外交編-10
いつもより少し量が少ないですが・・・
我が艦隊は海龍艦に連れられて、アドリミア王国の港町、パッチに入港した。
実際に岸壁に接岸したのは、旗艦重巡“仙崎”と、輸送艦“大隅”だけだった。
用意された岸壁が狭かったのだ。どうやら向こうは2~3隻で来ると思っていたらしい。他にも岸壁はまだあるのにこれだけしか用意しなかったということは、
“本当になめられているな。”
そう思った。
「“日本民主主義国外交使節団”団長の、越智宗満と申します。」
「ようこそ!アドリミア王国へ!歓迎いたします!
私は、アドリミア王国で外交を担当しております、公爵のハヴェル・クシチュカと申します。書簡では何度か。」
「ええ、お会いできる日を楽しみにしておりました。」
周りには我が国の軍艦を一目見ようと群衆が集まっていた。
その中にアドリミア王国国民以外が紛れ込んだことに気づいた者は、恐らくいなかった。
その様子を重巡“仙崎”の艦橋から見ていた。
「それで?どうなさるのです?第2皇女様を。」
ヘルマー中佐が俺に訊ねた。
「とりあえず“ご病気”ということでしばらく“大隅”にとどめる。幸いここいらを管轄するフィッシャー・ハウエル辺境伯爵とか言うのは第2皇女様の味方だそうだから、最悪そこに引き渡すさ。」
俺は艦橋から下を見ながら言った。
「ま、どちらにしろ、結構越智さん次第、と言う部分はデカいんだがね。」
越智さんは護衛役のエルネスト少佐と数名の特別臨検隊とともに、街の中へ消えていった。
「お話にならない!」
重巡“仙崎”の会議室で越智さんは叫んだ。そしてやけ食いと言わんばかりに特別に作ってもらった夜食を食べていた。
「いったい何があったの?」
俺はエルネスト少佐に訊ねた。
「それがですね・・・、急に晩餐会が中止になってしまったそうで・・・
それに外交交渉もうまくいっていないみたいです。」
「そうか・・・。」
こりゃ第2皇女様には悪いが、カードになってもらうかな?
「それで?リサ中尉の方は?」
「順調のようです。現在一般民に扮し、東へ向かっています。」
臨検隊の一部は、第1皇女の捜索へ向かわせたのだ。
「とにかくいやな状況にならなきゃいいけどな・・・」
そう言いながら俺は寝床へ戻った。
2日目。
俺は外交交渉へついて行ってみた。艦隊はエヴェリーナ少将に任せてあるから問題はない。
交渉は、街の中心部にある大きな屋敷で行われていた。
俺は輸送艦“大隅”から降ろした柳Ⅱ型自動車に越智さんと一緒に乗り込んだ。
「越智さん、いったいどんな具合なんです?」
「最悪だよ。」
「具体的には?」
「アドリミア王国は周辺の国々、とはいってもアドリミア王国以外本当に小さな国なんだが、そこらと“連合”を組んでいる。我々にもその“連合”の傘下へ下れと要求しているんだ。こちらとしては対等な交渉がしたいのに、これじゃやっておれん!」
「こちらの目的は?」
「安全条約の取り付け。できれば大使館の設置。対等な通商条約の締結。
それにしても状況がおかしい。」
「おかしい?」
「ああ。アドリミア王国とは今まで文書でのやり取りはやっていたんだ。その時と印象が違いすぎる。」
「文書が途中で偽造された可能性は?」
「ないな。外務省の職員に持たせていたんだ。その職員が商船に乗って送り届けるから、途中でどうこうされることがあったら、その職員は帰ってこないだろうな。」
「ならば、その職員が・・・」
「恐らくない。うちの職員とアドリミア王国の外交職員が一緒に運ぶんだぞ。この二人がグルでない限り、ないな。」
俺は越智さんの交渉を後ろで見ていた。
ハヴェル公爵とかいう貴族は交渉がど下手だった。
関税をかけるぞ!とこちらを脅しているが、こちらもそれで脅されて困るほど困窮していない。
しまいには国交断絶だ!戦争だ!と叫ぶ始末。
正直思った。
・・・よくこんなで外交担当なんて言えるな。
事件はその夜起こった。
再び緊急のベルが鳴る。
ジリリリリリリリリリン!キンコンキンコンキンコンキンコン・・・
“至急至急!大隅より入電!火災発生!破壊工作員侵入!”
俺は飛び起きた。
艦橋へ走る。
「ヘルマー中佐!陸戦隊を編成しろ!大隅へ増援を出せ!
んで緊急出港だ!本艦も!大隅も!」
「りょ、了解!」
「いったいどうなっているんだ・・・」
俺は艦橋から、火災が発生している大隅を見ながらつぶやいた。




