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異世界で開拓を  作者: 急行 千鳥
海軍都市編
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海軍都市編-15

ドラゴン編、終了です。

俺は久しぶりに海軍司令部の自分の部屋にいた。


あの“反乱軍騒動事件”があってから5日。


俺は後処理に追われていた。


「中将、行きますよ。」

エルネスト少佐の声掛けで、俺は席を立った。



日本民主主義国

首都 桜市

北側の高台


ここに、広い原っぱが整備された。高台とだけあって市街と海が見渡せる、見晴らしのいい土地だ。公園でも整備すればとても良かったかもしれない。


だが、ここは公園ではない。


日本民主主義国

国家墓地


簡単に言ってしまえば、国直轄管理の墓地である。

ここに俺は初めてきた海軍の礼服で参列していた。

エヴェリーナ少将も、ヒネク中佐も、よりによってこんなところで再開することになった。


海軍の主だった者のほとんどが参列し、陸軍からも中将が参列していた。

首相も、軍の上の役所である外務省からは外務大臣が参列している。


そう、今日は葬式であった。


この国家墓地には、国のために尽力したものだけが入ることのできる墓地だ。


「海軍特別陸戦隊第1中隊所属、カイ・デ・ライケ少尉!」

戦死と言うことで、二階級特進となっている。

数が足りないということで急遽製造した霊柩車から、棺が運び込まれる。同じ中隊だった者と第1中隊長が泣きながら棺を運び込んだ。

「同じく、海軍特別陸戦隊第1中隊所属、エリアン・エンゲレン一等兵曹!」

実戦を積んで中尉になった、リサ・バスケス当時第1中隊第2小隊長が骨壺を運び出した。

火葬、土葬は部族の伝統もあるようで、死ぬ前の本人の意思や親族の意思、または部族の伝統を考慮して決定される。

エリアン一等兵曹の場合は、リサ中尉の決定だそうだ。


俺は、敬礼をしたまま、動くことができなかった。



日本民主主義国国防軍の中で、初めての戦死者となった。



「中将閣下、こんな時に何ですが・・・」

「ああ、すぐ行く。」

桜市警察特別機動隊の白根警視に連れられ、俺はパトカーに乗った。



桜市警本部は、中心街にあるレンガ造りの大きな建物だった。交差点の角地にあり、どこか昭和前期のころの警視庁本庁舎を思い出すつくりだ。

机といすしかない部屋に、うなだれた人物がいた。


「ご自分で、取り調べなさいますか?」

白根警視は俺に訊ねた。

「ああ。」

「私も同席します。」

「ああ。」


公文書偽造、軍部規定第3条違反、テロ対策法、その他もろもろの罪で逮捕された、元外務省大臣政務官のリュディガー・ニーダーハウゼン被疑者だ。

立派なスーツは土で汚れたままになっている。

そして、長髪で隠れていた長い耳は、見えやすいように髪が切られていた。


そう、彼はエルフ族だった。


「久しぶりですな。リュディガーさん」

声をかけると彼はゆっくり顔を上げた。

「どうも。中将閣下。」

「いったい何でこんなことをした?」


今までに分かっていることはこうだ。

彼は外務省職員と言う立場を利用し、軍動員の書類を偽造して陸軍を出動させた。陸軍上層部は外務省職員の書類と、軍需庁所属のエルフ族、つまりはリュディガーの協力者に完全に騙されていた。


目的は、彼らの故郷の救出、およびドラゴン討伐。


だがそれには問題があった。


海軍都市建設予定地である。そこには他の省とはいえ役人や、海軍のNO.2が待ち構えていた。さすがに外務省職員とはいえ首相の書類は偽造できなかったし、海軍への協力を要請しようとしたとき斎間大将に怪しまれたことから海軍の書類も用意できなかった。


そこで、肩書だけで乗り切ろうとした。


だが、俺はそこまでバカじゃなかった。


本国へ確認を取ろうとした俺を阻止し、騒動を起こして、本国方面の道をがら空きにして俺を本国方面へ追い払おうとした。一時的にでも追い払うことができれば海軍都市建設予定地を通り抜け、故郷の援助へ行けると思ったのだ。

ところがどういうわけか、俺は逆方向へ走った。しかも陸戦隊をかき集めて。


ここでリュディガーのたくらみは失敗した。


一方で不審に思った斎間大将が関係各所を調べ回った結果、リュディガー他数名の不正に気付いた。

斎間大将は陸軍全体が関わっている可能性を考慮して、首相へ直に報告した。


木嶋総理は考えた。陸軍の関与がある可能性があるから、追撃に陸軍は出せない。海軍陸戦隊は見事に出払っている。空軍の落下傘部隊はまだできたばかりでろくな訓練も始まってない。

そこで、警察を出した。

実は警察はこの国で一番の歴史を持つ武装組織なのだ。元々この国がただの村だった時にできた“自警団”が警察になったのはなんと50年前。軍が発足するまで治安維持だけでなく、国境戦や盗賊団との戦闘など、戦闘経験だけは軍以上に有った。


それが、俺の出した偵察隊の見た光景だ。


陸軍にはこっそり“リュディガーが反逆者”であることを伝え、警察突入時にはリュディガーは四面楚歌だった。


そしてリュディガーを逮捕した警察は、陸軍と空軍の手を借りながら海軍陸戦隊を追ったわけだ。




「なぜやったかは、もう言った。調書を読んでないのか?」

「言え。お前の口から聞きたい。」

リュディガーは、一呼吸おいてから言った。

「我が同族を、助けたかった。」

「そのために、陸軍が5名、海軍が18名戦死した。」

「だが、我が同族は助かった。」

「そんなわけあるか。最初から首相の説得に走っていればこんなことにはならなかった。あのおっさんを説得するくらい、たやすかったろうに。」

「そのためには自分の素性を明かさなければならん。」

「だからどうした?」

「我らエルフ族と言うのは、この周辺では忌み嫌われることが多くてな。いくらこの国が人種差別を禁じていても、人の心は変わらない。」

俺はため息をついた。

「だからって今回のことが報道されて、戦死した兵の遺族はどう思うだろうな?勝手な命令で戦死した原因であるあんたを、エルフ族を。それがエルフ族への差別へとつながることを予想しなかったのか?」

「そ、それは・・・」

リュディガーは黙り込んだ。


「安心しろ。そして心優しい国民性とこの国の教育に感謝しな。今のところ、そんなことは起こっていない。」

リュディガーの顔が明るくなった。

「だがな!忘れるな!あんたのせいで23名が死んだことを!最初から救援目的で出動していればもっと多くのエルフ族を助けられたことを!」



俺は勢いよく立ち上がり、リュディガーをぶん殴った。



リュディガーは取調室の隅までぶっ飛び、俺は白根警視に羽交い絞めにされた。


「本来ならなぁ!貴様を墓地まで引きずっていって土下座させたいよ!遺族一人ひとりの前で謝罪させたいよ!この悔しさが分かるか!ぁあ!?」

俺は白根警視に取調室から引っ張り出された。


海軍都市建設の任はヒネク中佐に移っていた。佐藤も動員されたらしい。ヒネク中佐は新しい海軍学校の建設を条件に喜んで引き受けたという。


迎えに来てくれたエルネスト大尉の運転する車に乗って、俺は桜市警本庁舎を後にした。


俺は斎間大将から休暇を出された。1週間の臨時休暇だ。

陸戦隊全員にも、同じ休暇が出されていた。


だが、陸戦隊員はすでに問題だらけだった。

初の実戦を乗り越え、精神的病気になった者もいれば、仲間を撃ち殺した陸軍を目の敵にする者もあらわれた。中には国家墓地から離れたくないと暴れたやつもいるという。


それを俺は、宴会を開いて気分転換させようとし、精神病手前の者には御託を並べ、柄にもなく相談に乗ったりした。


このときほど思ったことは無い。



たとえ不謹慎と言われようと、




中将なんてやるんじゃなかった。




ドラゴンの死体がどうなったかは、またいづれ。

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