モノリスを壊せ③
リャンが表に飛び出すと、彼女はすぐに金属片を持ち作業を続けるビヤーキーの群れに発見された。すぐに魔獣共は奇怪な鳴き声を上げるが、それでも作業を進める手を休めようとはしない。しかしその咆哮はすぐに監視ビヤーキーの耳に届き、このリーダー格の数匹は歪んだ槍を持ち羽ばたくと、一直線に駆けるリャンのもとに向かっていった。
リャンの地を駆けるスピードはなかなかのものだが、それでも空を飛ぶ魔獣共の速さには敵わない。しかしそれはあくまでも直線的なスピードに限った話で、彼女は小回りしながら付近の廃屋の隙間を次々と切り抜けていった。
リャンの目的は、とにかく出来るだけ多くの監視ビヤーキーを真夢から遠ざける事。どうやら金属片を持つビヤーキーは作業の従事にのみ専念するように命令されているようで、リャンが多少スピードを緩めてその傍を通っても、厳しい視線は向けられるが襲ってくる気配は無い。それは真夢にとっては大きなチャンスのはずで、リャンは遠ざかる真夢の居る廃屋にチラリと一度だけ目を向け、彼女がこの事実に気付くよう心の中で祈った。
そしてその思いは真夢に伝わった。
真夢は遠ざかるリャンの姿を見て、彼女の周りにいるビヤーキーは騒ぎ咆哮を上げるが、その1匹としてリャンに襲いかかるものがいないことに気付いたのである。リャンを追うのは槍を持つビヤーキーのみで、しかもそれはリャンの陽動作戦に引っかかり、真夢から遠く離れた場所へと飛んでいく。
チャンスとばかりに覚悟を決めた真夢は、廃屋を飛び出し燭台のもとへと走った。そこまでは10匹ほどのビヤーキーがいるが、それらはどれも作業ビヤーキーのために襲ってはこないはずである。しかしその奇怪で異様な姿は充分に真夢を威嚇していて、出来れば近寄りたくは無い。
真夢は中央の通りを魔獣を避け蛇行しながら走り、一番手前に見える燭台へと全速力で向かった。もう緑の炎が灯る最後の切り札まであと半分。彼女は正直燭台の奪取は確実と確信した。
しかしその時、不意に彼女の頭上を1つの影が通り過ぎた。彼女が頭上を見上げると、そこには槍を持ち羽ばたくビヤーキーが旋回し、今正に真夢に槍を突き立てようとタイミングを計っている。突然の襲撃に驚いた真夢は、条件反射のように右側に飛退いた。
彼女とすれ違うように地面に突き刺さる歪んだ槍。それはその先に何か特殊な液体が塗ってあるらしく、刺された地面に小さな爆発が起きる。
真夢はすぐに立ち上がったが、彼女は目標とする燭台の前に新たな障害が出現したのを確認した。
いつの間にか真夢の正面に並んだ3匹のビヤーキー。それはどれもが歪んだ鈍い輝きの槍を携え、今にも彼女に飛びかかろうと身構えている。これを相手にするのが瞬ならなんとかなるのかも知れないが、戦闘や格闘の経験の無い真夢にとって、この場をそう簡単に切り抜けられるはずが無い。
真夢は思わぬ障壁の出現に、一気に劣勢に立たされてしまった。その障壁はとてつもなく高く、彼女は恐怖で身がすくむ思いだった。
しかしこの時、彼女の背後で聞きなれた声が響いた。その声はリャンのもので、彼女は真夢が振り向くよりも迅く、3匹のビヤーキーに飛びかかった。
真夢は小さなリャンがこの恐ろしい魔獣に攻撃を仕掛けることに、大きな驚きを感じていた。ビヤーキーの恐ろしさは彼女は何度か目撃していて、とてもリャンでは敵わないと思ったのである。
しかし彼女のその思いは、良い意味で裏切られた。リャンは元々夢幻境ドリームランドの出身で、ネコの街ウルタールでは手練と知られた存在であり、彼女はビヤーキーが突き出した槍の上に静止すると、その柄を滑るように駆け上り、魔獣の眼球に鋭い爪の一撃を加えたのである。
魔獣は悲鳴を上げてパニックに陥るが、彼女の快進撃はそこでは終わらない。
続いてリャンは暴れるビヤーキーの背中に飛び乗ると、今度は飛び上がりクルリと反転し、その勢いで2匹目のビヤーキーの顔面を爪で引き裂き、こちらの視界も強引に奪った。
彼女のこの連続攻撃は非常に見事で、真夢の目にはこの行動が体操競技のように鮮やかに映っていた。
「マム!ボケッとするな!」
いよいよ3匹目のビヤーキーと対峙しようとしているリャンが、真夢に叫んだ。
「早く燭台を取れ!まだそれで終わりじゃ無いんだぞ!」
ふっとリャンの言葉に我に返った真夢は、暴れるビヤーキーの横をすり抜け燭台に向かった。そして彼女はとうとう、緑の炎が妖しく灯る燭台を手に入れたのだった。
しかし真夢の本当の目的は燭台の奪取では無い。彼女の真の目的は、燭台の炎で巨大な金属板『モノリス』を破壊すること。だから彼女は炎を消さないように燭台を掲げると、銀色に妖しげな光を煌かせるモノリスへと向かっていった。




