2つ 編-7
「今、あの世界の状況は原始人の隣に水素爆弾が置いてあるようなものよ。そう言えば、どのくらい危険かよくわかるでしょう?
だからこそ、危機感や危機管理能力が必要だったのよ。よりによってその衰退した文明が、神に刃向うような文明だったしね。」
白井(仮称)は運転しながら続けた。
「まぁそれはわかった。
じゃあなんで、あんな大勢の日本人を?」
「別に日本人だけではないわ。ドイツ人だってアメリカ人だって送っている。偶然、日本人がダントツになったけど。
神の力である世界の生物を他の世界へ送るにはいくつか条件があるの。
まず、その人がいなくなってもおかしくない状況であること。つまり、あなたみたいに“災害に巻き込まれて行方不明。遺体もなし”という状況ね。
二つ目に、異世界での順応力がある人。もちろん、送ってもすぐに絶望して自殺されては意味ないから。
この条件に当てはまり、さらに危機管理能力を持っている人と言えば・・・」
俺はこれでわかった。
「危機管理能力は技術者に多い。そして、先進国の中では日本は災害大国だ。」
「そういうことよ。さらに“ライトノベル”があることも二つ目の条件に貢献したわね。」
まさか世界を救うのにライトノベルが一役買っていたとは、ライトノベル作家も予想していなかっただろう。
「大まかにはそう言うことね。」
「そうか・・・
なら、大学生はなぜ送った?高専もいたぞ?」
「それは、危機管理能力を含めた技術を後進に伝えてもらうためよ。そこに、あの世界の人たちも加われば・・・」
「そんな理由で俺は異世界トリップさせられたのか。」
白井(仮称)は真面目な言葉遣いをやめて、いつものふざけた雰囲気になった。
「それで、私の世界は気に入らなかった?」
「・・・どうだろうな。俺にとってはこの世界へ帰ってきたのも、なんだか流れに乗せられて・・・。みたいな感じがするし。」
「できれば、早めに私の世界へ帰ってもらいたいな~」
そう言いながら白井(仮称)は“見えるラジオ”、助手席の上側にある電光掲示ラジオを指さした。
“国際連合。瀬戸大橋発光に関して緊急会議を招集予定。”
“自衛隊。異世界への調査派遣検討。”
“アメリカ。ハワイより空母を横須賀へ追加派遣。”
「せっかく帰ってきたのに、せかして悪いね。無理矢理家族と引き離した罪は、自覚しているつもりだよ。」
白井(仮称)は謝罪した。
俺は何と答えていいかわからず、黙っていた。
そして最後に、白井(仮称)は再びいつもの調子に戻って言った。
「ところで・・・。福山駅ってどっちだっけ?」
標識には福山よりも広島に近い“尾道”の表示が出ていた。
その後、在来線で広島駅に到着した俺はバスに乗り換え、実家へ向かった。
広島市内にある海が見えるマンションの15階。
そこが俺の実家だ。
異世界に行ってしまったときに持っていた実家のカギを1階の入り口で使う。
ピッ、ウィィーン
当たり前だが、自動ドアが開きエレベーターホールへ行けるようになる。
それが、なぜかあまりにも新鮮な感じがした。
「はは・・・。そうだよな。当たり前だよな。」
すごく変な気分になった。
エレベーターに乗って“15”を押す。
そういえば、こんな近代的なエレベーターは久しぶりだ。日本民主主義国でもエレベーターはあるが数は少なく、ドアは手動だった。
そして、共同廊下を歩いて自宅の玄関ドアまで来た。
「・・・なんで実家なのに緊張しているんだか。」
途中でバカらしくなってきた。
インターホンを押すと、すぐに返答があった。
「一朗!」
真っ先に飛び出してきたのは母親だった。
さらに、奥から祖父母や親戚が次々出てくる。
「内閣府から電話があってな。今日あたり帰ると思っていたよ。」
すっかり老け込んだ父親が言った。
「お帰り」
そう言われたとき、俺の脳裏によぎったのはこの実家の光景ではなかった。
日本民主主義国歴13年4月3日
桜鎮守府
マレナ少佐(当時)以下、海軍の仲間が自主的に出迎えてくれた光景。
「母さん。帰ってきてすぐでなんだけど・・・。
俺の荷物をまとめるのを手伝ってくれない?」
俺は2つの「お帰り」を言われるところのうち、
日本民主主義国を選ぶことにした。