2つ 編-14 閑話
更新遅くなりました。すいません。
今後もこのくらいの更新ペースになると思います。
気長に待ってくださると幸いです。
少し時は戻って2021年5月19日。
山形県内某所
「先輩~、なんでこんなところで検問はってんっすか?車すらろくに来ないじゃないですか~」
比婆巡査はぼやいた。
「知るかよ。なんでも県警本部からのお達しらしい。いいから真面目にやれ!交通課はお前だろうが!俺は駐在所勤務だから手伝いなんだぞ!」
寒川警部補はだらけている新人、比婆巡査に怒鳴った。
「そう言われるのもわかりますけど~。
こんな見通しのいい田園風景のど真ん中で検問はって、意味あるんすか?」
比婆巡査の言うとおりだった。
検問は気づかれないように、いつもはどでかい宣伝看板の裏の空き地に設置していた。ところが今回は見通しのいい、遮蔽物が一切ない空き地にテントを張って構えている。
「そもそもにおいておかしいっすよ!うちの署の今日の活動、ほとんど検問だけですよ!?うちの管内に何か所も検問はって、交通課だけで人手が足りないからって地域課から人手借りて、さらに本部から自邏隊(自動車警邏隊)と高速隊まで借りて来て・・・。いったいどんな重犯罪者が逃げてんっすか!?絶対スピード違反の取り締まりじゃないっすよね!」
比婆巡査のごもっともなボヤキに、寒川警部補はどう返していいか言葉に詰まるばかりであった。
その様子を遠くから見ていたものがいる。
そう、佐藤少将とその妻、イーリス中佐だ。
「ダメだ。こっちも封鎖されてる。」
「そんな・・・」
佐藤が異変に気付いたのは昨日、つまりは18日であった。
親戚が訊ねてきた時に「いや~、最近この辺検問が多くなったな」とぼやいたのを聞いて、ふと不思議に思ったのが始まりだった。
気づけば祖父母の家の周辺には検問が多く設置され、普段利用客も少ない最寄り駅には警官が複数名立番していた。
「もしかして、最初からはめられた?」
佐藤は一つの結論を出した。
“思えばあんな行き当たりばったりの思い付きの作戦が成功したこと自体がおかしい。桜丸の警戒があそこまでおろそかな時点で疑うべきだったんだ。もしかすると「敵」の目的は人獣種であるイーリスの確保?とすると・・・。
最悪だ。捕まえる理由なんていくらでもある。不法入国なんて言われたら言い訳のしようもない。”
偵察から落胆して帰った二人を佐藤祖父母は複雑な表情で迎えた。
佐藤祖父母の本音としては、イーリス中佐が人獣種であろうがどうでもいい。ただ、孫にはそばにいて欲しい。
だが、現在の日本ではイーリス中佐は出歩くことすら難しいことも理解している。だから、元の世界へ戻ることが良いことだというのも理解している。
だが、孫夫婦にはここにいて欲しいというのが本音であった。
翌日(5月20日)、佐藤の携帯が鳴った。
表示されたのは知らない番号だった。
出るべきかどうか一瞬迷った佐藤ではあったが、思い切って出て見た。
“やっとつながった。佐藤少将だね?”
相手は女性だった。ただ、声からして若くはない。
「え?ええ・・・。あの~、どちら様でしょう?」
“空軍の三枝だよ。今は、航空自衛隊の三枝空将補、というのが正しいかね。”
佐藤は電話を持ったまま敬礼した。
「あ、ハッ!失礼しました!それで、何のご用でしょう?」
“いやなに、あんたが大変なことになっているのは知っているよ。勝手に人獣種まで連れて来て、何をやっているんだい!”
「返す言葉もありません・・・。」
“あんたらが桜丸から下船するところは偶然私の元部下が見ていたからね。
それで、助け舟は必要かい?”
2021年5月21日。
「今日からは通る車全部止めて身分証確認しろだとさ。一体どうなっているんだ?」
寒川警部補はため息をついた。
「だから言ったんっすよ~。速度取締じゃないって~。
公安部さんの指示で、あまり表に出せない指名手配犯でも追っているんじゃないんですか~?」
比婆巡査がそんなことを言っていると、笛を吹く音が聞こえた。
「おや、平均1時間に1度のお客さんだ。」
比婆巡査と寒川警部補は、テントを出た。
そこにいたのは73式小型トラック数台、戦車を積んだトレーラー2台、軽装甲車5台であった。
「おいおい、そんなもん止めてどうするんだよ。」
寒川警部補は近づくなり言った。
「いえ、ですが命令では通る車はすべて止めろと・・・」
新人警官は真面目にそう答える。
「あ、そう。」
寒川警部補がそう言ってテントに戻ろうとすると、軽装甲車から一人降りてきた。
「陸上自衛隊の荒川二佐だ。いったいこれは何なんだ?」
「寒川警部補です。すいません。部下がバカ真面目なようで。
それでこれ、どこへ向かっているのです?」
「宮城の駐屯地だ。この前山形であった自衛隊祭りの展示品の返却だ。」
「それはご苦労様です。」
寒川警部補はまだバカ真面目に一人一人免許証確認をやっている新人警官に怒鳴った。
「おい!もういいだろ!自衛隊の中に指名手配犯でもいると思うか!?さっさと通せ!」
再び動き出した自衛隊の車列。
そのトレーラーに乗せられた74式戦車の中に、佐藤とイーリスが乗っているとは、さすがに予想のつかないことであった。