外交編-9
またもや外交編が外交編でなくなりそうな予感が・・・
まぁいいか。
俺は呆れていた。
ニューリッキ男爵を第2皇女様の待つ大食堂へ連れて行った時の第一声だ。
「ひ、姫様!なぜこちらへ!?」
お前は自分の国の姫様が誘拐されていたことも知らんかったんかい!
ニューリッキ男爵はそれからずっと黙っていた。
ニューリッキ男爵がする予定だったことをすべて第2皇女様がやってしまったからだ。
ニューリッキ男爵からことの詳細を聞いた第2皇女様は、改めて俺ら“日本民主主義国外交派遣団”に挨拶をし、海龍艦についてくるように俺らに指示し、入国時の注意や式典の予定を伝えた。
もともとこのニューリッキ男爵がこんなことを暗記しているわけもなく、その付き添いの儀仗兵の文書に全部書いてあったのだ。めんどくさがりな俺に言わせてしまえば、皇女様が言わんでもさっさとその文書を読ませろ!とも思うのだがそうはいかないのが外交である。
あ~、外交ってめんどくさい!
不思議に思ったのは、伝達事項を終えた時だった。
「では、私はこれで。このアドリミア王国海軍中尉、テュコ・ヴィクセルと他2名を置いていきます。わからないことがあれば彼に質問してください。」
ニューリッキ男爵はそう言って席を立った。
「わかりました。では・・・」
第2皇女様をそちらへお渡ししますので、そちらで連れ帰ってね。的なことを言おうとしたとき後ろから軽く服を引っ張られた。
「?」
後ろを振り向くと、ピーア・マリーア・リア・アドリミア第2皇女様がニューリッキ男爵から隠れるようにして立っていた。
「ピーア・マリーア・リア・アドリミア第2皇女様につきましては、入港してからそちらへ引き渡す予定なので、用意しておいてください。」
ニューリッキ男爵はかなりごねていたが、結局は諦めて“大隅”を去った。
「さてと。第2皇女様.お話を伺えますかな?」
疑問は山積みだ。
空いている個室へ第2皇女様と俺は移動した。ノエルさんも一緒だ。
「さてと、色々疑問だったことを質問させていただきますね。」
第2皇女様はうなづいた。
「そもそも、なぜあなたがあの海賊船に乗っていたか。ずっと疑問でした。なぜです?」
「その・・・。王宮でさらわれて・・・」
「“王宮で第2皇女がさらわれた”。仮にこれが本当だとしましょう。
あなたの王宮はどれだけザル警備なんですか?おかしいでしょう。一国の重要施設である王宮からこんなに簡単に王族が誘拐されるなんて。生きている間に何度身代金要求されればよいかわかったもんじゃない。」
「・・・」
第2皇女様は下を向いて黙っている。
「本当は、どうなんです?」
「・・・」
「わかりました!もう訊ねません。ただし、今すぐにあの海龍艦に引き渡す手続きを始めます!ノエルさん。ちょっと・・・」
「待ってください!」
第2皇女様は大声で叫んだ。
「なんですか?お話にならなくて結構ですよ?」
「話します!話しますから!引き渡すのはやめてください!」
第2皇女様は必至で俺とノエルさんを止めた。
「そう!二つ目のおかしい点は、あなたが自分の国の軍艦への引き渡しを嫌がること。普通は逆ですよね?敵に囲まれたような他国の軍艦より、自国の軍艦へ移ろうとするはずだ。」
第2皇女様はとても話したくなさそうにしている。
「中将。いじめすぎです。」
ノエルさんに小声で言われた。
・・・やはり、少しいじめすぎたか。
そう思っていると、第2皇女様がついに口を開いた。
「・・・助けてください!」
俺とノエルさんは面食らった。
意味が分からない。一国の皇族が他国の海軍に対して、“救援要請”
どういうことだ?
最初は若干ヒステリックな口調で救援要請した第2皇女様は、今度は落ち着いた口調で言った。
「私たちは、暗殺されそうになったんです!」
「「暗殺!?」」
驚くと同時に、またもや厄介事に首を突っ込んだことに気づいた。
「ちょっと待てよ?私“たち”?」
「はい!すぐに姉を、第1皇女のリースベト・ラウラ・リア・アドリミアを助けてください!」
「なんでそれを早く言わない!?」
と叫んだあと思った。それもそうだ。
我々は他国。しかも“外交使節団”。つまりは助かったところで悪用される可能性もある。悪用とまではいかなくとも、相手に“交渉カード”を与えてしまうのは間違いない。
特にアドリミア王国は我々を見下しているらしい。そんな国を第2皇女様が知るわけがないだろう。よって、我が国が人道的な国だとは知らなかっただろう。どころか自分の身すらどうなるか怪しかったのも確かだ。
そんな相手に“救援要請”するのは危険だ。場合によっては自国へ戻ってからの方が良いかもしれない。
「私は騙されて王宮を出たところですぐに連れ去られました!姉は私の2日前から東方の視察に出ています!」
「落ち着け!ならお姉さんが誘拐されたとは限らないじゃないか!」
「誘拐されたとき聞いたんです!誘拐犯が“こいつの姉の方はうまくいっているのか”って言っているのを!」
これはとんでもないことになったかもしれない。




