海軍都市編-8
良い子の皆さんはマネをしないでください。
みなさんは、空港を利用したことがあるだろうか?
おそらく日本に住んでいれば多くの人が利用したことがあると思う。
前の世界ではLCCと呼ばれる格安航空が誕生して、貧乏学生でも乗れる額まで安くなっていた。
その空港で“万が一”が起きた場合を見たことがあるだろうか?
もちろん、起きないのが一番ではあるが、起きた場合は大惨事になることは素人でもわかる。
そんな時に出てくるのが、“空港専用の消防隊”だ。
消防車も空港専用の、まるで装甲車に放水銃をつけたようなごついのが出てくる。
これを正確には“空港用化学消防車”と言うそうだ。
なんでもこの空港用化学消防車は国際基準があるらしく、それであんなにでっかくなるらしい。
この世界に来る前に地元の“少年消防団”に入っていたころに消防署の人に聞いた話だ。
そんなことはどうでもいい。
「放水!」
屋根上の放水銃から高圧で水が放水された。
「おわ!」
「ぼふっ!」
短い悲鳴を上げて陸軍兵がはるか遠くへ吹っ飛んでいく。
「いいぞ!陸軍兵を吹っ飛ばせ!」
俺は空港用化学消防車に指示を出した。
そこへ、エルネスト大尉が最後の歩兵部隊をつれて戻ってきた。
「この歩兵が最後です!あとは彼らがトラックで対岸に渡れば・・・ってなんですかこりゃ!」
「ん?消防車だけど?」
一体彼はなんでこんな質問をしているのだろう?(笑)
「なんでそんなものがここにあるんですか!?」
やっぱり。質問の意図はそうだろうな。
「うちって装甲車持ってないだろ?装甲車代わりと暴徒に出くわした時の鎮圧用に持って来た。これなら陸軍兵も殺さずに済むだろう?」
自分の用意の良さを自慢する。
「本当ですか?」
「何が?」
「あんなに陸軍兵飛んで行って、死にませんかね?」
エルネスト大尉は軽く10mくらい吹っ飛んでいく陸軍兵を見ながら言った。
「・・・。まぁ、銃で撃つよりかは・・・」
自信無くなってきた・・・。
(よいこのみんなはマネをしないでね)
最後のトラックが木製の橋を渡り、後は戦車隊と消防車だけになった。
俺とエルネスト大尉は消防車に乗り込んだ。
「ところで、こんな大きな車両が渡って橋が壊れませんかね?」
「・・・あ~・・・どうでしょう?」
空港用化学消防車には何種か車種があるが、だいたい15t~50tくらいだったような・・・。
あれ?物によっては戦車より重くね?
・・・やばくね?
「あの~、谷岡中将?すごい汗かいてますけど大丈夫ですか?」
エルネスト大尉が俺の顔を覗き込む。
「ええい!全速力でバックで渡るぞ!」
「マジっすか!」
その時、小型無線機から通信音声が聞こえた。
“戦車隊!あと15秒で川へ突入する!”
「中将!時間が!」
放水ポンプを操作していたリサ少尉が叫んだ。
「行くぞ!」
俺はギアをRに入れて、思いっきりアクセルを踏んだ。
ドアを閉めていても、橋がミシミシ言っているのが分かった。
どころか左右に揺れている。
そこを、重量最低でも15tはあると思われる車両が全速力でバックするのだ。
もちろん、橋は崩れ去った。
消防車は何度か川に落ちかけたが、橋を破壊しながらバックを続け、対岸にたどり着いた。
「い、生きてた・・・。」
対岸にたどり着いた時、乗っていた俺、エルネスト大尉、リサ少尉の3人とも、大きな安どのため息をついた。
この時は、完全に油断していた。それを引き締めてくれたのは、すでに対岸に渡っていた兵だった。
ドアを銃でガンガン叩いて兵が叫んだ。
「後退!戦車が来るぞ!」
前を見ると、対岸からⅢ号戦車がこちらを狙っていた。
「まずい!」
あわててまたバックした。
次の瞬間には、先ほどまでいた場所が爆発していた。
車体が大きく跳ねる。
「おわっ!?」
「ひゃっ!」
同乗者の2名が軽く悲鳴を上げた。
俺はそのまま空港用化学消防車を森の中へ突っ込ませた。
しばらくは動けなかった。
目の前で砲弾がさく裂してケガをしたわけではない。フロントガラスにひびは入ったが。
体が今さら震えはじめたのだ。
どこか、戦争を、戦闘を知ったようなふりをしていた俺は、よくよく考えれば当たり前なのだが、“初実戦”だったのだ。
銃弾が飛び交い、砲弾がさく裂する。
下手したら死ぬ。
こんな世界に来たことを、
1年以上もたって初めて知った。




