外交編-15
結局夜中投稿・・・
21時。
重巡“仙崎”の会議室には、通信室から長々とコードを引っ張ってきた無線機と、俺、エヴェリーナ少将、ペートルス中佐、越智さん、エルネスト少佐が集合していた。
周波数をリサ中尉が持って行った陸戦隊用の周波数に合わせる。リサ中尉が持って行ったのはリュックサック程度の大きさの“小型無線機”だが、軍艦には高性能の受信機がある。よって長距離でもある程度は通信可能だ。
ちなみにこの小型無線機、ドラゴンと遭遇した時から改良され、長距離通信用モールスも打てるようになった。とはいえ、音声通信よりは遠くに届くというだけで、どこでも届くというわけではない。
“・・・ガ・・・スガ・・・ズ・・・ガガガ”
「おかしいな・・・。結構長距離なのかな?」
無線扱いにも慣れたペートルス中佐が無線機をいじる。
少しして、やっとつながった。
“仙崎へ・・・こちらリン中尉。重巡仙崎へ。”
俺はマイクを取った。
「こちら重巡“仙崎”、連合艦隊司令の谷岡だ。リン中尉、聞こえるか?」
“聞こえます。それでは、無線を変わります。”
変わる?
全員が頭に?を浮かべていると、無線機からリン中尉とは別の女性の声がした。
“私は、アドリミア王国第1皇女、リースベト・ラウラ・リア・アドリミアである。そちらの代表者は誰か?”
はっ!?
どゆこと!?
誘拐されたんじゃないの!?第1皇女。
状況は相変わらず“不明”であった。
「室長!返答を。」
エヴェリーナ少将に促されてあわてて応答する。
「私だ。日本民主主義国国防海軍艦隊総司令、兼連合艦隊司令の谷岡中将だ。」
“海軍の将軍か。まぁいい。こちらの要求を伝える。
現在、貴官の部下、リサ・バスケス中尉以下10名を拘束している。”
ふぁ!?
「何だって!?リサがそう簡単に捕まるとは思えないが・・・」
エルネスト少佐が驚愕の表情で言った。
“取引だ。
そちらにいるピーア・マリーア・リア・アドリミア第2皇女と貴様の部下を交換したい。”
エルネスト少佐がこれを聞いて、ものすごい表情で俺を見た。
他の者も俺を見ている。
「わかった。こちらも検討に値する交渉だと思う。ぜひとも検討させていただきたい。
ところで質問もある。してよいか?」
“・・・いいだろう。答えられる範囲なら。”
「先ほど、我々は貴国の港町、パッチへ入港したものの、襲撃をうけ緊急出港したところだ。この攻撃は貴国によるものか?」
第1皇女様は黙った。
「沈黙が回答か?」
“・・・いや。我が国の攻撃であるものと推測される。だが、私に責任はない。”
「あんたに責任が無いから無関係です、とでも言うつもりか?そんなご都合主義が通ると思っているのか!!」
俺は思わず声を荒げてしまった。
“申し訳ない。謝罪する。だが、言い訳も聞いてほしい。”
ここで謝罪を入れるとは。
“スジを通す”ということをわかっているようだ。
だが、外交的には失敗であろう。
謝罪、というのは“非を認める”という側面もある。つまり、謝罪した時点で自分の責任を多かれ少なかれ認めているのだ。
つまりこの時点で、日本民主主義国はアドリミア王国に対して損害賠償請求ができる。相手が自分の責任を認めているのだから。
「その言い訳とは?」
“現在わが国は、内戦状態にある。つまり、あなたらを襲撃したのは、私と対立する第1皇子の手の者と思われる。”
やはり、な。
ぼんやりと予想はついていた。
外交行事予定が色々と変更になったのだ。それは“国に重大な何かがあった”という可能性が大きい。まぁ、それが災害だったりすることも多いのだが。
外交行事と言うのはそうそう簡単に変更になるものではない。もちろん相手に失礼だからだ。ましてや国と国のお付き合いの関係なのだから、どのくらい重要かは素人でもなんとなくわかるだろう。
しかし、内戦とは。
とんでもないときに来てしまったものだ。
「ちょっと貸してくれ。」
越智さんがマイクをとった。
「失礼します。私は、日本民主主義国外交官の越智宗満と申します。
質問させていただきたいのですが、第1皇女様の側にハヴェル公爵殿はいらっしゃいますでしょうか?」
“ハヴェルか?おるぞ。”
それを聞いて越智さんは納得したようだった。
「谷岡中将。どうやら私は茶番に付き合わされていたようですな。私がいままで会っていたハヴェル公爵は偽物でした。」
「安心はできないよ、越智さん。もしかしたら第1皇女様が嘘をついている可能性もある。」
「これで嘘をつかれたら、私と文書交換していたハヴェル公爵とは何者だったんでしょうね。」
越智さんが少し笑って言った。
「一度、会談をしたいと思いますが、いかがですか?第1皇女様.」
様々話して、ようやくこれにたどり着いた。
“良いでしょう。我々としてもあなたたちに会って話したい。”
「どちらへ向かえばよいですかな?」
“東だ。そのまま海岸線沿いに東へ来てくれ。いづれ我が空軍があなたらを発見し、案内するだろう。もちろん、攻撃はしないと約束する。”
「いいでしょう。では、会談を楽しみにしてますよ。第1皇女様。」
“こちらこそ。海軍中将閣下”
こうして、無線は切れた。
「出発用意だ!工作艦“島根”に“大隅”の修理を急がせろ!エヴェリーナ少将、ペートルス中佐、出港用意だ。エルネスト少佐、第2皇女様の護衛につけ。全艦残燃料と補給物資を確認!足りない分は補給艦からすぐに補給しろよ!」
俺はいろいろ指示を出しながら、艦橋へ向かった。




