外交編-19
この小説、こんなに長編にするつもりもなかったんですがねぇ・・・。
最後までこの駄作にお付き合いいただければ幸いです。
一通りアドリミア王国の事情を聞いた後、越智さんが言った。
「では、帰りますか。」
まるで、出先での用事が終わったと言わんばかりの口調だ。
「ちょっと待ってくれ!我々と交渉をしに来たんじゃないのか!?」
リースベト第1皇女が驚いた表情で言った。
「ですが、相手国が内戦とあってはねぇ・・・。どちらかが正当な政府になったらまた来ますよ。」
そう言って越智さんは席を立とうとした。
「待ってくれ!その・・・せめてハヴェル公爵に会われて行かれたらどうか?」
「そう言われましてもねぇ・・・。補給物資も残りが怪しいですし。なぁ谷岡中将。」
「まぁ、有限ですからね。」
俺も越智さんにあわせる。ここでカンのいい人は“谷岡中将ははっきりと「補給物資の残りが少ない」とは言ってない”ことに気づくだろう。
そう、相変わらず心配性な俺は補給物資を多く持ってきている。まだそれほど心配するような残量ではない。
だからと言って補給物資が無限にあるわけではない。そう言うわけで“全く心配しなくてよい”わけではない。よって俺は「有限ですから」と言ったのだ。
「では谷岡中将。本国に先ほどの話を伝えてくれ。そして帰ろう。」
「分かりました、越智外交官。すぐに全艦に出発準備を指示します。」
「頼むから待ってくれ!」
リースベト第1皇女は大声で叫んだ。
「越智さん、いじめすぎ。」と俺が小声で言うと越智さんはいやらしい笑みを浮かべていた。
「さて、何ですかな?リースベト第1皇女。」
越智さんは席へ戻った。
「実は貴国のことは前々から聞き及んでいた。非常に人道的な国だと聞いている。
そんな貴国に頼みがある。」
「ほう、出会って未だ1時間にも満たない我が国に、何の用かな?」
越智さんが意地悪そうに訊ねる。ほんとにいじめるのが大好きな人だな。外交と言うのはこういうこともできないといけないのかもしれないけど。
「それをおっしゃるなら、私は出会ってからすでに何日もたっております。」
驚いて声のした方を見ると、ピーア第2皇女だった。
これを聞いて越智さんは吹き出した。
「はっはっはっはっは!これは一本取られました。そりゃそうだ。ま、とりあえず本題を」
リースベト第1皇女は緊張した面もちで言った。
「貴国は、第1皇子側と交渉をしたのだろう?その結果はどうだったのだ?」
「さて、これは我が国の外交上の機密、としか申し上げられませんな。」
「なら、第1皇子側についたわけではないのだな?」
「さぁ、どうでしょう?」
もう越智さんは向こうの言いたいことはわかっている。それを知って“いじめている”のだ。
この人の人格を疑うよ、ほんと。
「もし、第1皇子側についたのではないなら、ぜひ出兵していただけないだろうか!?」
出た、相手の本音だ。
反乱、クーデターを行う場合、少しでも欲しいのは軍事力だ。特に相手に未知数の軍事力があるのは非常に良い。相手がこちらの手持ちの軍事力を勘違いしてくれるからだ。
先ほどの話で第1皇子は暫定的にではあるが執政権を受け継いでいる。ということは勢力は向こうの方が上、という可能性は高い。
さらに第1皇子は元陸軍。陸軍は第1皇子側だろう。さらに言えば我々は海龍艦5隻に“パッチ”で会っている。ということは間違いなく海軍も第1皇子側だ。
第1皇女側にいるのは、恐らく空軍のみであろう。3軍のうちの1軍しか味方にいないのだ。少しでも多く兵力が欲しいのであろう。
それこそ第2皇女を手に入れたのだから、味方は増えるかもしれない。だが、それは民衆や貴族の味方であって、従軍経験の無い第2皇女では海軍や陸軍が寝返るとは考えにくい。
そうなれば、他から軍事力を“借りる”しかない。
「さて、弱りましたな。私の権限を軽く超えてしまうお話で、即答しかねます。」
越智さんが言った。まぁ、そりゃそうだ。とても一外交官で対処できる話ではない。
「とりあえず、もしも我が国が出兵した場合の話をしましょう。」
越智さんは話を進める気のようだ。
「貴国は我が国に、何をくださいますか?」
「ん・・・」
もちろん、我が国もタダで出兵するほどバカではない。出兵にはお金がかかるし、兵が命を落とすことは普通にあるだろう。
国としてはそれに見合うような報酬が無ければ、出兵できない。
「・・・そちらとしては、何が欲しい?」
リースベト第1皇女が、問い返してきた。
なるほど、そう来るか。
「そうですね・・・。まずは交易権、一部品目の関税免除も欲しいですな。あとは地下資源。さらに我が国との安全保障取り付けと・・・」
「まだあるのか!?」
「まぁ、具体的には本国へ帰らないと何とも言えませんがね。」
越智さん、相当吹っかける気であろうか・・・。まぁこちらも命を懸けるのだ。このくらいは欲しい。
「そしてとりあえずは早急に、我が艦隊に対する損害賠償。」
突然越智さんの目が、狼に戻った。
「そ、損害賠償!?」
「ええ、貴国の内乱に巻き込まれて25名の兵が死に、85名のも兵が負傷しました!そして軍艦1隻が大破しました!これを保障していただきたい!それでないとこの先の交渉は一切できない!」
正確には中破なのだが、黙っておく。
確かに、これを保障してくれないことには我が海軍も動く気はない。
「・・・わかった。損害賠償はしよう。ただし、この内乱に勝ったら、の話だ。私の金庫は首都シャウテンにあるのでな。」
つまりは勝たないと賠償金はもらえない、ということか。
そのために出兵しろというのは、なんだか矛盾しているような気もするが・・・。
外交交渉は、休息に入った。
俺は越智さんと別室で話した。
「どうです?」
「外交はこちらの方ができそうだ。正直第1皇子側とは話にならないであろう。」
「でしょうね。」
「それで谷岡中将。訊ねたいのだが、我が国がこの国へ攻め入って第1皇子側の兵をすべて駆逐し、この国を我が国に併合できると思うか?」
「予算に見合うだけの戦果は得られそうにないですし、いろいろと我々が不利かと。魔法使いの存在もそうですが、我々は首都の場所すら正確には知りません。地形の利はあちらです。」
「同意見だ。では、第1皇女側につく場合は?」
「可能でしょうね。ただ、最後に裏切られないかが非常に心配です。」
「たしかに。」
「どちらにしても、一時帰国ですかね?」
「そうだな。いつでも帰国できるようにしておいてくれ。」
「了解です。」
俺は通信室へ走った。




