表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/78

隕石を調べろ

 ここ数日の話だが、絵里子は石着山に出かける機会が多くなっている。今日も彼女は石着山の奥にある【紅羽】に向かうため、かつて『雛の森』と呼ばれていた領域の手前にある黒苺の木の前にいた。七海がフェニックスセンターで言っていた通り、彼女は趣味のミステリー調査を決行するために、まだ多くの残雪があると思われる紅羽を目指していたのである。

挿絵(By みてみん)

 本来の絵里子の目的は、前に詩織や真夢に聞かされた、紅羽の奥のモミの木に眠ると言われている『花子さん』について調べることだったのだが、先日起きた隕石騒ぎは興味関心を大きく増幅させていたため、彼女の調査熱にはさらに強力な拍車がかかっていた。


 今の彼女の一番大きな目的は、もちろん隕石の破片を採取し、それを神酒たちに見せびらかすこと。それは一般に考えればほとんど意味など無い行為なのだが、絵里子にはそんなことは関係無い。隕石落下の後には数機の自衛隊のヘリやアメリカ軍のオスプレイが石着山に向かったのを目撃した町民が何人もいて、彼女の企みの達成は困難かもとも思ってはいたが、今まで石着山への本格的な趣味的調査をあまり決行したことは無かったので、例の『花子さん』ともども一緒に調べてしまおうと考えていたのである。


 黒苺の木の奥は、一般に『雛の森』と呼ばれている。ここは昔から鳳町民には『呪われた地』として言い伝えられていた歴史があり、幼くして病気や怪我で亡くなった子どもたちの魂が集まる場所とされている。しかしその真相とされる事件に、彼女は【当事者】として巻き込まれていた過去があり、絵里子には今は『雛の森』への恐怖感は無い。だから彼女がさらにその奥の紅羽へと向かう足取りは意外に軽く、その道のりの行程の半分ほどは、あっという間に歩ききっていた。

 

 しかし、それからしばらくしてのことだった。彼女はうっそうと常緑針葉樹と落葉広葉樹が生い茂るはずの森の様子が、どこかおかしいことに気付き始めていた。

 彼女の調べによると、この大森林はかつて人が住んでいた紅羽の開拓地まで続くはずなのだが、その途中から倒木が目立ち、木々の密度が次第に薄まってきたのである。倒木はどれも同じ方向に頭を向けていて、これから絵里子が向かう方向から大きな衝撃を受けたような印象がある。

 倒木には黒く焼け焦げた跡があり、それに伴うようにあるはずの残雪もすっかりと姿を消していて、彼女はこれは隕石の影響ではないかと薄っすらと気付き始めていた。


「結構大きな隕石だったのかな?この辺丸こげじゃん。ツングースカみたい。」


 絵里子が進む先の森は、さらにいっそう密度が下がり、炭化したような倒木も多く目に入ってくる。そして紅羽までもう少しの所まで迫った時、彼女はある物を発見し、その驚きに思わず声を上げてしまった。

 

 目前に広がる、木々をなぎ倒したようにして生まれた巨大なクレーター。その中心にはフットボールのような流線型のゴツゴツした球体が縦に突き刺さっていて、大気圏突入により生じる高温の痕跡がまだあるらしく、蒸気とも煙とも判らない白煙を上げている。本来隕石は落下の衝撃で砕けるものだが、この隕石の流線型は非常に規則的で、どこかが砕けてこの形になるには不自然に感じられる。隕石の大きさは遠目で判り難いが、直径は5mほどだろうか?クレーターの半径はざっと見ても100m以上はあり、その周りには調査のためと思われる数機の自衛隊のヘリが着陸している姿が見えた。


「きさま!そこで何をしている!?」


 不意に横から、絵里子に向かう野太い男の声が聞こえた。彼女が横を向くと、そこには白と黒の厚手の迷彩を身に付け、銃を構えた自衛隊員らしき男が、厳しい顔つきで絵里子をにらんでいる。

 もしかしたら自衛隊が辺りの警備をしているかも知れないと予想していた絵里子は、ほのかに『当たり〜!』と心の中で声を上げていたが、その後の事については何も考えていなかったので、とりあえずこの自衛隊員の顔を見た。


「何って、隕石見にきたんだけど。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ