
「大半はせいぜい体長2mもあれば大きい方です。ですが時折体長100m越というような大きなものもいるので・・・。ちなみにそれは一生に一度しか見れないと言われます。」
「そのくらい出現率が低いのか?」
「それもありますが・・・。一度出くわしたら生きて帰ってこれない、というのもありますね。」
笑顔でそれを言うな・・・。
「まぁ、逆に一部ではこの海獣を神として崇める地域もあったりします。それとか知性が非常に高く、人の言葉を理解するのものいるとか。あ、これ。大半の海獣はこの本に載ってます。」
渡された本をパラパラっと見てみる。挿絵と説明文が書いてある。
「これ、シャチじゃね?」
「あ、シャチをご存じで?」
「まぁな・・・」
何のことはない。シャチ、イルカ、クジラ、サメが大半だった。だが時折見たことのないものも載っている。
体長100m越の海獣は、説明文しか載ってなかった。やはり、見たものがいないのだろう。
「とりあえずわかった。ありがとう。」
俺はお礼を言うと、しばらく世界地図とにらめっこしていた。
(さて、これから海軍をどうしていこうか・・・)
まだまだ問題は山積みだった。