表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/78

赤い本

 真夢はその頃、とりあえず最初に選んだ本に一区切りをつけ、どこかに行ってしまった詩織を探していた。図書館自体はそんなに広くは無いのだが、本棚の数が多く全体が見渡せないため、探し人には少々手間がかかるのである。

 真夢は児童図書棚から一般小説の並ぶ棚へと移動したが、それでも詩織は見つからない。もう生徒たちが学校に戻る時間も迫っていたため、彼女は違反と知りつつも少し走って館内を回ろうと考えたが、その時彼女に少し奇妙な事が起きた。不意に背の高い棚から1冊の本が落ちてきて、真夢の頭にコツンと当たったのである。

 それは、図書館に置かれるには少々奇妙な本だった。本は表裏とも一面に鮮やかな赤で色付けがしてあり、表題が書かれていない。しかしその隅には小さく添え書きがしてあり、何が書かれた本かは全く想像できない。


「・・・『読む人により、内容が変わります』か。なにこれ?」


 真夢は不思議に思い赤い本を開くと、そのページをペラペラとめくってみた。しかしその中は全て白紙で、どこにも文字も挿絵も書かれてはいない。ずいぶん落丁の激しい本と思い、真夢はそれを本棚に戻そうとしたが、その時赤い本に不思議な現象が現れた。真っ白だったページにゆっくりと文字が浮かび上がり、奇妙な一文を完成させたのである。


『詩織が本を読むのは危険』


 それは短い文だったが、真夢にはすぐに理解できた。この赤い本に書かれた『詩織』という名前は、決してこの本自体に偶然に記されたものでは無く、真夢がよく知る椎名詩織を指しているということを。

 だから彼女は本を急いで戻して詩織を探そうとしたが、更に奇妙な出来事が起きた。今度は先の文が消えると、先ほどとは異なる内容の文が本に浮かび上がったのである。


『詩織は本を読まなければならない』


「え?どういう意味?」


 相反する2つの文。真夢はその意味をなんとか理解しようと考えたが、この2つの短い文だけでは情報が少なすぎる。


「ねえ、どういう意味?危険だけど読まなければいけないって、どういうこと?」


 真夢は文の真相を本に問い質そうとしたが、赤い本はそれっきり何の反応も示さない。彼女はすっかりと疑問の溝に陥ってしまい、しばらくその場に留まっていたが、やがて集合時間が迫った頃に、そこに詩織が現れた。彼女は先ほど手に入れた【黄衣の王第2幕】を脇に携え、不思議そうにたたずむ真夢を奇妙そうに覗いている。


「マム。変な顔して、どうかしたのか?」

「あ、シオリちゃん。」

 真夢は詩織の姿を確認すると、手に持っていた赤い本を差し出した。

「あのね、シオリちゃん。この本知ってる?」

「なにそれ?ずいぶん派手に赤い本なのだ。」

「うん。それでね、この本にシオリちゃんの名前が書いてあって・・・。」


 その時だった。

 突然真夢が持っていた本が、大きな煙を吹き出した。驚いた真夢が本から手を離すと、それは真っ赤な炎を伴い燃え上がり、図書館の火災警報器が大きなサイレンを鳴らした。

 それは一瞬の出来事で、館内の訪問客は全て館外に避難することになったが、あの赤い本はすっかりと燃え尽き、完全な灰と化してしまったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ