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異世界で開拓を  作者: 急行 千鳥
2つ 編
133/174

2つ 編-8 閑話

佐藤がメインのお話です。

“本日もJR東日本をご利用いただき、ありがとうございます。この列車は、つばさ397号、山形行です。途中止まります停車駅は、上野、大宮、宇都宮・・・”


この東京駅を夜遅くに出発する山形新幹線に帽子を深くかぶった女性と、若干太った男性が乗っていた。

「まさか、うまくいくとは思わなかったな・・・」

若干太った男性が言った。

「正直、私も・・・」

帽子を深くかぶった女性も同意した。



「だけど、あなたの世界を見れて本当にうれしいです。こ、浩太・・・」

「う、うん!僕もだよ・・・。イーリス。」

二人とも耳まで真っ赤に赤面した。


そう、この二人は佐藤浩太少将とイーリス・シルヴィオ中佐。めでたく婚約したものの、未だ結婚には至っていない初心うぶなカップルだ。



だが、佐藤少将はともかくイーリス中佐がこの場にいるのはおかしい。“門越艦隊”に乗れるのは“元日本人”だけであり、日本民主主義国のある世界の人は乗ることはできない。

それをなんと、佐藤は古典的な方法でやってのけた。


まず桜港では、大きなスーツケースにイーリス中佐を入れて持ち込んだのだ。

運も良かった。荷物検査をしている兵が佐藤少将の知り合いで、早く乗りたいと言ったら荷物検査なしで“桜丸”まで案内してくれたのだ。

さらに、佐藤は軍人の、しかも将校とだけあって小さいながらも個室があてがわれた。よって、イーリス中佐はその個室でのびのびと過ごすことができたのである。


だが、降りる時が問題だった。

水島港では赤外線センサーによる荷物検査が行われていたためだ。


これをどうやって解決したかと言うと・・・

佐藤の冗談半分な発案で、夜中にイーリス中佐が“桜丸”から海へダイブ。翌朝の朝一で佐藤が乾いた服を持って迎えに行くというもの。

これがまた成功してしまったものだから驚きである。


とにもかくにも。

このようにしてこの二人は落ち着いて山形新幹線に乗れたわけである。


佐藤とイーリスは、山形駅からタクシーに乗って佐藤の祖父母の家へ向かった。父親が転勤族の佐藤は、自分がいなくなって数年たった世界では自宅がどこにあるかわからなかったのである。一方で佐藤祖父母は農家で、畑があるため引っ越しはしていないはずだ。そう言う考えから佐藤は祖父母の家を目指した。



祖父母の家へ到着したのは夜中だった。

「ここが、浩太の家・・・」

「いや、ここはおじいちゃんの家だよ。父さんは3年くらいするとすぐに引っ越す人だから。」


「浩太!!」

そんなことを話していると、家からおばあさんが飛び出してきた。佐藤の祖母だ。御年86になるというのに、成人男性並みの速さで走ってきたことに佐藤は驚いた。

「あんたぁ!浩太が帰ってきたよー!」

佐藤祖母が家に向かって叫ぶ。

「ほ、本当か!?」

佐藤祖父が玄関から顔を出した。

(あ・・・)

だが、佐藤が最後に見た祖父の姿からは大きくかけ離れていた。


佐藤が異世界へ行く前の夏休み、この家を訪れた時には祖母よりも元気で広い畑をほぼ一人で管理していた祖父は、杖をつき、歩くのもやっとになっていた。

佐藤は自分がタイムスリップもしたことをこの時実感した。


「んでよぉ、その隣のべっぴんさんは?」

少し落ち着いた佐藤祖母が訊ねた。

その答えには佐藤が答える前に、イーリス言った。

「私、イーリス・シルヴィオと申します。佐藤浩太さんとお付き合いさせていただき、婚約もしました。

本日は浩太さんの血縁者にご挨拶したく・・・」

それ以降の言葉は佐藤祖母には届かなかった。届くわけなかった。


「あんたぁ!大変だべや!浩太が嫁さん連れてきたでよー!」

「なんじゃと!?ばぁさん!電話じゃ電話!あのバカ息子(=佐藤父)に電話じゃ!」


その日は佐藤祖父母の家に泊まった。

翌日、仕事最優先の佐藤父が平日だというのにやってきた。


少し話をした後、佐藤父は頭を下げた。

「出来損ないの息子ですが、こんなのでよければよろしくお願いします。」

その後、すぐに仕事に戻ると言って佐藤父は車で去って行った。


「・・・あの。浩太。お母さんは?」

佐藤は少し遠い目をして言った。

「ああ、そういえば話してなかったね。


会いに行こうか。」



佐藤、イーリス、佐藤祖父母の4人は、バケツと花と線香を持って家の裏手の山を登った。

登り始めて1分もしないうちに、目的地に到着する。


“佐藤家之墓”

「母さんは小さいころに交通事故で死んだんだ。」

「えっと・・・」

自分以外の3人が手際よく線香に火をつけたりしているのを見て、イーリスは何をしていいか戸惑った。日本民主主義国には仏教はあるにはあるが、仏教徒なのは元日本人を主体としたごくわずかであり、イーリスは“お墓参り”の作法を知らなかったのだ。


「あ、イーリス。これはこうやって手を合わせて・・・」

佐藤は丁寧にお墓参りの作法を説明した。とはいっても佐藤も仏教に詳しいわけではなく、一般常識程度のものだが。


その様子をほっこりした表情で、佐藤祖父母は見ていた。






そこまで意識してなかったけど、佐藤って結構無茶なことをすることが多いような・・・

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