第3艦隊編-15
この前海軍好きな友人が教えてくれました。
「1kn=時速1.852kmって覚えにくいだろ?簡単に覚えられる方法があるんだよ。
カレンダー見てみ?それで1日のところの縦行の数字を見ると、1、8、15、22。この数字の一の位だけ見ると、1.852だ。」
彼は29日は気にしないそうです。
“隊長!艦爆2機堕ちます!”
“ちくしょう!何なんだあれは!?”
“艦戦隊!制空権はどうした!?”
“アレ相手にどうしろっていうんだよ!”
輸送船団護衛をしていた空母“立山”“高山”の第2次航空隊はこのような通信を残して全滅した。
「いったい何があったんだ!?」
空母“立山”の艦橋に姫城大佐は怒鳴り込んだ。
「それが分かったら苦労しないわよ。」
ミーサ大佐は冷静に言った。
「すぐに出る!発艦許可をくれ!」
「ダメよ」
格納庫へ走ろうとした姫城大佐は足を止めた。
「なぜだ!?」
「相手がなにかもわからないのに第3次攻撃隊は編成できないわ。それに、まだ整備中の機体も多い。」
「なら輸送船団はどうなる!?あいつらは護衛に駆逐艦しかつけていないんだぞ!」
「分かってるわよ!だけど、全滅すると分かっていて航空隊を出せるわけないでしょう!」
ミーサ大佐と姫城大佐は同階級だ。だが、発艦許可は空母“立山”艦長であるミーサ大佐が握っている。さらに言えば谷岡中将から指揮権を空母艦隊に限り委譲されたミーサ大佐は、事実上艦隊司令だ。ミーサ大佐が“否”といえば姫城大佐は空へ飛び立つことができなかった。
「ミーサ!あんたじゃ話にならない!谷岡の艦隊司令と直接話をさせてくれ!」
姫城大佐の訴えにミーサ大佐はうなづいた。すぐに艦橋にある簡易通信機にいる通信兵が通信を試みる。
だが、一向に繋がらない。
「どうしたの!?」
「わかりません!向こうの無線アンテナが壊れたのかも・・・。通信室に依頼してみます!」
通信室で受信すれば、艦橋の簡易通信機よりも弱い電波に気づくことができる。もしも、無線の出力が十分でない状態で返電が来ていた場合、通信室なら受信できる可能性はあった。
だが、結果は同じだった。
「どうするんだミーサ。このままじゃ輸送船団はやられるぞ。」
少し冷静になった姫城大佐がミーサ大佐に言った。
「ええ、わかってる。だから、手を打つわ。」
「航空隊発艦か?」
「いえ、それは残りの全機が整備を終えてからにします。」
その後、姫城大佐が音声通信で出した命令は、空母艦隊全艦が驚く命令だった。
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「救助急げー!」
敵艦隊をどうにか全滅へ追いやった重巡“仙崎”以下は戦艦“瀬戸”の沈没地点へ集合していた。
「どうだ?空母艦隊か輸送船団と連絡は取れたか?」
俺は重巡“仙崎”艦長のハンナ中佐に訊ねた。
「ダメです。戦艦“音戸”、本艦、重巡“下関”はアンテナ損壊。今、無事だった軽巡洋艦で試みていますが、あの艦も水雷戦隊で雷撃時に砲撃をくらってますから望みは薄いかと・・・。」
そう、現在この艦隊では無線が使える艦がほとんどなくなっていた。水雷攻撃に参加した艦は砲撃をくらってアンテナ損壊、大型艦も同じであった。まだまだ無線を含む精密機械の精度が十分でない日本民主主義国国防海軍では、近くに砲弾が着弾しただけで無線の調子が狂うこともよくあった。
その時、俺は甲板に解決策を見つけた。
俺は、艦橋から走り出した。
「伊豆大尉!」
それは、兵器廠から派遣された伊豆大尉であった。戦艦“瀬戸”で無線の増強工事を行っていた伊豆大尉以下兵器廠派遣の技官たちは、せっかく完成した増強無線の本領を見ることなく海に投げ出されたのであった。
伊豆孝彦大尉は海に投げ出されても手放さなかった眼鏡をかけなおしながら俺を見た。
「あ、谷岡中将。どうしました?」
「すぐに君の部下を集めてくれ。海から上がったばかりで悪いが、仕事だ!」
伊豆大尉はあからさまに嫌そうな顔をした。
伊豆大尉達はすぐに仕事に取り掛かった。元々全員が技術士官なのだ。しかも、通信部ともなれば無線に詳しいのは当たり前。もちろん、海兵も無線の扱いや修理方法については心得ているが、細かい調整と場数は伊豆大尉達の方が上だった。
「司令!大変です!輸送船団から緊急通信です!敵艦隊に捕捉され、非常に危険な状況だと!」
通信士が艦橋へ走りこんできた。
「空母艦隊は何をやっていたんだ!まぁいい。場所は!?」
「ここから近いです!」
「ハンナ中佐!すぐに出るぞ!
重巡“仙崎”“下関”と水雷戦隊はすぐに輸送船団を追いかける!戦艦“音戸”及び水雷戦隊以外の駆逐艦は救助活動を続行!」
そして俺は無線修理が終わったことを報告に来た伊豆大尉達に言った。
「君たちには悪いが、今度は戦艦“音戸”を頼む。」
伊豆大尉はその場で倒れた。
重巡“仙崎”“下関”と水雷戦隊は30分もしないうちに輸送船団に追いついた。
「輸送船団より通信!“火の龍”に注意されたし!」
「火の龍って・・・まさかドラゴンか!?」
通信兵の報告に、俺は火を吹くドラゴンを思い出した。あれはある意味軽いトラウマだ。二度と会いたくない。
「さぁ・・・。そこまでは・・・」
さすがに通信兵も何のことかまでは断定できなかった。
「艦長!」
見張り員が叫んだ。ハンナ中佐はあわてて望遠鏡をつかんだが、それは不要だった。
なぜならそれがとても大きかったからだ。
「“火の龍”って火を吹く龍じゃなくて、火でできた龍のことかよ!」
空には敵艦の甲板から巨大な龍の形をした火柱のようなものが立ち上っていた。
それが、敵艦の火災でないことはすぐにわかった。
なら、何か?
もちろん、日本民主主義国国防海軍に対する攻撃である。
「取り舵!」
重巡“仙崎”がものすごい傾斜角で曲がって行ったそのすぐ横を、火でできた龍は飛んでいったのであった。
「通信士!空母艦隊へ“至急支援を乞う”と送れ!」
そう叫ぶと同時に俺はふと思った。
消防車、持ってくればよかった。