静寂
野鳥の鳴き声が聞こえる。
それは何かに攻め立てられるような慌ただしいものでは無く、まるで聞く者に朝を伝えるような優しい鳴き声。
風が通り過ぎていく。
それは激しい強風が体を揺するのでは無く、まるで優しい誰かが髪を撫でるように柔らかなもの。
光が体を照らす。
それは強い閃光では無く、窓から部屋を覗く朝日のように温かいもの。
神酒がふと気が付くと、彼女は広い野原の真ん中に、ポツンと一人で倒れていた。
彼女は何か不思議な感じがして辺りを見回すが、そこには石着山の見慣れた自然の風景が広がっていて、今はまだ朝日が昇ったばかりらしく、野鳥が目覚めの歌を歌い、柔らかな風が優しく彼女の頬を撫でていく。
やっと神酒は昨日の激しい出来事を思い出したが、周辺はまるでそれが夢だったのかと思うほどに静まり返っている。しかしよく見ると【アザトースの種子】に荒らされた野山には多くの傷跡が残っていて、彼女はとりあえずあれが夢では無かったということを理解することが出来た。
幸い【花子さん】が大切にしていたモミの木は無事で、おそらく彼女の心配事は解消されるのだろう。
神酒は仲間たちを捜そうと起き上がると、自分の体調が意外に調子が良いことが判った。あれだけの戦いの後なのでそれが不思議な気もしたが、彼女はそれを深く追求せずにキョロキョロと歩き回り、すぐに神酒と同じように失神していた輝蘭や詩織たち全員を見つけることが出来た。
すぐにそれぞれは意識を取り戻したが、今の状況があまりにも静か過ぎて、どこか昨日のことが改めて現実では無かったような気もしてくる。そこで面々はお互いに顔を見合わせると、呆けたように質問をし合った。
「ねえ、あれって現実?」
「あれからどうなったの?」
「なんでここにみんな居るワケ?」
「ここ天国?」
「あたしたちって生きているんだよね?」
もう誰が誰の台詞なのか、作者にすら判らない。
しかしそれぞれの質問は共通していて、誰もが昨日の出来事が現実かどうか。そしてあの後にどうなったのかを知りたがっていた。
そして、それに答えたのはティムだった。
ティムの話によると、【アザトースの種子】が扉に引き込まれる瞬間、その根を張り吸引を免れようとしていたのだという。しかしその後に数機の自衛隊機のミサイルにより【アザトースの種子】の根が破壊され、遂に地球を脅かしていた邪悪な種子は、宇宙の彼方に吹き飛ばされたということだった。
「それじゃあ・・・。」
『ん?』
神酒はティムの言葉を聞いて、ようやく事態が最高の形で終わったことを実感し始めていた。そしてそれは詩織や輝蘭などの他の仲間たちも同様で、彼女たちは何かを爆発させたいように顔を強張らせているが、何か我慢しているように『ムムム!』と変な唸り声を上げている。
「か・・勝ったんだよね・・・。」
「だよね?そうなんでしょ?」
「そ・・そうだよね・・・。」
次第に心の中に浮上してくる喜びの感情。しかしそれは爆発させるタイミングを逃していたため、上手く表現する方法が誰にも見つからない。
すると絵里子が突然神酒の背中を押して、彼女に奇妙な命令をした。
「ほら、ミキ!勝ち名乗り上げろ!」
「え?あたしが!?」
「そうだよ、ミキ!やりなよ!」
「え〜!?」
神酒は少し困った顔をしたが、みんなはそんな彼女を期待を込めた瞳で見つめていて、それに釣られるように喜びの感情が湧き上がってくる。
だから彼女は最初に半分だけしゃがみ込み、両手でギュッと拳を握った後・・・。
喜びの感情を爆発させ、空に向かって思いっきりジャンプした!!




