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異世界で開拓を  作者: 急行 千鳥
海軍都市編
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海軍都市編-9

少々つらくて暗い部分が続きます。



「んぉうぇえええええ!!!」


自分でも驚くほど吐いた。


戦争の実体験。それは言葉にできない何かをこみあげさせるには充分だった。


だが、軍の高官ともあろう俺が本来こんなことをしてはならない。

こんな上官ではその下で戦う兵が不安になる。


だから俺はエルネスト大尉に戦車隊の誘導と兵の点呼、リサ少尉に周辺警戒を命じて一人になった。

そして、消防車の陰の草むらでこんなことになっているのである。



1分で無理やり立ち直った。

「大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」

エルネスト大尉が報告に来た時の第一声だ。やはり1分では無理だったらしい。

元々日本国と言う戦争とは良くも悪くも無縁の国で育ったのだ。“温室育ち”と変わりない。

「タバコあるか?」

エルネスト大尉は驚いた。

「タバコですか?中将は普段まったく吸わないとお聞きしてますが・・・」

「吸いたいときもあるんだよ。」

煙草を一本貰い、ライターも借りて吸った。


前の世界から考えても、これが初めて吸ったタバコだった。



その後、念のためさらに東進した。

戦車隊にサンドイッチされる形で、海軍都市建設予定地から距離を取る。

道はもちろん舗装なんてされていない道だったが、戦車が走ってもなんら問題ないほどにしっかりした道だった。何度も馬車が通るうちに、地面がしっかり固められていったのだろう。


パン!

小さく銃声がした。小銃や拳銃の銃声はアニメで聞いていたほどうるさくなく、むしろこの音を聞いても日本人は“銃声”だとすぐにはわからないだろう。たぶん、タイヤがパンクした音の方がでかい。そのくらい銃声と言うのはあまり小さく迫力の無いものなのだ。

「何の発砲だ!?」

俺は無線に叫んだ。

すぐに返答が来た。

“ファブルと呼ばれる魔性野獣です!”

リサ少尉の声だった。


ファブル

一応聞いたことがあった。狼みたいな動物で、群れで行動する。

そして、人を襲う。


「戦車隊!支援できそうか?」

“できます!”

「リサ少尉!対応は任せる!万が一の場合は戦車隊に支援を要請しろ!」

“了解!”

無線はリサ少尉が兵に指示を出す実況中継となった。


2式不整地走行大型車、通称“高機動車”の車内で俺はエルネスト大尉に訊ねた。

「ところで、魔性野獣って何だ?」

「えっ!?知らないんですか!?」

「すまんな。海の生物はよく調べていたんだが・・・」

ペートルス少尉に教わったのが懐かしい。

それはさておき。

「魔性野獣というのは普通の野獣と違い、魔力を持った、または魔力を使う野生動物のことです。魔性動物と言ったりもしますね。」

「魔力だぁ!?」

そんなもん存在するのかよ!

前にも言ったが本当に何でもあるな!

「ええ、魔力です。確かに日本民主主義国にいると、魔力の存在を忘れそうになりますよね。」

「じゃあ・・・魔法使いとかいるのか?」

恐る恐る聞いてみた。

「いますよ?数は少ないですけど。」

「マジかよ!」

もうほんとに・・・・以下略でいいや。


「んで、そんな魔力を使う動物相手に歩兵でどうにかなるのか?」

「なるでしょう。旅商人なんかは剣一本で切り抜けたりしますからね。」

商人最強説か!?

「まぁ、相当危険なところは団体を組んで護衛を雇うのが普通ですけど。」

そうでもなかった。


ドォン!

少し離れたところから戦車の主砲の発砲音がした。


ドォン!ドォン!

次々と聞こえる。

「おかしくないか?」

俺はふと思った。主砲の発砲音が前後両方から聞こえる。

リサ少尉が戦っているのは前方のはずだ。


「戦車隊!状況報告せよ!」

“後方にもファブル!包囲されている可能性があります!”

確かに。狼同様ファブルが頭のいい動物だったら取り囲むくらいするだろう。

「リサ少尉!歩兵を全員トラックに乗せろ!乗りきらない分は屋根でもどこでも乗れ!無理やり乗れ!包囲網を強行突破する!」


「まずいですね・・・」

エルネスト大尉が言った。

「どうした?」

「時間です。ただでさえ森の中で薄暗いのにもうすぐ日が暮れます。」

「我々にはトラックがある。速力を上げて移動できる、と言う点が幸いだな。」

「旅商人に聞いたところ、この森を抜けるのには半日かかるそうです。」

「馬車で半日、我々なら・・・。3時間はかかるか。」

そのころには完全に日没だ。

「無理やり突破するしかないな。」



自分の判断の甘さと無知を呪った。

俺の判断で森へ突入し、兵の命を危険にさらしている。




責任の重さは、




胃に穴が開く、と言うレベルをはるかに超えていた。


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