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九頭竜様

 しかしこの親子の温かい会話(?)の途中で、瞬の思い出の中に奇妙なものも一緒に浮かび上がっていた。

 かつて神酒は幼い頃から瞬とは仲良しだったため、祖父が生きていた頃も何度も彼の家に遊びに来ている。もちろん祖父も神酒を孫のように可愛がり一緒に遊んでいたが、その中で瞬は一つだけ、不思議に思っていたことがあったのである。

 この九頭竜様の木像は昔は何度かおもちゃとして扱われたことがあったが、その時に祖父は一つだけ、ある秘密を持つように言われていたのだ。


『シュン。この九頭竜様という名前、ミキちゃんの前では言っちゃダメだよ。』

『どうして?』

『うむ。まあ女の子を相手に、お爺ちゃんと男同士の約束があってもいいじゃろう。どうじゃ?』

『うん、いいよ!』


 瞬は祖父とのこの会話は、幼い頃には当たり前のように聞いていたが、今思い返してみるとなんだか変な感じもする。基本的にあの優しい祖父が神酒に対して意地悪をするなどということは有り得ないし、そもそも秘密にする理由が見当たらない。


「ねえ、お母さん。あの・・・。」


 その時だった。瞬が彼らしいというか、思いも寄らない失敗をしてしまった。

 彼は母に九頭竜様の木像についてもっと詳しく尋ねようと身を乗り出したところ、誤ってバランスを崩してしまったのである。彼は基本的には運動神経が良いので真っ逆さまに落ちるということは無い。しかし彼はバランスを取るために両腕を広げた際に、木像を床に落としてしまったのだ。


「あ!」

「ああ〜!!」

 そして木像は床に落ちると、そのまま音を立てて八方に飛び散るように砕けてしまった。


「シュン!!」

「ああ!ごめんなさい!!」


 母は驚いて床に散らばった破片を拾い集めるが、もう後の祭りだった。それはどう見ても修復は無理なほど粉々に砕けていたが・・・。


 木像が砕ける瞬間、瞬には見えていたものがあった。木像は一瞬だがはっきりと、白い閃光を放ったのである。

 それはどうやら母には見えなかったようで、彼女はガミガミと怒鳴りながら木像の破片を拾い集めている。しかしそれは、確かに尋常とは言えない現象を引き起こしていて、それと同時に彼は体にもう一つの変化を感じ取っていた。

 

 瞬の右足に、フワリと宿るように甦る感触。

 その感触は彼の中の失われていたものを呼び出すノックのように、瞬の体と感覚にほのかに温かく力強いアプローチをかけてくる。

 そして彼がその感覚の正体に気付いた時、怒って彼の頭をポカリと叩いた母を背中に、瞬はそっとズボンの裾をめくり、足のふくらはぎを中心に輝く懐かしい紋章の姿を確認した。

 失われていたはずの、瞬の【切り出された星の銘版】。

 それがあれから3年の時を越え、再び彼の右足に宿ったのである。


「・・・銘版が、戻った・・・?」


 瞬は【切り出された星の銘版】の姿を確認し、驚きと同時に喜びの表情を浮かべた。

 本来それは旧支配者という名の【邪神】の紋章であり、言い換えれば邪悪さを体に刻み込んだ証拠と言えないことも無い。しかしそれはあの4年前のロズウェルでの事件の際に、太古の世界の旅で死に別れた親友ウフとの友情の証でもあり、男としての強さの象徴とも彼は考えている。

 テレビのヒーロー好きでもある彼は、再び自分の体にビヤーキーともまともに対峙できる能力が宿った事を理解し・・・要は子どものように喜んでいた。


「ところで・・・どうして九頭竜様からクトゥルーの銘版が?」

?????


「まさかクズリュウって・・・・クトゥルーのこと??」

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