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邪神戦争①

 神酒とティムが【アザトースの種子】のほんの200mほど手前まで迫った瞬間、その邪悪な攻撃は何の前触れも無く始まった。おそらく【アザトースの種子】がこの2人を大きな脅威と感じ取ったのだろう。種子はその内部から腐った4元素を吹き出し、遂に彼女たちに研ぎ澄まされた牙を向けたのである。

 神酒がこの場に来たのは、【アザトースの種子】を宇宙の彼方に弾き飛ばす【扉】を召還するティムを守るため。彼女の持つ【切り出された星の銘版】は悪しき波動から身を守るシールドの役割も行うため、その能力を駆使してティムを守ることが目的だったのである。

 神酒はティムを地面に下ろすと、彼女に与えられた使命を果たすために、左手の甲を優しくさすり、その源となる古の呪文を唱えた。するとすぐに邪悪な色彩を放つ4元素とは全く別の澄んだ色を持つ球体が2人を包み、彼女の防御陣は完成した。

 程なくティムが意識を集中し、【アザトースの種子】の背後に巨大な【扉】が姿を現す。しかしその門は閉じたままで、神酒はなぜ開門しないのかをティムに聞いた。


「まだ【扉】は開かないの!?」

『まだだ!まだ4元素のバランスが悪すぎて【扉】は開けない!今開いちゃうと、あいつを吹き飛ばす前に【扉】の方が消えちゃうよ!』

「バランス!?」

『うん!【土】【水】【炎】は上手く働いているけど、【風】がまだだ!』

「【風】っていうと、キララのとこ!?」

『そう!あそこだけには【切り出された星の銘版】が無いから、かなり手こずっているみたいだ!』


 実際【邪神】であるはずの【クトゥルー】【クトゥグァ】【ツァトゥグァ】は、本来人間に仇成す存在だが、今はそれが信じられないほどに素晴らしい働きをしていた。

 【アザトースの種子】が行う邪悪な侵攻には4種類のものがあったが、このおぞましき神格をそれらを押さえ込み、種子の目論見をことごとく打ち砕いていたのである。激しく揺らぐ地盤の歪みと揺れをツァトゥグァが押さえ込み、放たれる混濁した腐水をクトゥルーが竜巻で空の彼方に吹き飛ばし、空気中に悲惨する邪悪な白い炎をクトゥグァが黒い炎で焼き尽くす。それは連携プレーというものでは無かったが、邪神たちは自分の敵が何なのかをはっきりと理解しているようで、自分の元素を侵そうとする存在を次々と消していく。それはそれぞれの【切り出された星の銘版】の所持者である瞬、七海、香楽の思いを汲み取ったものなのかどうかは判らなかったが、それでもこの神格の群れは、今は【邪神】では無く【守り神】として神酒たちの目に映っていたのである。


 しかしその中で、一つ残った彼女たちの心配事が現実になっていた。輝蘭たちが召還を試た【風】の属性を持つ旧支配者イタクァが、リャンが呼び出した【扉】からの召還に応じず、こちらの世界に姿を現そうとしないのである。

 輝蘭の持つセラエノ断章に書かれた下級の旧支配者を操る呪文は、それがこちらの世界に姿を現してから効力が発揮される。そこでリャンは強制的にイタクァをこちらの世界に引き込もうとしたが、この神格は【扉】の開閉部にしがみ付き、大暴れを始めたのだ。

 すでに【アザトースの種子】が放つ4元素の脅威の中の空気に類する部分。それは大量の毒気を含む緑色のガスなのだが、この悪しき気体は石着山中に充満し始め、麓にある鳳町に迫ろうかという広がり方をしている。そしてそれはシールドを持つ神酒たち以外の少年少女たちのもとにも届き、徐々に彼女たちの肺を犯し始めていた。


「な・・なんだ?この臭い空気・・・。」


 先ほどまで調子良く白い凶火をクトゥグァと共になぎ払っていた香楽は、急に辺りに充満し始めた緑色のガスに足が止まり、口を押さえてしゃがみ込んでしまった。このガスは肺に痛みと息苦しさをもたらすだけでは無く、あのやる気満々だった彼女の意欲を吸い取っていくような錯覚を起こさせる。

 【切り出された星の銘版】の所持者と旧支配者の間には精神的な疎通があり、もし彼女の気持ちが萎えてしまったら、邪神の召還は終了してしまう可能性もある。そしてその心配は瞬も七海も同様にあり、3人はなんとか自分の気持ちを再び奮い立たせ、目の前の【アザトースの種子】の魔手を見据えた。


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